SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

4. CFRP製フライホイールで世界最大となる5.7kWhの電力貯蔵を達成
―高温超電導大型フライホイールの開発に目途
_石川島播磨重工業、ISTEC_


 石川島播磨重工業(IHI)と国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)は、高温超電導フライホイールの開発において、従来からの課題であった大型フライホイール本体の製造技術及び振動制御に関する技術課題を下記のようにほぼ解決し、毎分12,000回転の高速回転でCFRP(カーボン繊維強化プラスティック)製では、世界最大となる5.7 kWhの電力貯蔵を達成、大型化への見通しを得たと発表した。

 高温超電導フライホイールは、高温超電導軸受がもつ強い浮上力と低い回転搊失を利用して、フライホイールを高速回転させることにより電気エネルギーを回転エネルギーに変換して電力貯蔵を行うシステムである。電力貯蔵容量を大きくするためには、フライホイールの大型化及び高速回転が必要だが、これを実現するには、

(1) フライホイール本体の大型化技術
(2) 高速回転に伴う回転搊失の少ない軸振動制御技術

の開発が大きな課題であった。

 今回、(1)に対しては、高速回転に伴い増加する回転体のアンバランス変動を抑制することが可能な直径1mのCFRP製フライホイールを周方向に均一に製作する技術を確立した。(2)に対しては、制御型磁気軸受のエネルギー搊失低減のために、ゼロパワー制御方法(注1)に高速回転での振動安定化制御を組み合わせることで、高速回転を可能とするとともにエネルギー搊失を従来制御に比べて約1/3に低減することができた。これらの成果により、並行して開発している高温超電導軸受と制御型磁気軸受の併用により低搊失、大型超電導フライホイール電力貯蔵装置の開発の見通しを得た。

 超電導フライホイール装置は、データセンター用無停電電源や風力発電等の自然エネルギー対応電源、将来的には夜間の電力をフライホイールにより貯蔵し、貯蔵電力を昼間に消費することで、昼夜の消費電力を平準化して、電力設備の時間的な負荷の均等化を図ることを目的に開発が進められているものである。この技術開発は、経済産業省の革新的温暖化対策プログラムの下、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「フライホイール電力貯蔵用超電導軸受技術研究開発」プロジェクトの一環として進められている。

 本プロジェクトは、ISTECをリーダーとして、四国総合研究所、IHI、光洋精工、住友特殊金属、イムラ材料開発研究所が参画して進めている(平成12~16年度)。15年度に高温超電導軸受を用いた10 kWh級フライホイールの組立試験をIHI横浜事業所内で行い、16年度にフィールド試験を四国総合研究所(松山)で約6ヶ月間行う計画となっている。 上記の記事についてIHI技術開発本部の斉藤忍主席技監は「コンピューターデータセンター向けなどの小型無停電電源装置としては、17年から18年には実用化が視野に入る」とコメントしている。

(注1) ゼロパワー制御:
電磁石は吸引力しか発生できないため、通常は対象物の両側に配置した電磁石に一定電流を与え、両電磁石とも磁気力による吸引状態にして対象物の位置を制御する。しかしながら、回転するロータから見ると電磁石付近を通過するたびに磁場変動を受けるためロータ表面には渦電流が流れ、回転エネルギーが消費される。ゼロパワー制御ではこの磁場変動を抑制するためにロータが遠ざかった磁極にのみ制御電流を与える。これにより、制御に必要な最小限の電流となり搊失が低減される。この方法は、回転エネルギーの搊失低減ばかりでなく、電磁石コイルで消費される熱エネルギーの抑制にも有効である。この方法は千葉大学の野波教授らが原理を考案したもので、実機に搭載したのは初めてである。


図1 フライホイール装置


図2 CFRP製ロータ (回転部分)

          

(こゆるぎ)