SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

2. 古河電工、欧州合同原子核研究機構(CERN)より特別賞受賞


 5月16日、古河電工はヨーロッパの素粒子物理学研究の中核をなす欧州合同原子核研究機構(CERN:European Organization for Nuclear Research、スイス・ジュネーブ)より、大型ハドロン衝突加速器(LHC:Large Hadron Collider)で使用される主超電導双極磁石アウターケーブル用Cu/NbTi複合多芯成形撚線製造における貢献(Outstanding performance in production for LHC) に対してのゴールデン・ハドロン賞を受賞した。

 今回の受賞の対象となった成形撚線は、直径0.825mmの素線36本を撚ると同時に幅15.1mm、中央厚さ1.48mmのくさび型断面形状に高密度に圧縮成形した平角撚線で、それぞれの素線は、直径6mmのNbTiフィラメント6,426本がそれぞれ1mmの間隔を有して螺旋状に無酸素銅に埋め込まれ、表面にSn-Agメッキが施されたものである。LHC加速リング全体で千数百台にも及ぶマグネットの均質性確保の観点から、寸法、Cu/NbTi面積比、Sn-Agメッキ厚さ、臨界電流(4.2Kと1.9K)、磁化幅等の特性、および原材料の組成について厳格な規格と範囲が設けられている。例えば素線Ic、Cu/NbTi面積比、磁化幅では、仕様値に加え、量産初期の5ビレットで得られた平均値(CL)に対するそれ以降の厳しい変動幅制限が設けられている。さらに特性一貫性の観点から、量産着手後は原則、工程条件を変更(改善も含む)してはならないという、今までに例を見ない高度な管理レベルで量産が行われている。

 これほど厳格な量産となると、特性ばらつきの少ない加工熱処理条件の初期選定、線材メーカーとCERNの間の測定精度の合致、およびSPC(Statistical Process Control)手法活用による異常トレンドの早期検出が極めて重要となる。古河電工はこれらについて精力的に取組み、世界最高の電気的・機械的特性の均質性を達成した。例えば、素線Jcと銅比の変動係数(s/Avg.)はそれぞれ1.02%、0.78%と、極めて安定した値を維持している。一方、加工技術の面では、生産スピードに致命的な影響を及ぼす伸線加工中の素線断線について、QA(Quality Assurance)およびTPM(Total Productive Maintenance)手法に基づく改善を行い、断線頻度の低減(平均0.09回/km、一部無断線)に成功した。また成形撚線加工については、絶縁テープ搊傷の原因となるシャープエッジ発生の問題を世界に先駆けて解決した。

 上記の活動を通じ、古河電工はLHC建設プロジェクトにとってキーコンポーネントであるこの成形撚線(約100トン)を安定供給してきた。今回の受賞はこれらが評価されたものである。同社超電導製品部部長の目黒信一郎氏は、「大変吊誉ある賞を戴いた。本プロジェクトを通じて得た固有技術面・管理技術面での知見は大変貴重なものであり、今後更に発展させ、既存の製品やITER等の大型プロジェクトに展開していく」とコメントしている。


図1 LHCアウターケーブル(左)
及びそれに用いられるCu/NbTi複合多芯超電導線(右)

          

(う巻き)