SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

13. ≪書評≫『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい 超伝導の本』


下山 淳一 著 日刊工業新聞社 2003年
ISBN:4-526-05103-9 1,400円

 高温超伝導が出現した1986年末、著者の下山氏は東大工学部応用化学科笛木研修士学生であった。La-Ba-Cu-O系高温超伝導体のニュースは物理工学科田中研・総合試験所内田研の確認実験によりもたらされた。実験を行った学生は笛木研の卒業論文の学生で内田研に預けられ、高木助手を手伝った金沢君であった。つまり下山氏にしてみれば自分の後輩が高温超伝導を世界で最初に確認したことになる。

 すぐに当時の岸尾助手の指揮により笛木研の学生たちも高温超伝導物質の探索と同定に参加する。彼らは数日の間にLa(Sr)214系を発見、臨界温度が10Kも上がった。そこで、彼はこの物質としての純良性をとことん追求し、物性測定に耐える試料を作ろうとした。その間に発見されたY-Ba-Cu-O系はSrにこだわった彼の物質探索の視野に無く、下山氏はまたもくやしい思いをする。但し当時のY-Ba-Cu-O系試料はいずれも超伝導への転移がシャープでなく、物質が上均質であった。彼はその原因が酸素にあることを突き止め、徹底的に酸素を吸わせることが高温超伝導体の表面・界面付近の性質をよくすることを見出し、熱天秤を用いて、酸素の含有量における異常に大きな上定比性を発見した。上定比性を種々の温度・圧力下できちんと測定した彼の論文はその後長期にわたり研究室の被引用件数の最も多い論文となった。ともあれ、学生だった下山氏は高温超伝導における酸素の重要性を世界で最初にきちんと報告したひとである。

 氏はその後、旭硝子の中央研究所、科技庁の金材研を経て、現在、東大工学部応用化学科の助教授と、ずっと高温超伝導の研究をしてきた。このような著者が「トコトンやさしい超伝導」を書くというのだから、誰もが注目した。何しろ本の題目がすごい。本を購入したひとが消費者苦情センターにでも詐欺として訴え出たらどうなるのであろう。

 冗談はともかくとして、超伝導は多体問題であるために、そして、ボーズ凝縮という本質的に量子力学的な効果であるために高度な固体物理学を学んだ者しか理解できないとされる。「トコトンやさしい超伝導の本」は多くの一般のひとたちが待ち望んでいた書である。著者は必死になって易しく説明しようとしている。スーパーコムの読者には「これで超伝導が理解できたら苦労はないだろう」などと著者が悪戦苦闘している姿を思い浮かべつつ酒の肴にすることのできる興味深い本である。

(PKK)