SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

12. 平成14年度第3回新磁気科学調査研究会報告


 第3回調査研究会は4月3日(木)、東京大学にて「機能性酸化物材料の磁場印加効果」の内容で、東京大学大学院工学系研究科助手の堀井滋氏を講師にお招きして開催された。堀井氏は、日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業「強磁場下の物質と生体の挙動」の岸尾プロジェクトリーダーの研究室に所属しており、熱電材料や超伝導体の作製プロセスへの磁場影響に関する研究で活躍している。当日は、東大・岸尾研究室で進められているプロジェクトに関する最新の情報を詳細に講演いただいた。

 講演内容は大きく分けて1)種結晶無しのRE123超伝導体(RE=Y, Ho)溶融バルク作製プロセスに対する磁場効果、2)種結晶から成長させたRE123超伝導体溶融バルク作製プロセスへの磁場効果、3)高い熱電特性を有する層状コバルト酸化物における磁場配向体の作製と機能性、4)強磁場用フローティングゾーン(FZ)結晶育成装置の製作、の4項目であった。1)、2)のRE123超伝導体に関しては、溶融凝固時の上純物として含まれる211相の粒径が磁場配向に影響を与える可能性が示唆された。また、種結晶を使用した場合には溶融凝固過程での印加磁場に依存して臨界電流密度が大きくなる傾向が見られている。この現象は、結晶性の向上でおおよそ理解できるとし、今後、磁気力の作用によって凝固体に含まれるRE211相の粒径分布の制御を図るなどさらに詳細な実験を行う予定であるという。

 3)のコバルト酸化物(Ca3Co4O9+y、[Ca2Co1.3Cu0.7O4]0.62CoO2)の磁場配向体作製に関しては注目すべき結果が紹介された。上記のコバルト酸化物は熱電特性に優れ高温での廃熱発電用に研究が進められているが、c軸方向の磁化率が大きいために、磁場中でc軸配向することが期待される。まず、これらの粉末を溶媒と混合しスラリーを作製、室温および3Tの磁場中で乾燥した後、SPS(Spark Plasma Sintering)処理を行うことで相対密度が約98%程度で且つ非常に良い配向体が得られることが分かった。また、機能面においても、配向化試料は単結晶レベルの電気伝導性を実現し熱電材料としての出力因子も劇的に向上することが報告された。熱電材料の単結晶作製に比べ、磁場による配向試料の作製は、得られる試料の大型化、省力化の観点から非常に有利なプロセスであるという。熱電材料の作製プロセスへの磁場印加効果はこれまで注目されておらず、それだけに興味深い結果だといえる。磁気的異方性を有する熱電材料では、磁場中での作製プロセスが有効である事が示されたので、今後の関心は、いかにその性能指数を実用化できるレベルまで向上させるか、ということへ注がれてゆくようだ。

 4) の強磁場用FZ装置は、最大8Tの磁場中でFZ法による結晶育成を可能にするものである。光源にはYAGレーザー(1064nm)を利用しており、集光性が良いため溶融部での急激な温度勾配を実現できるとのことである。実際、溶融部分と固相との境界面は非常に鮮明であり、大きな温度勾配を実現していることが推測される。既にBi系酸化物超伝導体を対象に試験的な単結晶試料の作製も行なわれており、主として温度勾配の効果と考えられるが、結晶成長速度を高くしても従来と同等の品質の結晶が得られるという興味深い結果が得られているという。今後は対象を他の物質系にも広げてゆくという事であるので、さらに磁場あるいは磁気力の効果を加えたときどのような結果が得られるかが楽しみである。

(東京大学:中村浩之)