SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

10. パルス管冷凍機の実用化が国内でも始まる


 先の2003年度春季低温工学・超電導学会(5月21日から23日、産業技術総合研究所つくばセンター)において、パルス管冷凍機の本格的な実用化を目指した研究開発が報告された。

 東京大学物性研究所極限環境物性研究部門の久保田実助教授らのグループは、4Kパルス管冷凍機と希釈冷凍機を組み合わせ、超低温領域での精密物理計測を目指した検討を行っている。低振動性、低ノイズ性というパルス管冷凍機の特長を生かした応用例と言える。

 米国クライオメック社の4K冷凍機(PT4-07)を購入し、冷凍能力などの冷却性能を評価した。起動後45分で4.2Kに到達し、最低到達温度は1stステージが31.3K、2ndステージが2.55Kであった。また、1stステージに30W、2ndステージに0.7Wの熱負荷を加え、それぞれ39K、4.2Kを維持できることを確認した。1stステージの冷凍能力に余力があることが、超低温装置など輻射シールドの熱負荷が大きくなる応用にとって大変好都合であるとしている。圧縮機ユニットと冷凍機ユニットを接続するヘリウムガスホースから大きな運転音(ガスの通過音)と振動を発生した。運転音の大きさはホースの長さに依存し、短いホースに交換すると大きく減少した。パルス管冷凍機を搭載したクライオスタットの常温フランジ部の振動を計測し、床の振動が圧倒的であることを確認している。常温部の振動、冷凍機のコールドヘッド部(4Kステージ部)の振動が希釈冷凍機システムの冷凍性能と精密計測に与える影響を評価することが今後の課題である。

 早稲田大学、豊橋技術科学大学、産業技術総合研究所、明治大学、岩谷瓦斯のグループは高温超電導SQUIDを用いた非破壊検査装置に1段のパルス管冷凍機を搭載し、フィールドでの検査装置を目指した開発を行っている。

 近年スペースシャトルや航空機の一部に使用されているカーボン系複合材料(CFRPなど)に発生する疲労等による欠陥を非破壊で検出することに成功している。システムの実用化と普及のためには、取り扱いを容易にしてコンパクトにすることが必須と考え、冷凍機による冷却を評価している。環境磁場中での計測を可能にするため、1次微分型の平面型グラジオメータタイプのSQUIDセンサを75Kに冷却している。冷凍機が発生する機械的な振動と磁気ノイズを低く抑えるため、非磁性材料からなる小型で軽量な同軸型パルス管冷凍機を岩谷瓦斯が新たに開発した(PDC-08型、冷凍能力9.5W@77K、消費電力約800W)。SQUIDを設置するステージと冷凍機のコールドヘッドを分離し、軟らかい銅の細線で接続し、SQUIDステージ部の振動を0.5mm程度(システムノイズと環境磁場分布から算出した推測値)に抑えている。システムノイズは180pTとやや高いが、デジタル信号処理を用いないで液体窒素で冷却した場合と同等のノイズレベルを実現している。

 今後の課題は、フィールドでの計測を可能にするために環境ノイズ除去手法を確立することと、よりハンディな計測システムを可能にするために消費電力を100W以下に低減することが可能になるスターリング型パルス管冷凍機を搭載したシステムの実現となる。

 これらの応用例では、ともにパルス管冷凍機が発生する機械的な振動が問題になっている。特に冷凍機のコールドヘッド部の振動(変位)が重要である。パルス管冷凍機は低温部に稼動部を持たないため加振力が小さく、常温部の加速度は小さくなる。しかしながら、冷凍機内部の圧力脈動によって冷凍機シリンダが伸び縮みし、これによって発生するコールドヘッド部の振動は、従来のGM冷凍機と同等である。クライオメック社が学会で報告した結果では、コールドヘッド部の変位が50mm程度となっている。これに対し、ダイキン工業はコールドヘッド部の変位を小さく抑えた4Kパルス管冷凍機を開発した。図1にパルス管冷凍機の外観を示す。パルス管冷凍機のシリンダ部の剛性を最適化した。冷却性能は、最低到達温度3K以下、消費電力3.3kWで冷凍能力0.1W@4.2Kとなっている。

ダイキン工業半導体機器部の藤本修二氏は、「ほぼ従来と同等の冷却性能を維持しつつ、コールドヘッド部の変位を約1/10のレベルまで低減することに成功した。光学計測などの精密計測では計測サンプルの揺れを低く抑えることが可能になる。液体ヘリウム冷却システムに、より近づいたレベルの低ノイズ計測が可能になり、今後、超精密計測分野への展開が期待される」とコメントしている。

          


図1 低振動型4Kパルス管冷凍機の外観

(久しぶりの筑波山)