SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.3, Jun. 2003

1. LHD実験でイオン温度8,100万度を達成
_核融合科学研究所_


 核融合科学研究所では、磁場閉じ込めコイルを総て超伝導化した大型ヘリカル装置(LHD)を用いて5年間に6回の長期プラズマ実験を実施するなど、精力的な研究が行われている。LHD第6サイクルのプラズマ実験は、2002年10月1日に開始し、2003年2月7日までの18週間に亘って行われた。第6サイクルでは高イオン温度の達成を目標として、中性粒子入射加熱(NBI)のイオン源の改良により、入射パワーを前サイクルの9MWから10MWに増強している。また、通常の水素ガスの代わりにアルゴンガスを用いることにより、1)NBIからプラズマに付与されるパワーの増加、2)イオン温度の保持時間の延長などの効果を図った。結果として、アルゴンプラズマに10MWのNBI加熱パワーを入射することにより、8,100万度の高イオン温度の達成に成功した。

 図1にイオン温度8,100万度達成時の放電波形を示す。同時に、前サイクルまでの最高イオン温度5,800万度の保持時間0.05秒に対し、10倊の0.5秒間の保持に成功している。近い将来、電子温度とイオン温度がともに目標の1億度を達成することが期待される。

 LHD第6サイクルの運転経過を図2に示す。2002年8月5日に低温システムの精製運転を開始し、2003年3月10日に全体システムの加温を完了した。超伝導コイルを極低温に保った定常運転時間は3,438時間、圧縮機起動から停止までは4,922時間の安定な連続運転を行っている。1998年の実験開始から、第6サイクル終了までの積算運転時間は27,010時間、超伝導状態を維持した定常運転の時間は18,441時間、コイル励磁回数は693回、プラズマショット数は41,211回に達している。

 LHDの超伝導システムは5年間の安定な運転に於いて高い信頼性を実証しているが、磁気軸中心磁場3T近くの高磁場励磁において、部分的な常伝導領域の発生後、超伝導状態に回復する現象(動的な常伝導伝播)が観測されており、定格3Tでの運転を妨げている。LHDの更なる高性能化と安定な高磁場運転を可能にするため、3Kの過冷却ヘリウムを用いた流動冷却によって、ヘリカルコイルの冷却安定性を向上させる過冷却改造が計画されている。過冷却の効果を実証するため、ヘリカルコイルと同じ導体を用い、冷却構造を模擬したR&Dコイルによる過冷却実験が2002年度に実施された。4.4 Kの通常冷却状態及び3.8 Kの過冷却状態での実験結果の比較から、擾乱により動的な常伝導伝播が起きるコイル電流値が約7%上昇し、常伝導部の発生に必要な擾乱エネルギーも10~20%増加することが明らかとなった。

 大型ヘリカル研究部・装置技術研究系の三戸利行研究主幹は「この結果、過冷却の有効性と同改造によってLHDの安定な高磁場運転が可能になることが示唆された」と述べている。


図1 イオン温度8100万度達成時の放電波形
(上)イオン温度 (中)電子温度 (下)電子密度


図2 LHD第6サイクル運転経過

               

(TM)