SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.2, Apr. 2003

2.高温超伝導SQUID応用研究の最新動向


 国内におけるSQUID、特に高温超伝導SQUIDの応用研究が活発化している。最近のトピックスとして、LSIの故障解析装置(図1)、金属鉱床探査、食品検査についてレポートする。

1. LSI故障解析(日本電気評価技術開発本部 二川 清氏)

 SQUID自体は必ずしも高い空間分解能を有していないが、シャープに絞ったレーザを照射することにより、半導体に発生する微小光電流を、その磁場によりSQUIDで捉えることができるようになり、レーザの高空間分解能とSQUIDの高磁場分解能を相補的に利用できる。日本電気では、この手法をLSIの故障解析に応用する研究を精力的に進めている。

 図1(p.1)には、日本電気が開発中のLSI故障解析用レーザSQUID顕微鏡の外観写真を示す。現在半導体工場で生産に用いられている直径300mmの大型ウェハを検査可能とする装置である。ウェハは大型非磁性のステージに装着する。レーザは波長1064nmを用い、ガルバノメータによりウェハ下部から走査する。そのため、レーザ走査光学系は装置の下側に取り付けられている。一方高温超伝導SQUID(住友電工ハイテックス製)は装置上部に取り付けられ、液体窒素冷却動作するようになっている。装置の主要な部分はパーマロイ磁気シールドにより磁気遮蔽されている。この装置によりすでに図2のような50ミクロン角領域の明瞭なLSIの微細構造が得られている。空間分解能は0.9ミクロン程度である。開発を担当している日本電気の二川清氏によると、この空間分解能で十分LSIの故障解析に利用可能であり、今年中には半導体工場での利用が始まるとのことである。この故障解析方式は、プローバやソケットによる電気的接線が上要であり、故障箇所の絞込み効率向上や絞込みコスト低減に大きく寄与する可能性があり、装置の普及が半導体産業の競争力強化にも大きく貢献できるとともに、高温超伝導SQUIDの応用機器の普及が近々にも始まることが期待できる。

2. 金属鉱床探査

 地下に埋蔵している金属鉱床の探査に、高温超伝導SQUIDを用いる研究開発が、金属鉱業事業団により進められている。これは従来探査装置と比べて、より深い鉱床の探査を可能とするものである。

 地上に数10m角または円のコイルを設けて電流を流し地下に向けて磁場を印加しておき、電流を遮断すると、地下には磁場の遮蔽電流が発生し、地下の電気抵抗により減衰する現象が起こる。探査法の概念図を図3に示す。この電流の減衰を磁場の減衰として観測し、地下の電気抵抗を得ることができる。従来は、センサとして誘導コイルが用いられていたが、低周波に対する感度が低く深部探査が難しかった。これに対しSQUIDでは、低周波でも高感度を維持できるため、深部鉱床探査が可能となる。

 SQUID金属鉱床探査装置は、すでに住友電工ハイテックスにより試作されている。図4にはSQUID磁気検出部を、また図5にはSQUID電子機器およびデータ収録装置の写真を示す。野外での探査を必要とするため、バッテリーによる動作が可能となっている。SQUIDは液体窒素冷却動作である。すでに国内数箇所において断層調査などの試験を繰り返しており、金属鉱床探査装置としての機能確認が進められている。金属鉱業事業団技術開発部探鉱技術開発課の荒井英一氏によると、平成15年度にも最終的な実用機を仕上げる予定とのことである。野外におけるSQUIDの応用は、高温超伝導SQUIDの開発により、はじめて実用の可能性が見出せたものであり、野外応用の多様なSQUID応用の可能性を示した点でも今後期待が持てる。

3. 食品検査

 アドバンストフードテック(豊橋市)は、食品、特に食肉に混入する金属異物の検査装置として、高温超伝導SQUIDの利用を目指した開発を進めている。アドバンストフードテックの富川達也氏によると、これまでの金属探知機では、食品の水分状態や塩分濃度などにより装置の調整が必要であり、また感度も必ずしも十分とはいえなかった。しかし、SQUIDを用いるとこれらの影響がほとんどなくかつ高感度化が期待できるという。すでに本格的な装置の試作が進められている。平成15年2月12日から14日までビックサイトで開催された国際食肉産業展には、図6の食肉用異物検査SQUID装置が展示され注目を集めた。加工された部分肉を非磁性のベルトコンベヤーに乗せて、まず手前の磁化コイルを通し、垂直方向に磁化させた後、磁気シールド内に搬送する。SQUID(住友電工ハイテックス製)は磁気シールド内に設置されており、異物を検出することができ、連続した検査が可能となっている。この装置は食肉加工工場に設置され、従来装置を上回る検出感度を達成しており、平成15年度には商用機を仕上げる予定とのことである。最近では、食の安全が強く意識されるようになっており、多様な食品検査においても利用されることが期待できる。

 以上、最近の高温超伝導SQUIDの応用機器開発についてのトピックスを紹介した。いずれの機器開発においても、原理的な実証をふまえての実用機器開発の段階にあり、商用化も間近に迫っている。ここで紹介した以外にも、心臓などの生体磁気計測、航空機などの非破壊検査、磁気ビーズを用いたバイオ検査などの開発について、装置開発が精力的に進められており、高温超伝導SQUID応用機器市場の立ち上がりが目前に迫っていると言えよう。


図1 LSI故障解析装置(NEC)


図2 LSIのレーザSQUID-NQR顕微鏡イメージ(NEC)


図3 金属鉱床探査SQUID装置(金属鉱業事業団)


図4 SQUID検出部(金属鉱業事業団)


図5 SQUID電子回路(金属鉱業事業団)


図6 食品検査SQUID装置(アドバンストフードテック)

          

(物質・材料研究機構:糸崎 秀夫)