SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.2, Apr. 2003

13. 2002年度第 1回新磁気科学調査研究会報告


 上記会合が2002年11月東京大学工学部にて、テキサス大学の Paulo J.Ferreira 助教授を講師にお招きして行われた。

 講演の内容は強磁性形状記憶合金Ni2MnGaの磁場バリアント制御とBi系超伝導の磁場配向についてであった。形状記憶合金は、身近なところでは携帯電話のアンテナとして使われており、その最大の特徴は、大きな変形(歪)を加えても元の形状に戻ることである。強磁性形状記憶合金は磁石と形状記憶合金の両方の性質を兼ね備えた材料で、TiNi合金のような通常の形状記憶合金では温度と応力により形状制御するが、強磁性形状記憶合金では、これらに加えて磁場を用いる事ができる。実際に磁場を印加することにより大きな歪が現れる合金として、現在までにNi2MnGa、Fe3Pt、Fe-Pd合金が見つかっている。

 Ni-Mn-Ga合金ではマルテンサイト相に1T程度の磁場を印加することで双晶磁歪が発生する事が報告されているが、今回の調査研究会においてFerreira 博士は強磁性の自発磁気モーメントに注目し、磁場下での磁気モーメントの回転にともなう静磁エネルギーの減少という観点から、定量的な議論を展開された。計算によれば、0.6~0.9Tオーダーでバリアントの制御が可能で、これは実験事実とよく一致する。

 しかし、実際に磁気アクチュエータとして使うためには、キュリー温度が約363Kと比較的高いにもかかわらず、マルテンサイト変態温度は202Kと低いという問題が残る。動作中の温度上昇も考慮するとキュリー温度・マルテンサイト変態温度が373K以上で且つ室温での飽和磁化・磁気異方性が高い材料が望まれる。

 Bi系超伝導体の磁場配向については、現在進行中であるという実験を具体的に作製プロセスから報告された。最後に結論としてBi2212/Ag溶融凝固厚膜の作製時に降温過程で均一磁場を印加することが重要であることを述べられ、この研究会は幕を閉じた。近年の低温技術および超伝導技術の進歩により、10T級の強磁場環境が比較的容易に利用できるようになってきた。材料科学においても磁場を材料作製プロセスに導入し、材料の機能性を制御しようとする試みが活発になっている。例えば、融液相における対流抑制効果、結晶磁気異方性や形状磁気異方性を利用した材料創製があげられる。一方で、包晶反応のYBaCuO超伝導材料の溶融凝固過程における磁場効果など、一定の効果は見られるが、結晶成長時に磁場が及ぼす支配因子がまだ理解されていない系も多く、今後この分野での研究に注目していきたい。

(東京大学:杉岡 武也)