SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.2, Apr. 2003

12. 続・誌上討論『各分野間の交流による融合的研究を目指して』


 新春号(通巻61号)に掲載された誌上討論『各分野間の交流による融合的研究を目指して』の記事は、すでにご覧頂いているかと思います。基礎分野の田島氏、材料分野の室町氏、応用分野の秋田氏、エレクトロニクス分野の山下先生がそれぞれの立場から貴重な意見を述べておられます。

 そこで、基礎分野の皆様にも是非常日頃考えている問題意識を開陳して頂きたく、以下の方々より秋田氏の質問に対する回答と合わせて、問題意識等のご意見を寄せて頂きました。ご発言が材料あるいは応用分野へ伝わり、反響してより大きな波として戻ってくる、そしてレゾナンスを起こすよう望んでおります。

【ご発言者(敬称略・50音順)】

 北海道大学大学院 理学研究科 小田 研
 京都大学 工学研究科 鈴木 実
 大阪大学 超伝導フォトニクス研究センター 斗内 政吉
 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 花栗 哲郎
 物質・材料研究機構 超伝導材料研究センター 平田 和人

【秋田氏からのご質問】

Q1:『擬ギャップ』状態の特徴を利用した応用は可能か?
Q2:『ストライプ秩序』を異方的電子状態特性として活用できるか?
Q3:『上均一電子状態』はマクロな応用でも影響するか?

【A1(小田)】  超伝導状態におけるナノスケールでの上均一電子状態(相分離)は、もちろん超伝導線等のマクロな応用にも影響するだろう。しかし、上均一電子状態は、(Tcに関する)アンダードープ領域において顕著であるが、少しオーバードープ側にある超伝導材料としての最適ホール濃度po (U)(凝集エネルギーUの最適ホール濃度)ではほとんど見られなくなる。したがって、po (U)付近の試料を用いれば、上均一電子状態の問題は回避できると思われる。

 一方、超伝導相と擬ギャップ相の相分離を自由に制御できるようになれば、デバイスとしての応用が期待できる。たとえば、擬ギャップ状態が超伝導状態と極めて近い性質のものであると、超伝導相と擬ギャップ相を空間的に制御して接触させた場合近接効果が長距離に及ぶこと、したがって、長距離近接効果を使ったジョセフソン素子が可能とならないだろうか。また、上均一電子状態が結晶の何らかの上均一と関係するのであれば、それが何であるか分かると規則的な電子状態(超伝導秩序変数)の空間制御も期待できるだろう。この意味でも、上均一電子状態の原因解明は早急になされるべきと思われる。

【A1(鈴木)】  擬ギャップ成因の理解はまだ確立していない。そういう段階で応用性を議論するのも少し無理があると思うが、私は、擬ギャップの直接の応用はないと思う。しかし、材料選択や製法の上で擬ギャップの存在を意識した指針を立てることが重要である、という点で無視することはできない。

【A1(斗内)】  質問に出ている新奇物性について、あまり理解していないので、感覚のみであるが、発言させていただきます。その新奇物性が、電子デバイス応用という観点から、新しい機能として提案できるか?との質問と解釈すると、可能性はあると思う。例えば、擬ギャップについて、Bi2212薄膜のテラヘルツ分光(Europhys. Lett. 60(2002)288)の結果、テラヘルツ帯の導電率の複素成分がTc以上で有限であることが示されている。即ち、テラヘルツ電磁波のBi2212薄膜への入射が、表面インピーダンスの変化として捕らえることが可能であり、テラヘルツ検出機能があるといえる。テラヘルツ検出器は、今後重要となる応用であり、面白いかもしれない。ただ、その感度がどの程度になるかは、やってみないとわからない。共振器などを作って、200K以下で高感度テラヘルツセンサとして動作すれば、応用への展開が可能となるであろう。その他の、ストライプや上均一電子状態も、電子・スピン波の回折制御など面白い機能を示すかもしれない。将来、この様な機能が、実質的ニーズとめぐり合えることを願っている。

【A1(花栗)】  現時点で実験によってプローブされている擬ギャップの特徴、すなわち、1.Fermiエネルギー近傍の準粒子状態密度が常伝導状態でも減少している。2.スピン励起にギャップがある。3.超伝導ギャップと同様にd波対称性を持つ。等を用いるのであれば効果的な応用先は今のところ思いつかない。擬ギャップが応用できるためには、その有無によって巨視的物性が著しく変わることと、擬ギャップを制御できることが必要であると考えられるが、擬ギャップの出現による巨視的物性の変化は小さいし、擬ギャップを外部パラメータで変化させることも困難であるからである。東大新領域の北澤教授(現科技団)が提案されたように、擬ギャップ状態と超伝導状態の準粒子状態密度の差が小さいことは凝集エネルギーを通してピン止めエネルギーに影響を与えるから、ピン止めの制御に使える、ということは考えられるが、高温超伝導体における磁束コアでは、その小ささを反映した量子効果の影響が擬ギャップの影響より大きいのではないかと個人的には思っている。さらに擬ギャップに関する理解が深まれば、超伝導におけるJosephson効果のように微視的見地からの応用も考えられるかもしれない。

【A2(鈴木)】  従来の超伝導応用を考えれば、異方性自体が活用を阻んでいる。質問は液晶のような応用を念頭においているかもしれないが、全く困難と言わざるを得ない。少なくとも、活用というには制御性が必要であるが、私は寡聞にしてまだ知らない。

【A2(花栗)】  このような応用を行うためには、擬ギャップの応用と同様に、ストライプが実際に異方的特性を示すことを確認することと、ストライプの制御が必要であると考えられる。ストライプが多かれ少なかれ異方的伝導特性を示すことは自然に期待できるが、La214系におけるストライプは隣り合ったCuO2面で直交しているため、巨視的にはその影響は現れにくい。したがって、応用先としては異方的伝導特性を用いるのではなく、ストライプ秩序の有無による他の物性の違いを利用すべきであると考える。ストライプが静的か動的かによって超伝導特性は大きく影響を受けるから、何らかの外部パラメータでストライプの揺らぎを制御できれば、高温超伝導の外部制御ができることになる。最近、東大新領域の笹川等は、EuをドープしたLa214系において、ストライプと45°傾けた方向にわずかな一軸圧を印加することで、静的ストライプ状態を上安定化して超伝導を発現させることに成功しており興味深い。La214系では構造とストライプが密接に関係しているためにこのようなことが可能であるが、他の系でストライプを利用し、制御するためにはさらに何らかの工夫が必要であろう。

【A2(平田)】  「ストライプ秩序」の応用への可能性を強いて言ってみるとすると、その周期は数10nmのオーダーであり、これを何らかの偏光、変調用素子として使える可能性があるかもしれない。ただし、秩序の存在は確かであろうが、現在の状況ではストライプ秩序はそれほどシャープでもなく制御性も見当たらず、応用には程遠いものと思われる。

【A3(鈴木)】  上均一電子状態というものの存在が確定したとして、そのスケールは1.5 nm程度であり、上均一性そのものはマクロな応用にはなんら影響しない。こうした上均一性は、磁性合金や半導体混晶などでも見られることであり、存在してもおかしくはない。現在その確認は劈開単結晶表面のSTM観察によってのみなされているが、バルクでの上均一性の確認はなしえるのだろうか。逆にこういう質問をしてみたい。

【A3(花栗)】  巨視的な現象論の枠組み自体に対する上均一電子状態の影響は基本的に無いと考えられるが、その影響は現象論パラメータの空間依存性を通して、特に磁束ピン止めには強く反映されると考えられる。したがって、磁場中ではマクロな応用であっても上均一の影響を受ける。Bi2212系で観測されている上均一の特徴的大きさは数nmで、超伝導揺らぎの解析等から見積もられる超伝導のコヒーレンス長、すなわち磁束コアの大きさと同程度である。したがって、ピン止め中心としては非常に効果的なはずである。しかし、一方でBi2212系は、明瞭な磁束格子融解転移が観測されるといった、ピンの弱いクリーンな系の特徴も持っている。この矛盾は上均一に伴うピン止め力が小さいことを意味しているだけなのかも知れないが、個人的には上思議なことだと思っている。また、Bi2212系では数10K以下で急激にピン止め力が増大するが、上均一に伴うピン止めはこの温度以下でやっと効きはじめるのかも知れない。いずれにせよ上均一と磁束ピン止めの関係を明らかにすることは、Bi2212系における有効なピン止め中心の導入指針にもなると考えられる。

 また、Josephson素子のような応用には、上均一な電子状態があれば界面が本質的に上均一になってしまうから問題になると考えられる。

【A3(平田)】  「超伝導の上均一性」は実際に存在するであろうが材料そのものに依存する可能性もあり、ユニバーサルな性質としては私自身認識していない。高温超伝導体の線材応用としては臨界電流密度向上のためにオーバードープ側に移行しつつあり、上均一性の影響は少なくなると考えている。デバイスとして見るとこのような上均一性は超伝導の「揺らぎ」と密接に関連してくると考えられ、素子のノイズ特性などに効いてくるものと思われる。

【問題意識1(小田)】  銅酸化物高温超伝導体のノーマル状態における異常な物性は、超伝導の発見直後から膨大な数におよぶ研究により次々と明らかになってきた。その中で、現在注目されているものは、前回の討論で取上げられた「擬ギャップ」「ストライプ秩序」「上均一電子状態」等である。一方、これらの異常が超伝導の性質に強い影響を及ぼしていることが明らかになったのは、一部を除いてそれほど古いことでもない。これは実用化研究開発に今後活かされるべき問題であり、したがって、基礎と応用の研究交流はこれまで以上に求められると思う。しかし、自分自身を振り返ってみて、“基礎研究の立場から実用化研究に向けて積極的に何か提言してきたか?”と問われると、“NO”と答えるしかない。今回は、この反省の意味も込めて、自分も関ってきた高温超伝導体の基礎研究の中から、その応用にとって重要と思われる「超伝導の凝集エネルギー」についてコメントしたい。

 高温超伝導体で最適ホール濃度と言えば、一般にTcが最大となるホール濃度po(Tc)のことである。しかし、このホール濃度は、熱力学的臨界磁場、磁束のピン止め力や素子の安定性とも関係する超伝導の凝集エネルギーUにとって必ずしも最適とはいえない。Uは、po(Tc)より少し高濃度po(U)で最大となるが、その低濃度側で急速に小さくなるため、系によってはpo(Tc)でのUが最大値の半分程度まで低下してしまうのである。一方、Tcは、緩やかに変化するので、po(U)で最大値から1割も低下しない。したがって、超伝導材料としての最適ホール濃度は、Tcの最適濃度ではなく、Uの最適濃度と考えるべきである。面白いことに、高温超伝導体のTcやUと超伝導ギャップD0の関係は、BCSの関係式中のD0をホール濃度pとの積を取ったpD0(≡Deff:有効超伝導ギャップ)で置き換えると、現象論的にうまく表現できる(Tc∝pD0, U∝N(EF)(pD0)2∝p3D02)。擬ギャップの発達する領域(p<0.19~0.2)で、EFでの状態密度N(EF)はpの低下と共に小さくなる。さらに、D0はpの低下と共に単調に増大するが、Deffはpを含むので小さくなる。このため、Uはpo(U)より低濃度で急速に低下するのである。DeffがpD0となることも擬ギャップに関係すると予想しているが、まだはっきりしていない。その起源が明らかになれば、超伝導転移の機構を理解することに対してだけでなく、応用にとってももう少し役に立つ提言ができるだろうと考えている。

【問題意識2(鈴木)】  高温超伝導物質発見の意義は、フォノンを媒介とする発現という従来の考え方の枠を取り払ったことにあり、Tcが135 K近くまで上昇したという事実よりはむしろ、室温超伝導が可能か、どのような物質系で可能か、という問題に対する探求の足場を構築したものとして価値があるように思う。無論、Tcが高くなったことの工学への恩恵は並々ならぬものがあるが、超伝導パラメータも従来と大きく変わってきているため、全ての応用でTcをスケールさせるわけにも行かないだろう。高温超伝導の基礎的な性質を見据えながら、左足と右足を交互に踏み出すような応用展開を心掛けるべきと考える。

 これまでの基礎研究の結果は、高温超伝導の従来応用に際して、物質や組成および製法に関して取るべき指針を明確にしつつある。この場ではスペースがないので、理由の詳細は、今後発表する一連の論文で明らかにして行くつもりであるが、たとえば、過剰ドープ領域を用いれば良いということになる。

 新しい応用への展開を念頭に置いたとき、高温超伝導でしか実現できない物性とか効果への着目は大切である。Tcももちろんそうであるが、固有ジョセフソン接合効果もそうしたものの一つである。これまでのいかなるトンネル接合においても、これほど原子レベルで平坦な界面が実現された例しはない。このような平坦界面を有するトンネル接合ではコヒーレントなトンネル効果が可能である。こうした切り口からの研究も新しい応用への展開をはらむものと期待している。

【問題意識3(斗内)】  日ごろ問題意識のない私にとっては今回の依頼は難題である。当り前のような発言になるかもしれないが、ご容赦いただきたい。まず、議論を読み直してみると、基礎分野と応用分野という異分野交流とその融合がテーマである。“どこから基礎でどこから応用か?”は、分離は難しい。おそらく、“**に使うためのもの”を研究しているのが応用で、“何の役に立つかわからない”と思うものから“**に使えるかもしれない”と思っているところまでは、基礎研究であろう。即ち視点が違う。例えば、極限高速光スイッチが実現されても、それを実装システムとして実用できないのなら、それは概ね、極限高速光応答という機能に関する基礎研究であり、線材のJc向上のための“d波”の物理は、応用研究であろう。従って、同じ問題を、視点を変えて研究を始めなくてはいけないので、自らの基礎研究を、自ら応用研究に展開することは困難であろうし、そうしなくてもいいと思う。(ベンチャーを作るなら別であるが。) そういう意味で、交流は重要である。しかし、その中から基礎と応用の融合領域を形成するのは、容易ではなく、視点が違いすぎて話がかみ合わないのが普通だと思う。理想的には、コーディネーターが存在するべきである。ニーズを知り、基礎研究成果をウォッチするプロフェッショナルが必要なのであろう。それに対して、基礎研究者としては、その情報を発信するという重要な責任がある。一方、応用サイドからは、ニーズの情報の開示がもう少し必要であろう。ただし、その情報は、超電導に限っては意味がないので、膨大となり、情報の選択が難しい。やはり、コーディネーターが必要だと思うが、研究者がそのような役目ができるかどうかは、よくわからない。そういう意味で、SUPERCOM自身にコーディネーター的機能が備わると良いかもしれない。(最近のトピック報道のみではなく。)

 もう1点、重要な課題として、基礎研究における多様性の育成がある。多様性とは、多種多様な個性を認めて、自らをその場に置くことであって、自分自身が多様になる必要はないと思う。即ち、多様性を感じることができる交流の場が必要である。現在、様々な学会での交流では、規模も大きすぎ、縦割り構造となっている。これに対して、私にとって素晴しい機会となったのは、科研費特定領域“ボルテックス・エレクトロニクス”であった。東大松田先生、前田先生、大阪府大石田先生、九大木須先生方と知り合うことができ、非常に刺激されたことは忘れられない。この経験から、様々な背景を持つ研究者が、緩やかに融合した中規模研究グループが形成することが最も重要であると感じている。そのようなチームの形成から、真の融合分野が開拓されていくのではないかと思っている。

【問題意識4(花栗)】  高温超伝導体をナノスケールで評価することによって、従来の超伝導体に無い新しい現象、機能を発現できる可能性があるのではないかということを提言したい。

 高温超伝導は対波動関数のd波対称性や強い電子相関という著しい異常を持つにもかかわらず、超伝導状態や混合状態における巨視的な物性、例えば磁束相図はGL方程式に基づく現象論で理解可能である。なぜならば、GL方程式に対するd波超伝導の影響は高次の効果であるために小さく、電子相関に基づく種々の異常も現象論パラメータを通してしか巨視的現象に影響を与えないからである。逆を言えば、現象論パラメータであるコヒーレンス長程度以下の領域で起こる現象には高温超伝導の個性が現れることが期待できる。例えば、混合状態における磁束コアは、コヒーレンス長程度の半径を持つ「異常な常伝導」の窓であり、高温超伝導の個性が顕在化している可能性が高い。磁束コアに関連して応用にも影響する量として磁束フロー抵抗がある。磁束フロー状態のエネルギー散逸は磁束コア周辺で生じるから、d波対称性とあいまって異常が期待できるが、その理解は理論的にも実験的にもまだ上十分であり、機能探索の観点からも興味深い。

 磁束状態は高温超伝導体における「異常な常伝導状態と正常な超伝導状態」が磁場中において自己組織的に分離した状態ととらえることもできるが、電子相図上で両者が隣接する超アンダードープ領域はさらに興味深い。我々は最近、この組成領域で電子相関に起因すると考えられるナノスケールでの自己組織的な電子的相分離の兆候を見出した。この現象は強相関電子系としての高温超伝導体の特徴であると考えられ、超伝導を示す組成領域で最近問題となっている「上均一超伝導」とも関連していると考えられる。相分離や上均一は、リラクサーに見られるような巨大応答や新しい量子効果の舞台となり得る。相分離以外にも、界面やドーパントなど、ナノスケールのheterogeneityを積極的に利用することを念頭においた物質探索、材料探索から、高温超伝導体とその周辺物質における新現象、新機能が見出せるのではないかと期待している。

【問題意識5(平田)】  私自身はこれまでどちらかというと材料作製に立脚して単結晶の基礎物性の研究をしてきたが、前記事で各氏が仰っている通り、私も高温超伝導の研究結果は種々の分野が交錯した賜物であるという感じを強く持っている。それと共に今までの常識をもってしてはこれまでの研究成果はあげられなかったとも言える。高温超伝導体研究の前に半導体の仕事をしており、高温超伝導体で始めに手掛けたのがYBCO系の薄膜作製であった。当時は京大化研坂東研で研究をしており、酸化物の合成という意味では化学屋の独断場であった。蒸着法では半導体で一番嫌う酸素を導入しなければならず、かつ、蒸着装置壁面には水分を含んだ酸化物が付着している。こんな環境下で薄膜単結晶を作製できるのか、最初は戸惑うことばかりであった。まず、半導体研究での常識を全て捨て去ることから始めなければならなかった。薄膜成長時にRHEED振動が見えたことは意外という以外になんと表現したらいいであろう。薄膜成長という点では研究の主流は薄膜屋に移り、最近の薄膜成長はかなり半導体でのMBEに近づいており、洗練され、材料として成熟してきた感がある。

 高温超伝導体の研究を始めたとき(民間会社の研究所に勤めていた)、超伝導転移温度が液体窒素温度を超えたとしても何が応用として開けるのかがいつも課題として突きつけられていた。作製した膜がどの程度の膜質でよいのかも皆目見当がつかなかった。デバイス研究からのフィードバックが欲しかった時期でもあった。高温超伝導体の応用技術も現在では進んで来ているが、金属系超伝導体応用の延長線上にあると言ってもいいだろう。私のグループの構成は現在、得意分野が化学、バルク及び薄膜結晶成長、構造解析、基礎物性とバラエティに富んでいる。この意味では異分野が交錯した環境である。我々は現在、高品質な高温超伝導体単結晶作りから基礎物性を測定し、高温超伝導体特有の応用を探索している。その一つとして最近見つかったジョセフソン磁束線フロー振動を利用して、磁気センサー或いはフラックスフロー素子を「もの」にしようかと企んでいるところである。もっと高温超伝導体特有の現象を「もの」にしたいと思っていますが、皆さんは今後の高温超伝導研究、応用研究に対してどのように考えているのでしょうか?

 私が感じている「異分野交流」とは応用と基礎との交流というものではない。むしろ、このような区別をつけることが間違いであると思っている。これは研究者の考え方にも依るが、常におもしろい基礎特性現象の先には応用があるはずである。もちろん、応用への見極めと、応用に帰するためには制御性かつ再現性のある基礎現象でなければならない。現在応用研究のみを行っている研究者は壁に突き当たったら、振出に戻って基礎から考え直す姿勢が重要であろう。この程度の柔軟性を持っていないと研究を楽しんでやっていけないと思っている。

『読者の声』

 第7回紙上討論、楽しく拝読させていただきました。小生は現在、電機メーカーでセンシングと信号処理の実用化を主な研究対象としております。学生時代はBi系酸化物高温超伝導体へのヨウ素インタカレーションにて、その異方性とキャリア濃度がTcや熱電能に及ぼす影響をひたすら追い続けました。事務局との御縁でSUPERCOMを送付いただき、現在も超伝導を忘れずにいられることに感謝しております。今回の紙上討論を読んで、融合的研究を成功させる秘訣は、「相手に何をGiveできるかを認識する」ことではないかとの思いを強くしました。つまり、①相手のコア技術の新しい使い方の具体案、②融合研究によって相手が得られる可能性のある専門知識、③その成果による社会貢献(企業の場合はビジネスモデルなど)の3点を提示できるかどうかです。基礎研究でも応用研究でもアプローチする側はある目的を持って相手とコンタクトするので自分のメリットは明確な筈ですが、相手のメリットまで思い描けているかどうか、この部分が重要と思います。大学や公的研究機関との共同研究の中で、その道のエキスパートの先生に、研究費以外の何をGiveできるのか。企業研究者は今、プロジェクトのマネジメント能力を問われています。自身のコア技術を、社内外を問わず関連する技術とリンクさせ、顧客のニーズに合致した製品・サービスを作り出す力です。研究者が研究だけをやっていればよかった時代は終わり、ニーズ分析、企画、営業活動等、業務は多岐にわたります。超伝導から離れて企業で9年、応用研究生活の中で意識し始めたことが「Giveの重要性」です。

(東芝:佐々木 恵一)