この方法では、超電導薄膜の上に小コイルを軸を垂直にして置き、交流電流I0cos2pftを流すことによって交流磁界を印加する。コイル両端の交流電圧は、コイル電流と超電導膜に流れるシールド電流が作る交流磁界によって誘起されるが、その第3高調波成分V3exp{-i(6pft +θ3)}の振幅V3を測定する。コイル電流I0を徐々に増加させると、I0がある閾値Ithに達するまではV3≈ 0であるが、Ithを超えるとV3は急激に増加する。これは、超電導膜に印加される交流磁界の増加に伴って超電導シールド電流も増加して行くが、それが膜の臨界電流に達すると、交流磁界が膜の裏面まで達して非線形応答が生じるためである[2]。そして、Jc=kIth/d(kはコイルの形状と巻き数、配置のみで決まる定数、dは膜厚)であることから、実験的・理論的にkを決めれば、IthからJcを得ることができる。馬渡康徳主任研究官らは、臨界状態モデルを仮定してV3のコイル電流I0依存性の曲線を理論的に導き、V3=μ0fIthG(I0/Ith)を得た[2]。ここに、Gはコイルの形状と巻き数、配置のみで決まるスケール関数である。この式から、Ithが異なるいくつかのV3 vs I0曲線について、V3/IthをI0/Ithに対してプロットすると1つの曲線にスケールするはずであり、実際にYBCO薄膜について観測した[2]。
山崎裕文グループリーダーらは、YBCO薄膜(10mm×10mm、膜厚d~250nm)の直上に小コイル(内径~2mm,外径4.8mm,高さ1.0mm,400ターン)を置き、液体窒素温度において、周波数f=100Hz-35kHzでV3を測定した。臨界状態モデル(電流電圧特性が無限に急峻)による前式から、周波数fを変化させて、V3/fをI0に対してプロットすると、周波数によらず全く同じ曲線が得られるはずである。しかし、図1に示すように、理論の予測とは異なり、周波数の増加に伴って曲線が右側にシフトした。これは、実際の高温超電導体では電流電圧特性がなだらかであり、交流磁界で誘起される電界が周波数に比例して増加するため、Jcもそれに伴って向上することを意味している。I0 ≈ Ithのとき、超電導膜にかかる電界の平均値は、各周波数においてEaver ≈ (3√3p/8)μ0fd2Jcと概算される[3]。図1において、V3/f = 0.05μVsecとなる点で、各々の周波数についてIthを決め、それからJcを計算するとともに、各周波数について平均電界Eaverを計算し、この両者から電流電圧特性を求めた(挿入図)。高温超電導酸化物においてよく観測される冪乗の電流電圧特性(E ∝J n)が得られた。山崎裕文リーダーは、「この方法は、マイクロ波・限流器応用に用いられる大面積薄膜のみならず、YBCOテープ線材などでも、輸送法よりも少し小さい電界範囲の電流電圧特性の非破壊測定が行えるので、広く使われるのでは。」と言っている。
参考文献
[1] J. H. Claassen, M. E. Reeves&R. J. Soulen, Jr., Rev. Sci. Instrum. 62, 996(1991).
[2] Y. Mawatari, H. Yamasaki & Y. Nakagawa, Appl. Phys. Lett. 81, 2424(2002).
[3] H. Yamasaki, Y. Mawatari & Y. Nakagawa, submitted to Appl.Phys.Lett.
(塞翁が羊)