SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.1, Feb. 2003

8. 50m級の高特性Y-123線材を開発
_フジクラ_


 フジクラでは、2002年度を目標に50 m級のY-123系高特性超電導線材の開発を目指してきたが、世界最長の46 m長全長において臨界電流値74 Aを液体窒素温度で達成し、その成果を国際超伝導シンポジウム(ISS2002)にて発表した。

 Y系酸化物超電導体は本質的に臨界電流密度の高磁界特性が優れており、すでに開発が進んでいるBi系酸化物線材に継ぐ次世代線材としてその開発が望まれているが、高度な結晶配向制御を必要とするため長尺線材化技術の開発に多くの年月を要してきた。これまでに多数の製造方法が提案されているが、いずれも線材として長手方向の安定合成が簡単でなく、実用長の線材(km級)を形成するためにはなお相応の技術開発投資と開発期間を要する。数年前から日米欧でY系線材開発の国家プロジェクトが立ち上げられているが、そこではある程度の長さ(10~50m)における通電特性の確認を第一の目標としており、これは今後実用長線材を作製するために必要とされる技術開発に際し、その見込みを判断するための指標と位置付けられる。

 フジクラでは、無配向の耐熱金属テープ上において、イオンビーム照射を用いることにより高度に全軸配向した中間層を成長させるIBAD法を採用している。本方式は基材金属の結晶性に影響されることなく極めて緻密で平滑な成長表面が得られるほか、結晶粒径が小さいため、統計的に弱結合粒界が線材断面全体を遮断する確率が低いことがわかっている。他の方法に比べJcを制限する要因が少なく、比較的安定に高特性が得られる方法である。1999年から始まったNEDO受託研究プロジェクト“超電導応用基盤技術研究開発”において、フジクラは大面積で連続長時間運転可能なIBAD成膜設備の開発を実施するとともに、新たに開発した高速配向成長型材料であるパイロクロア型構造酸化物(Gd2Zr2O7)を用いて、全長にわたってほぼ均一に配向した100m長の中間層を製造することに成功した。生産速度は0.5m/hで、このとき面内半値幅は全長にわたってほぼ10度であった(図1)。

 超電導層の製造方法については、単純な工程で最も安定して高特性が得られるレーザー蒸着法(PLD法)をフジクラでは採用している。今回は製造速度4m/hで4回にわたる繰り返し積層成膜を行っており、46m長にわたって厚さ1.2μmのY系薄膜を形成した。その結果77 K、0 Tにおいて、全長にわたって74 AのIcが観測された(図2~3)。全長におけるJcは0.6 MA/cm2であった。前回発表した30m長線材に比べて、プロセスの安定性を改善し、図3に示すように全長にわたる均一性が大幅に改善されている。その結果、全長で測定したI-V曲線のn値は30を超え、Y-123系の強いピンニング特性を保ったまま長尺化可能なことがわかった(図4)。前回発表した30m線材においては、全長測定におけるn値は10前後と低くなっていたが、一部の15m長までは高n値が観測されており、これは長手方向の均一性が充分でなく、Jcが低い箇所で生ずる抵抗を拾っていたためI-Vカーブがブロードになっていたものと思われる。

 また今回は高Ic線を達成するため、超電導層の成膜にあたっては数回に分けて積層する方法により長尺にわたって均一な膜厚を確保しているが、このときの繰り返し積層成膜における各種条件のパターンに問題があり、前回の30m線材に比べJcがやや低くなっている。現在条件最適化により1 MA/cm2級のJcを維持して膜厚向上を図っており、短尺材においては積層成膜する場合においても1.5μm程度までJcを維持できることが確認されている。

 今回50m級線材の全長にわたって均一な高特性を維持して成膜することに成功したことで、現在のY系線材製造プロセスが実質的に長尺線材に対応できることを実証したと言え、実用Y系線材プロセスの開発に向けて確かな見込みを得ることが出来たと考えられる。また30を超えるn値を全長で観測できたことは、あらためてY系材料の高温域での強ピンニング特性が線材という形態で実現できることを示しており、高温においても磁束フロー抵抗を低く保てる本線材の応用への期待が持たれる。

 今回の成果と、今後の展望について、開発者であるフジクラ材料技術研究所の飯島康裕主査と柿本一臣主査は以下のように述べている。「今回超電導層の成膜プロセスの改善により長手方向の特性均一性が従来に比べ各段に改善した。もう一段のスケールアップで数百m級の線材を高歩留まりで形成できる段階に到達できると考えている。Ic特性についても、現在Jcの膜厚依存問題の解決を図っており、現在技術で200 A/cm級まで充分視野に入っていると考えている。これまでのプロジェクトで得られたデータをもとに規模を拡大した改良技術を開発することで、実用線材プロセスに手が届く段階になると判断している。」

            


図1 100 m長IBAD中間層の長手方向配向性分布


図2 46m長IBAD/PLD法次世代線材の外観写真


図3 長尺Y-123線材の長手方向特性分布


図4 長尺Y-123線材のend-to-end I-V曲線

(FJK)