SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.1, Feb. 2003

7.SOE/PLD法によるY系テープ線材開発の現状
_古河電工、超電導工学研究所_


 古河電工と国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所(以下SRL)のグループは、昨年米国で開催されたApplied Superconductivity Conference(ASC2002)及び日本で開催されたInternational Symposium on Superconductivity(ISS2002)において、両者が共同で開発した表面酸化エピタキシー(Surface Oxidation Epitaxy;SOE)法を用いたYBa2Cu3O7-d (YBCO)系テープ線材開発における最近の進展を報告した。この研究は、経済産業省の「超電導応用基盤技術研究開発」の一環として新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により実施されたもの。報告によれば、10 mm 幅の短尺テープ線材について液体窒素温度における臨界電流(Ic)が 137 A 以上、臨界電流密度(Jc)に換算して 1.3 MA/cm2 以上という高い特性が得られている。1 MA/cm2 という Jc は、例えば 10 mm 幅のテープ上の 1 µm 厚さの YBCO 膜に 100 Aの通電が可能であることを意味し、金属テープ基板を用いたY 系線材開発における一つの目標特性となっている。今回の成果は、フジクラ、Oak Ridge 国立研(米)、Los Alamos 国立研(米)などに次ぐものとなる。

 SOE法とは、{001}<100>配向Niテープの適当な条件下での熱酸化によりその表面にNiOを下地のNiと同様の {001}<100>配向で“cube-on-cube”成長させ、このNiOを YBCO膜形成のtemplateとして用いる技術である。配向中間層が形成された金属テープ基板を低コストで高速に作製する手法として大いに期待され、元古河電工/SRL、現京都大学の松本要氏やSRL第5研究部主任研究員の渡部智則氏(古河電工から出向中)らを中心に精力的に開発が進められてきた。しかしながら、配向度の高いNiO中間層の形成には成功したものの、1 MA/cm2以上の高いJcがなかなか得られなかった。この原因として、NiO/Ni基板の結晶粒界近傍でのgroovingの影響が指摘されている。

 今回開発された線材の構造は、図1の高分解能走査電子顕微鏡(HRSEM)による断面写真に示すようにSOE基板上にBaZrO3(BZO)キャップ層を介してYBCO層が形成されたもので、BZO、YBCOともにパルスレーザ蒸着(PLD)法で成膜されている。1 MA/cm2の壁を突破するブレイクスルーとなったのがこのBZOという新しいキャップ層の開発で、渡部智則氏によれば、「MgO、SrTiO3、CeO2など多くのキャップ層を試してきたが、NiOとの格子定数のマッチングのよいMgOで比較的よい結果が得られていた。さらに検討を重ねた結果、YBCOとの反応性が低くかつNiOとの格子定数のマッチングにも優れるBZOに行き着いた。」とのことである。現在古河電工で開発を担当する研究開発本部メタル総合研究所の前田敏彦主任研究員(元SRL)は、「BZOキャップ層の採用による飛躍的な特性向上の原因については現在研究を進めているところであり、はっきりしたことを言える段階にないが、この成果を活かしさらなる特性向上につなげていきたい。また、できるだけ早い時期に長尺線材化への目処をつけたい。」とコメントしている。また、SOE法の実用線材への適用に関しては、「製造コストの観点からは、キャップ層を用いずにSOE-NiO上に直接YBCOを成膜することが好ましい。NiO単結晶を用いた基礎検討では、NiO上に直接成膜されたYBCOにおいて 3 MA/cm2以上の高いJcが得られており、解決すべき課題は多いものの展望は明るいのではないか」 と述べている。SOE法の考案者である松本氏によれば、「SOE法は中間層の形成までを非真空プロセスで行える点に優位性があり、またBZOキャップ層も成膜速度が比較的大きいと聞いている。長尺線材化の進展次第では米国のRABiTS法にも充分対抗し得るのではないか」とのことであった。


図1 テープ線材の断面 HRSEM 写真
(撮影:京都大学松本助教授)

(Ballack 13)