SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.1, Feb. 2003

4.液体窒素温度で4 Tを超える超強力超電導バルク磁石の開発に成功
_超電導工学研究所_


 超電導工学研究所第3研究部の成木紳也主任研究員らは、液体窒素温度(77 K)で3.05 Tテスラの高い磁場を捕捉できるバルク高温超電導磁石を開発した。さらにこのようなバルク磁石を2個重ねて、その間の磁場を測定した結果、世界で初めて4.3 Tの非常に高い磁場を発生させることに成功した。

 溶融法により作製したバルク超電導体は通常の永久磁石を遥かに超える強力な磁場を捕捉することができ、その磁力を利用した水浄化用および資源回収用の磁気分離装置、励磁装置、強力磁気浮上装置、スパッタリング成膜装置、磁気断層撮影装置などへの応用が活発化している。このうち水浄化用磁気分離装置や励磁装置などはすでに実用化段階に至っている。しかしながら水浄化装置の浄化能力の向上や冷却コストの低減など、上記の装置をより高性能にするためには、さらに強力なバルク超電導磁石の開発が望まれている。

 超電導工学研究所は、Y系材料よりも高い臨界電流密度を有し、比較的大型化が容易なGd系材料に着目し、以前より開発を進めており、サブミクロンオーダーの非超電導物質(Gd211)を分散させた直径5 cmのGd系大型配向バルク体では既に77 Kで2 T以上の捕捉磁場が得られることを確認していた。

 今回バルク体の捕捉磁場の値を更新できたポイントはGdバルク材料の大型化と微細組織の均質化にある。プロセス技術の進展によりY系材料ではすでに直径が10 cm以上の大型のバルク超電導体が作製されているが、現状ではバルク体の直径を5 cmよりも大きくした場合、クラックの発生や上純物の析出、微細組織の上均一化、結晶配向の乱れなどによって、臨界電流密度が低下し、捕捉磁場がかえって低くなる問題があった。超電導工学研究所では、以下の要素技術によってバルク全体が高い臨界電流密度を示すクラックの無い大型Gd系バルク体の作製に成功した。

1) Gd系バルク体の直径を6.5 cmまで大型化。

2) クラックの抑制に効果のある銀の粒子を均一に微細分散させることができた。

3) 原料粉の作製条件、結晶成長条件の最適化によって微細組織を均一化した。

 開発した直径6.5 cmのバルク体について、表面での捕捉磁場を77 Kで測定したところ、3.05 Tと従来の記録を更新した。さらに、反磁場効果の影響を低減する目的から、今回開発したバルク体と以前作製した直径5 cmのバルク体(捕捉磁場2.5 T)を重ねて、バルク体間の磁場を測定した結果、4.3 Tの非常に高い磁場を発生させる事ができた。 開発者の成木紳也氏は「高い超電導特性を保ったまま試料を大型化するためには、微小なクラックの除去などノウハウ的な課題が多く、捕捉磁場を2 Tから3 Tに伸ばすのに2年近くかかってしまったが、今後もさらに特性の向上をはかって行きたい。」と話している。

 共同研究者で第3研究部部長の村上雅人氏は「5年前に新しいプロジェクトがスタートする時に、開発目標のひとつとして、液体窒素温度で3Tを超える磁場を捕捉できる超電導バルク磁石の開発を掲げた。当時は、随分高いハードルと思ったが、それを達成できたことは望外の喜びである。開発者の成木氏は、この分野では常に世界をリードしてきており、その功績でPASREG Award of Excellenceを受賞している。今回のデータも海外の研究者はみな驚嘆すると思う。この成果を期に、バルク超電導応用を本格化させたい。」と語っている。


図1 Gd系バルク体を上から見た写真
(直径65 mm、厚さ19 mm)


図2 バルク体が77 Kで捕捉した磁場の分布図。
バルク表面から1.2 mm上部をホール素子を走査して測定したもの。
バルク中央部で最も磁場が高くなり2.9 Tに達している。
さらにホール素子を試料表面に接触させた捕捉磁場測定においては3.05 Tを記録した。


図3 バルク体を2個重ねて捕捉磁場を測定する様子を示した模式図、および測定された磁場の時間変化。
外からの磁場を完全に取り除いた直後は4.9 Tの磁場が捕捉された。
その後最初の30分くらいの間、磁場は減衰するが(クリープ現象)次第に等比が小さくなり4.3 Tでほぼ安定となった。

          

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