SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.1, Feb. 2003

2.高温超電導バルク磁石の実用的で高効率な強磁場着磁法を開発
―超電導バルク磁石のその場着磁が可能に、モ*タ*開発にはずみ
_福井大、東京商船大、北野精機_


 RE-Ba-Cu-Oバルク超電導体は、原料中にピン止め効果を示す非超電導相を分散して溶融成長させた高温超電導体のかたまり(バルク)であり、高性能永久磁石よりも大きな磁場を捕捉(着磁)させることができる。ただし、このバルク超電導磁石を利用するためには、何らかの方法で着磁させる必要がある。

 バルク超電導磁石の着磁法には、別に用意した超電導磁石の静磁場を用いる静磁場着磁法と、バルク体の周囲に置いたコイルにパルス電流を流してパルス磁界によって着磁するパルス着磁法がある。静磁場着磁法によれば、77 Kにおいて4 Tを超える大きな磁界を着磁できるが、着磁装置自体が大きく、高温超電導体を機器に組みこんだ後では着磁が困難である。パルス着磁法は着磁コイルを高温超電導バルク体とともに機器に組みこみ後に着磁できるので実用性が高いが、従来の方法では77 Kで1 Tを超えることはなく、合金系永久磁石の発生磁界との差別化にはヘリウム冷凍機によってバルク体を77 Kより低温へ冷却しなければならない。

 福井大学工学部電気・電子工学科の杉本英彦教授、本堂義記技官らは、着磁された高温超電導バルク体の磁場分布が中心で最大磁場をもつ円錐形になることに注目して、渦巻状に銅線を巻いたコイルにパルス電流を流すことによって円錐形の磁場分布を発生させ、77 Kにおいて、Gd系バルク高温超電導体に対して効率よく1 Tを超える高い磁界を着磁させることに成功した。この方法によって、従来ヘリウム冷凍機や超電導電磁石を用いて行われていた、1 Tを超える着磁が、液体窒素を用いて簡便かつ高効率に行うことが可能となった。本実験では加えたパルス電流の大きさに比例して着磁の最大磁場が増えていくという関係が得られている。

 この研究は、平成14年度東京都中小企業振興基金共同開発助成事業「小型舶用強磁界回転界磁子冷却技術の開発」に関わる共同研究として実施された。和泉充教授と北野雅裕社長らは、杉本英彦教授の協力を得て、原動機で発電した電力をもちいてモ*タ*によってプロペラ(スクリュー)を回転させる、環境にやさしい21世紀の次世代型船舶、エコシップと目される電気推進船に搭載できる高温超電導モ*タ*同期機の要素技術開発を進めている。このようなモ*タ*が実用になれば、強力な磁場によって大きなトルクを発生することができる。電力変換効率も高く、従来のモ*タ*を格段に小型軽量化できる。地球環境の保全、海洋環境保全の観点から電気推進船は有望視され、欧州や米国ではポッド方式の電気推進船の研究開発や実用化が進みつつある。本成果は、このような電気推進のプロペラを回す舶用高温超電導モ*タ*同期機において、着磁コイルと鉄芯レス電機子コイルとの併用を可能にするものであり、その設計と製作に大きく貢献する。

 東京商船大学客員教授で、国際超電導産業技術センター超電導工学研究所の村上雅人第1、第3研究部長は、「これまでのパルス着磁法は、円柱状のバルク高温超電導体の側面に着磁コイルを巻いて行うなど多様な工夫がされてきたが、静磁場による着磁磁場に近づけるためには、どうしてもヘリウム冷凍機により、77 Kより低温に冷却することが必要であった。うずまき状の着磁コイルをもちいることによって印加磁界の向きがバルク体の優先方向に揃った結果、パルス着磁時の温度上昇も抑制されて高い磁界が着磁できたものと考えられる。77 Kでのバルク超電導磁石の機器への実装を考えたとき非常に重要なブレイクスルーである。また、この方法によるパルス着磁の捕捉磁場はまだまだ大きくなる可能性もある。」と語っている。超電導工学研究所は高温超電導バルク体の磁石特性について東京商船大学と共同研究を行っている。


図1 酸化物超電導バルク材料
(GdBa2Cu3O6.9 70.9wt.%,Gd2BaCuO519.2wt.%,Pt0.5wt.%, Ag9.4wt.%, 直径60mmf、厚さ20mm)


図2 パルス電流ピーク値と最大捕捉磁束密度との関係


図3 舶用高温超電導モーター同期機概念図


図4 新しい着磁法における着磁コイル兼対向電機子とバルク高温超電導磁石の配置

               

(深川越中島)