SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.1, Feb. 2003

12. MRS2002 Fall Meeting 報告


 2002年度秋季のMaterials Research Society (MRS: 米国材料学会)会議は、昨年12月2日から6日まで例年通りボストン市で開催された。学会の40分類の一つ、超伝導に関するものは“Symposium S: Advances in Superconductivity *Electronics and Electric Power Application from Atomically Engineered Microstructures”と題され、これに沿って応用材料開発の議論が活発に繰り広げられた。巨大学会である応用超伝導会議(ASC)からわずか4ヶ月しか経っていないこともあるが、特性だけに偏らずそれを発現する材料科学的な背景を理解しようというところにMRS学会のカラーが表れている。このSymposium Sのプログラムには128件の発表が組まれたが、テロの影響で多数の上参加者が出た一昨年と比べるとはるかに盛況であった。ちなみに、招待講演32件(含Tutorial)のうち10件が日本、6件が欧州からで、また全体の約半数はY123のCoated Conductor、また約1/4はMgB2に関するものであった。

 Y123 Coated Conductorに関しては、ASC以後の顕著な進展が報告され、特に高速作製、長尺化、高Jc化については、レベルが一段上がった印象を受けた。具体的には10m長かつ1cm幅のIcが100A以上という時代に突入している。基体材料、中間層の構成、Y123層の形成方法など、複雑多様な過程と選択を含む作製プロセスではあるが、短時間の高度面内配向中間層の形成やY123層の成長過程解明に、X線構造解析とTEM観察が広範に活用され、優れた作製方法が効率良く把握できるようになってきたことが、最近の進展を支えているようだ。10m級の長尺導体としてはおそらく現在最高の特性のものを開発しているFreyhardt(ゲッチンゲン大)は、線材会社設立の諸事情のため講演をキャンセルしたが、ASC社、IGC社が本格的に開発に乗り出してきたなど、長尺導体開発はメーカーサイドに任されていく感じである。またEu123膜でY123よりもかなり優れたJc-B特性が確認されたことも朗報である。

 MgB2については、未だ合成方法・環境、原料純度などにJc特性や組織が大きく依存する状況にあり、統一的な材料特性改善指針を議論するに至っていないが、確実に研究の質が緻密になってきており、近くデバイス、線材両用途での進展が期待できそうな感じを受けた。このほか、新物質探索、局所構造解析、磁束観察、原子スケールでの電子状態の揺らぎ、など基礎的な報告も例年になく充実していたことも付け加えたい。

(東京大学:下山淳一)