SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.12, No.1, Feb. 2003

11.欧米の高温超伝導業界で2件の合併行われる!


 最近、欧米の高温超伝導業界で2件の合併が行われた。1件は、米国内のSTI社(Superconductor Technologies Inc.)とコンダクタス社(Conductus,Inc.)の合併であり、もう1件は米国ASC社によるデンマークNST社の取得統合である。いずれも優位会社主導による拡張強化の為の合併であり、今後わが国を含めて世界的に種々の面で影響が現れると予想される。以下、その概要を紹介することとする(Superconductor Week 誌2002年11月25日号Vol.16,No.20)。

■STI社及びコンダクタス社がSTIの社吊で合併

 この度、STI社及びコンダクタス社は両会社を合併させる協定書に署吊した。新会社は、旧STI社の社吊を継承し、コンダクタス社は新STI社の子会社として事業を継続する。新STI社は、既存の株主及び系列会社から1500万ドルの投資に対する確約をすでに取得している。将来の製品開発は、STI社のSuper Filter及びSuper Link製品系列に集中する予定である。勿論、同社は移行期間中は既存のコンダクタス社Clearsite製品に対して全面的支持を与える意向である。新STI社の本社は、引き続いてキャリフォニア州サンタバーバラ市に置かれよう。合併の結果、同州のサニーベイル市の施設を続けて運用する予定と言う。

 この統合により、新STI社は以前のどちらかの会社が利益を挙げるよりも早く、収益性を達成することが期待される。両社は、今後予想される多くの領域即ち販売、市場調査、研究開発と製品開発、一般管理業務におけるシナジー効果の達成により、大幅な経費節減を実現できると信じている。両社社長のThomas氏とShalvoy氏は、来年度の売り上げ増加の可能性について楽観的であった。Thomas氏は、「2003年のビジネスは米国内に強く集中する予想である。我々は、Dobson社に対してはコンダクタス社を通して、Alltel 社及び US Cellular Corporationsに対してはSTI社を通して強いビジネス関係を有しており、それは次年度に対してある程度の予測をもたらす。新タワー建設と基地局への投資は減る一方、既存基地局の改善に対する無線工業界の投資は増加するだろう。」と語った。

 コンダクタス社末端からの将来に於ける注文の可能性に関して、Shalvoy氏は「我が社は、近年高品質化を達成した3つの大きな商用搬送波会社を持っている。少なくとも一社、多分全三社が来年末までに注文を出すだろう。」と語った。また両社長は、当合併により2つの既存会社の国際的力関係が強化されるだろうと云っている。STI社は、国際的努力を南米、メキシコ及び中国に集中し、コンダクタス社は日本とメキシコに勢力を保持している。

 Thomas氏は、「STI社とコンダクタス社は、無線通信市場が超伝導技術を受け入れるように働きかけて、大巾な進展を達成した。我々は、両社の諸力を結合し、Super Filterの基礎の上に我々の商用製品ラインを統合することを期待している。また、コンダクタス社にすでに存在している政府系応用向け高性能製品ビジネスの成長を持続させるだろう。」と語った。Shalvoy氏によれば、コンダクタス社が新STI社の1部門として機能するので、今回の合併は既存のコンダクタス社政府契約に何ら影響を与えないだろう。

 「STI社は、最良の極低温冷却技術、フィルター設計技術、ウエイファー製作技術、後部組み立て及び試験、製造、市場調査、販売及びサービス力を持っている。合併会社は、電話通信機器業界におけるさらに強力な勢力になるだろう。そして、当会社は、産業界の回復から利益を得るのに良い位置にある。この回復は、来年のある時期に始まると思っている。」とThomas氏は語った。合併の結果、STI社は種々の計画に対して両社の最良の部分を引き継ぐことになろう。

 STI社の商業ビジネスは、フィルム作成のため長く続けてきたレーザー積層製造法を止め、コンダクタス社のもっと拡張しやすい反応性蒸着法を採用するだろう。コンダクタス社は、より進んだ材料加工技術をもたらし、STI社は両社が新チームにとってより良い冷却器と考えるものをもたらす。同様に、STI社の冷却器はコンダクタス社の政府契約の多くに有用である。

■米国ASC社がデンマークNST社を取得統合

 この度ASC社は、デンマークNKT社の子会社であるNST社の全資産を取得した。NST社は、高温超伝導線材を開発して、欧州、アジア、北米の顧客に売り込んできた。ASC社は、NST社の特許、製造設備、在庫の材料、仕掛品及びノウハウを含むすべての資産を取得中である。デンマークに於けるNST社の線材製造工場は近く閉鎖され、取得資産はASC社の操業に組み込まれるだろう。NKT社は、当取得により影響を受けた従業員の移動について責任を持つだろう。NST社のVaccuumschmelze社との提携は終了した。

 「ASC社は、NKT社から43件の特許とともに製造ノウハウを受け取るだろう。彼らは、注意深くすべての仕事を書類化した。その書類は、現在我々の使用のため利用できるようになっている。当社製品の性能と価格は、NST社より良好であるが、幾つかは当社工程を改良するために役立つかも知れない。」とASC社社長のYurek氏は云っている。更に続けて同氏は、「NKT社は、現在ASC社の上位五番目の株主であるが、それを超えた特別の関係あるいは協定を結んではいない。NKT社は、同社のケーブルプロジェクトのため、何処から線材を購入するかの自由度を持っている。しかし今や我々は、顧客のNKT社に対してもっと明確に定義されたルートを有している。Southwire社プロジェクトは、全量NST社の線材を使用した。この取得以前には、将来のNKT社ケーブル線材に対して我々はNST社と競合するだろうと思っていた。当取得により、ある重要な資産と当社の顧客基盤を拡張する機会を得た。NKT社は、自社ケーブル部門を通して、デンマーク国内の送電系統と連結し、HTSケーブル送電実証に成功した。ASC社は、NKT社の将来HTSケーブル実証と商用プロジェクトに対するニーズに対応する上で好ポジシヨンにある。また、NST社の他の顧客のHTS線材に対するニーズにもよく対応できるし、多くの顧客との共同作業を待ち望んでいる。」と語った。

 NKT社及びNST社の社長であるKnutzen氏は、「ASC社は、HTS線材の開発及び製造において、世界的な指導性を有している。この度NST社資産のASC社への売却は、当社にとって正当な戦略的行動である。当社のHTS市場への集中は、NKTケーブル社を通して行われるだろう。それは、デンマーク国内の送電系統に於けるHTSケーブルシステム実証の成功に基づき、米国のSouthwire社と共同して構築されるだろう。私は、NKTケーブルとASC社間に緊密な共同関係が樹立されると予想している。」と語った。それに続けて同氏は、「我々は、HTSケーブルにとって非常に大きな長期の市場を予見している。HTS線材への我々の投資をASC社に移し、ASC社の線材を使用してHTSケーブルの商用化に集中することは、今後最良の基本戦略になるだろう。」と語った。

 1990年代の中頃、NKT社とSouthwire社(米国の先進的ケーブル製造者)はHTS電力ケーブル技術に関して提携を始め、現在も続行している。2000年2月、NST社線材を用いて製作した30m長のHTSケーブルがジョージア州キャロルトン市所在のSouthwire社の3工場へ電力を輸送しはじめた。そのHTSケーブルシステムは、なお運転中である。2001年5月、NKTケーブル社は世界初のHTS電力ケーブルをデンマーク国内の送電系統に設置し、順調に運転を続けている。

 ASC社がPirelli社との提携を再構築すると発表した2002年2月以来、ASC社は多くの指導的ケーブル製造者と緊密に連係をとりながら、ASC社の線材をケーブル実地試験や商用プロジェクトに組み入れる様働きかけている。「この新しいオープンな働きかけにより、ASC社にとっては勿論最高性能且つベスト価格のASC社線材を使用したいと思っているケーブル製造者にとっても非常に大きな機会が創出されている。当社線材を入手できるようになり、低インピーダンスのHTSケーブルは低コストで膨大な送電系統の更新及び改良を実現できるという認識が高まっており、HTS技術の新しい市場を創造しつつある。HTSの産業的基盤は広がりつつある。私が常に云ってきたことであるが、時に応じて顧客のニーズに現実に対応できる製造会社は、2,3社に帰着するだろう。」とYurek氏は話を結んだ。

(こゆるぎ)