SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.6, Dec. 2002

9.CCVDテープに関して高Jcを報告
 _MCT・OST_


 Micro Coating Technologies (MCT)とOxford Superconducting Technologies (OST)は、DOE Peer Reviewにおいて、coated conductor製作に用いる配向金属テープ上への高品質なバッファ層作製に成功したと報告した。MCTはOSTより提供されたNi-W合金を用いてCCVD法(Combustion Chemical Vapor Deposition)によりバッファ層を形成したテープを作製した。RABiTSTM基材はOak Ridge National Laboratory(ORNL)とライセンス協定のもと使用した。

 ORLNにおいてレーザー蒸着法(PLD)を用いてCCVD RABiTS テンプレート上に蒸着したYBCO膜は、1.12MA/cm2以上の臨界電流密度が実証された。この値が得られた構成は、CeO2キャップ層を設けたSrTiO3(STO)バッファ層250nmおよび超電導層の実厚さ250nmである。BNLにおける追試では、CeO2キャップ層を設けたSTOバッファ層上にフッ化バリウムプロセス用いることで300kA/cm2が得られている(Superconductor Week 誌9月16日号)。

■低コスト原料を用いた非真空プロセス

 バッファ層形成技術は、非真空のCCVDプロセスとNanomiserTM噴霧技術をベースとした独自火炎技術に基づいている。MCT社によれば、CCVDプロセスをこれらバッファ層形成に応用する主な利点は、従来の真空システムに比べ非常に低い製造コストで非真空の巻取りシステムにより長尺線材を生産できる点であるとしている。ほとんどの原料は、例えば金属硝酸塩のように高品質なものを容易に入手できる単純化合物である。この技術は原料溶液をサブミクロンの液滴状に噴霧しながら火炎中で燃焼させ、金属基材上に蒸着させるものである。別の膜を1回の実験で連続的に蒸着することが可能である。

 MCTはメータ長さ以上でも結晶性と均一性が優れているとしている。Peer Reviewで報告された結果は、SrRuO3 (SRO)バッファ層に関するものであったが、発表者はプロセスを変えることがとても容易であると指摘した。MCT社超伝導線材ビジネスユニット長であるShara Shoup氏は「我々は、SROのように他のバッファ層を形成することは容易である。現在原料溶液を交換し、新しいバッファ層に関して最適化を進めている。そのためにレーザーや電子ビームのプロセスのように新しいターゲット材料を用意する必要はない。実験室では現在全ての構成を約5h/mの速度で作製することが可能である。我々は作製速度を速くする必要があると認識している。これまでは良質なバッファ層を得ることが焦点であった。これからは、原料溶液濃度を変えたり、より多くのNanomiser flame devicesを用いたりすることで、あるいは新規のCCVD蒸着法を取り入れることでプロセスを改良することが可能である。《と言っている。

■25m長さ、YBCO蒸着に向けたCCVDプロセスの拡張

 FY2003におけるSPIプロジェクトに関する計画では、バッファ層プロセスを25m長さ以上に拡張するとともに、CCVDプロセスをYBCO膜にも応用することが含まれている。「これまで我々は、YBCO-PLDのためのテープを作ってきた。YBCO-CCVDの性能を最大にするためには、いくつかのプロセス改良が必要である。我々は単結晶基板で1MA/cm2を達成しており、良好な電流通電特性を有するCCVDテープを作製できるものと期待している。《とShoup氏は言う。

 MCTは、CCVDプロセスは長時間運転においてコスト効果が生じると見積もっている。MCT社線材事業部長のAndrew Hunt氏は「我々は、他の産業においてコーティングシステムのモデリングとコスティングに関する多くの経験を有している。製造スケールにおいて適正な量があれば、我々は無条件で$10/kAmの目標に応じることができる。《と言う。

■バッファ層形成テープのマーケティング

 また会議の場でMCTは、彼らが現在CCVD RABiTSTMでバッファ層を形成した金属やバッファ層を形成した合金テープの購入を申し入れていることを発表した。Hunt氏はPeer Reviewで、バッファ層を形成したテープは、内外の顧客が同じ価格で入手できるであろうと語った。Hunt氏は、顧客がバッファ層を形成したテープを様々なYBCOコーティング技術に利用する(アカデミックな、工業的な)研究者になることを期待していると言っている。見積額は、MCT社がテープ性能やそれを用いて作製したcoated conductorの性能に関して技術的なフィードバック提供を受けることを想定しており、もしフィードバック提供がなされない場合には、割増料金が課せられる。「公表と伝達がcoated conductor効果における鍵となる。情報共有することが、すでに明らかとなっている問題に関して我々全ての者が時間を浪費しないようにする手助けとなる。《とHunt氏は言っている。

 「MCTの目的は、HTS開発と製造にとって好まれる基板となることである。200nmのSTOバッファ層を形成したNiテープに関する広告価格は$75/cmである(幅1cm)。また、$10/cutの追加料金が発生し、1m以上の場合では全長に対し35%を割り引く。《とShoup氏は言う。

■Ni-W合金の良好な表面性

 MCTのバッファ層形成テープはOxford Superconducting Technologiesで製作したNi-3%W合金基材を用いている。Oxfordでは、Ni-F、Ni-Crを含むいくつかの合金を研究した後その合金を開発した。W合金は、最良の表面性とバッチ処理間における最高の再現性を与えた。OST プロジェクト長であるKen Marken氏は「OST社は一貫した配向性と表面性を有する長尺テープを作製することができる。これまでに150mを製作した。しかし、その長さがまだ真に必要ではないので、通常我々は短尺テープを熱処理する。プロセスは進められているのでまったく限界はない。我々はkmテープの製作を心配していない。《と言った。OSTは、現在DOEプロジェクトの中でその協力者に対しテープを供給しており、商業ベースでテープを提供する意向は発表していない。合金に加えて、純Niテープの配向性や表面性の最適化研究を継続する。

 MCTとOxfordにおけるCCVD RABiTSTMによるバッファ層形成テープの開発は、ORNLの管理下で、US Department of Energyより資金提供を受けた。2社は、このinitial commercialization of the technologyで共同研究も行っている。

 上記記事について、フジクラの尾鍋和憲氏は次のようにコメントしている。「Ni系配向基板を用いるRABiTS法は低コストで高特性が期待できるとされているものの、Ag系配向基板と異なり界面反応防止のため必ずバッファ層が必要になり、この点がRABiTS法の低コスト化のネックとなっていると言える。バッファ層については真空装置を用いた気相法が用いられることが多いが、CCVD法はMOD法と並んで非真空の低コスト成膜プロセスとして期待のもてる製法である。MODに比べると高温の熱処理を要しない等工程が単純なことが実プロセスとして有利であると考えられる。《

(FJK)