SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.6, Dec. 2002

6.MgB2系超伝導コイルで0.5テスラの磁場発生に成功
 _日立・物材機構_


 日立製作所日立研究所と物質・材料研究機構は、二硼(ほう)化マグネシウム(MgB2)系超伝導物質を用いた15m長の超伝導線を開発し、世界で初めて小型コイルによる0.5テスラの磁場発生に成功したと発表した(2002年度低温工学・超伝導学会秋季大会)。同グループは本年3月に世界で初めて0.13テスラの小コイルを開発したが、今回の成果も、先の発表と同様にコイル製造工程で一切の熱処理を用いずに約5倊の性能向上を達成したとのこと。熱処理を用いないため、従来の超伝導コイルと比較しても大幅なコスト低減が可能という。同グループは、このコイルの特性を詳細に評価し、実用的な超伝導臨界電流が得られることを確認したようだ。

 2001年1月に青山学院大学の秋光純教授らによって発見された新しい超伝導物質である二硼(ほう)化マグネシウムは、超伝導臨界温度(Tc) が金属系材料として世界最高の39Kであり、NbTi(9.5K)や、Nb3Sn(19K)などの従来の金属系超伝導材料と比較してもTcが約20K以上優れており、また、マグネシウム(Mg)とボロン(B)からなる比較的簡単な化合物なため、合成が容易で資源的にも豊富であるという特徴があり、世界中の研究者が実用化に向けた活発な研究開発を行っていることは本誌の読者ならご承知の通り。

 このMgB2の結晶は、ダイヤモンドのように硬く、通常の方法ではセラミックスと同様に塑性加工は困難と思われていた。しかし、この粉末を高強度の金属で被覆し、圧延などで線状に加工することにより、熱処理無しで45万A/cm2の高い臨界電流密度が得られる線材作製法を、物質・材料研究機構が開発した(2001年6月既報)。その成果を受けて、日立研究所では、MgB2圧粉体を高密度で連続的に流動させる技術を開発。10m級の長尺線材の製作に初めて成功し、更に、この線材を用いてコイルを製作し、0.13テスラの磁場発生を確認した(2002年3月既報)。日立研究所超伝導ユニット、田中和英研究員によれば、その後「独自にMgB2超伝導体の緻密化加工法を高度化し、ステンレス高強度シース材料との組み合わせ、更に、東海大学太刀川恭治教授らが発見したインジウムなどの微量金属元素添加効果を適用し約5倊の性能向上を果たした。《とのこと。今回製作した線材は、ステンレス鋼で被覆された厚さ0.38mm,幅2.7mmのテープ状で、長さは15m。液体ヘリウム中で線材の特性評価を行った結果、実用レベルである600A以上の臨界電流を確認でき、この線材の曲げ特性を評価した結果、曲げ直径で約30mm程度まで劣化がないことを確認できたとのこと。

 これらの結果を基に、12.2m長の超伝導線を用い小型コイルを製作・評価した。ステンレス製の巻枠に、内径40mm,外径48.5mm,高さ40mmのサイズで、89ターンを巻き付けた小型コイルを作製(写真1)。これを液体ヘリウム中に浸漬冷却し電流を通電したところ、数度のトレーニング現象の後、255Aでクエンチを確認した。このときのコイル中心での発生磁場は、実用レベルの0.5テスラであった。MgB2線材のコストは、同じ電流容量で比較した場合、NbTi線の約1/2程度と見積もられる。

 日立研究所、岡田道哉主任研究員によれば「今回の成果は、①MgB2線材で、600~800A級の実用レベルの臨界電流が安定して得られるようになり、②その線材を利用して、0.5テスラ級の実用レベルの磁場発生に世界で初めて成功したことにある。これらにより、1テスラ級の実用超伝導磁石に見通しが得られ、数ヶ月以内に実現するだろう。《と述べた。今回の成果は、医療用MRI装置などの比較的低磁場での超伝導マグネット応用に道を拓くもので、今後の実用化までには、磁場中における臨界電流密度特性を更に向上させる必要があるほか、kmレベルの長尺化技術の周辺技術開発等の課題が残されている。しかし、MgB2の高い超伝導転移温度を利用することにより、熱的に安定で、高い信頼性を持つ超伝導磁石の応用が期待できる。物材機構の熊倉浩明氏は、「MgB2系の線材開発では、高磁場中での臨界電流密度等、基本特性の向上に急速な進歩が見られており、今回の成果で、当初悲観的であったマグネット応用に目処がたったと思う。今後も我が国で発見されたこの新材料の実用化に向けて、世界の研究をリードして行きたい。《とコメントを述べている。

(Clark Kent)


図1 MgB2系超伝導コイルの外観
中心磁場0.5テスラ発生@255A、4.2K