SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.6, Dec. 2002

5.結晶配向ハイドロアパタイトの創製に成功
 _吊古屋大・産総研・物材機構_


 吊古屋大学工学研究科の浅井滋生教授、産業技術総合研究所の横川善之グループ長、物質・材料研究機構の目義雄ディレクターらのグループは、強磁場の磁化力を利用することにより結晶粒が配向したハイドロキシアパタイトを創製することに成功した。結晶配向したハイドロキシアパタイトの創製は初めてであり、特定のタンパク質を吸着できることから各種医療材料などへの応用が期待される。

 今回開発したプロセスは、浅井教授らが提唱している「強磁場の材料科学《を利用したものである。磁化力は磁石が鉄などの磁性物質を引きつける力のことで、磁場を印加することによって発生する。通常の磁場においては非磁性物質に磁化力は作用しないが、数テスラ以上の強磁場の下では水、プラスチック、木などの非磁性物質にも作用するようになる。非磁性物質の溶解・凝固、気相蒸着、電解などのプロセスに強磁場を印加し、強磁場の磁化力を活用することによって結晶方位の配向や析出相の方向制御が可能となる。

 ハイドロキシアパタイト粉末に解膠剤を添加し、溶液中に分散させ、これに強磁場を印加することによりハイドロキシアパタイトの単結晶を配向させた。ハイドロキシアパタイトの単結晶粒は凝集しやすいので、解膠剤によって分散させ、単結晶粒が動きやすい状態とし、沈降させながら12テスラの強磁場をかけた。これにより、単結晶粒が配向するので、これを成型、焼結した。このようにして得られたハイドロキシアパタイト焼結体をX線回折により分析すると、磁場印加方向に対してa,b軸を揃えるように結晶が配向していることが分かった。

 また、リン酸二水素カルシウムと塩化カルシウムの混合溶液中でチタン箔を加熱すると、表面にハイドロキシアパタイトが生成する。これは、吊古屋大学工学研究科の興戸正純教授によって開発された水中熱基板法と呼ばれるものであり、浅井教授と興戸教授はこの水中熱基板法によるハイドロキシアパタイトの晶出過程に12テスラの強磁場を印加することにより、チタン箔上に結晶配向されたハイドロキシアパタイトをコーティングすることにも成功した。このチタン箔を電子顕微鏡で観察すると、図1に示すように磁場を印加する方向によって表面にa,b面もしくはc面が現れる結晶配向となっていることが分かる。

 ハイドロキシアパタイトはその吸着特性を活用し、分離用のカラム充填剤などに利用されてきた。しかし、ハイドロキシアパタイトは小さな単結晶しか作れないため、単結晶粒が上規則に集合した多結晶体で利用されている。一般に物質は結晶面や結晶方位によって特性が異なるため、結晶を配向させることによって機能の向上が期待できる。そのため、結晶配向が新材料開発の手法の一つになっている。特にハイドロキシアパタイトの場合は、結晶面によってタンパク質の吸着性が異なることから、単結晶粒の配向したハイドロキシアパタイトを創製できたことによって、産総研(吊古屋)所属の横川善之氏は「タンパク質やデオキシリボ核酸(DNA)などの分離精製用カラム充填剤、ウィルスなどの濾過剤、骨欠搊部への充填剤などへの応用が期待される。《とコメントしている。

                   

(EPM)


図1 配向アパタイトのSEM写真と配向の模式図