SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.6, Dec. 2002

4.特性制御可能な高温超伝導SIS接合の作製と高周波応答
 _物材機構_


 物質・材料研究機構の高野義彦氏、羽多野毅氏、戸叶一正氏、山下努氏、立木昌氏らのグループは、d波対称性を利用し、特性制御可能な高温超伝導SIS接合の作製に成功し、高周波応答によりそれを検証したと発表した。固有ジョセフソン接合は、連続するSIS接合として知られているが、結晶内に天然に形成された接合だけに、特性を人為的に制御することは大変難しい。また、SIS構造を人工的に積層することはさらに困難である。そこで、制御性のあるSIS接合を作製するために、着目されたのがウイスカー十字接合である。

 ウイスカー十字接合については、スーパーコムVol.10, No.1, 2001年2月号で最初に紹介されたが、簡単にその特徴を記そう。仕組みは至って簡単で、二本のビスマス系高温超伝導ウイスカー結晶を用意し、MgO基板上にc面で接するように交差させた後、850℃で30分間加熱し接着するというものである(図1)。ウイスカーの形状は、細長い短冊状でa軸方向に長く約5mm長、b軸方向に約20mm幅、c軸方向の厚さは約2mmで、接合の面積もおよそ20×20mmと小さいため、固有接合の観測が可能となる。接合接合もウイスカー結晶も電気炉一つで作製でき、特別な装置は全くいらないので、これから高温超伝導ジョセフソン接合の研究を始める方には最適である。さて、このウイスカー十字接合の作製プロセスで重要な点は、二つのウイスカーを接着するというプロセスにある。接着というプロセスだからこそ、人為的な制御性の入る余地があるのだ。では、ウイスカーの交差角度を90°から45°へと変化させていくと接合特性はどう変化するだろうか? もし、金属超伝導のように対称的なs波だったら何も変化無いだろう。しかし、高温超伝導はd波対称性のため、オーダーパラメーターは面内に四回対称性を持っている。図2にウイスカー十字接合の臨界電流密度Jcの、ウイスカー交差角度依存性を示す。Jcはα=90°で最高となり、角度の減少とともにJcも低下しa = 45°で最小を示す。このように、Jcの四回対称性が観測されたことは、高温超伝導体のオーダーパラメーターがd波的であることを実験的に確認したことになる。さらに、実験値は、単純なdx2-y2波から予想されるJc (破線cos2a)に比べ、遙かに強い角度依存性を示すことも解った。この特徴は、立木氏らによって提唱されている、オーバースクリーニングの理論に良く一致する。対称性に関するこれらのデーターは、高温超伝導発現メカニズムを検討する上で大変有用であろう。

 このように高温超伝導のd波対称性を利用して、制御性の良いSIS接合を作製することに成功したが、ウイスカー十字接合が高周波受信素子として、どのように応用可能かを検証しよう。一般に、ジョセフソン接合に高周波を照射すると、シャピロステップと呼ばれる規則正しい電圧の飛びが観測される。しかし、照射する高周波が素子のプラズマ周波数より低い場合、シャピロステップは殆ど観測できない。ビスマス系高温超伝導体のプラズマ周波数は、200 GHz程度と言われており、固有ジョセフソン接合では、これより低い周波数、例えば数十GHzでは、高周波応答は観測できない。素子をいろいろな周波数に応答させるためには、プラズマ周波数を制御する必要がある。交差角度45°のウイスカー十字接合のJcは、90°接合のJcの1/100程度に制御されていることから、プラズマ周波数においても、約20 GHz程度に制御されていると予想される。そこで早速、45°のウイスカー十字接合に20 GHzの高周波を照射し、高周波応答が見られるかどうか実験した。図3は、20GHz照射下のI -V特性である。40mVステップの美しいシャピロステップが観測され、20GHzの高周波にウイスカー十字接合が応答していることが明らかになった。このように、ウイスカー十字接合の交差角度を変化させることで、Jcやプラズマ周波数などの接合特性を制御し、一般的な固有接合では応答できない周波数にまで応答範囲を広げることに成功した。

 「高温超伝導体がd波だからこそ、このような制御性が生まれた。制御性が良く簡単に作製できる高温超伝導SIS接合は、これまでにあまり例がないので、今後、この素子の特徴を生かした、新しいデバイスの開発を手がけていきたい。《と高野義彦主任研究員は話している。

[参考文献]
1. Y. Takano et al. :SuST 14 765 (2001).
2. Y. Takano et al. :Physica C 362 261 (2001).
3. Y. Takano et al. :PRB 65 140513R (2002).

(酔龍)


図1 ウイスカー十字接合の作成法


図2 臨界電流密度Jcのウイスカー交差角度依存性


図3 45°のウイスカー十字接合で観測されたシャピロステップ