SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.6, Dec. 2002

3.見直されるべきNb3Ga超電導体
_物材機構_


 物質・材料研究機構(NIMS)超電導材料研究センタ*ではNb3Al実用化のため、急熱急冷変態法(RHQT法)という製法を研究しており、この製法のため、急熱急冷装置(RHQ装置)を開発している。このRHQ装置は、2,000℃付近の高温でミリ秒以下の超短時間熱処理が可能である。

 高温熱処理は確かに、結晶成長を大幅に加速する。しかし、熱処理時間を百万分の1に大幅に短縮できれば、結晶成長が顕著でない高温熱処理が可能かもしれない。このようなアイデアで、この度Nb3Ga線材作製にRHQ処理を適用することを始めた。

 A15型化合物のNb3Gaは忘れ去られていた超電導材料である。酸化物超伝導体発見以降にこの世界に踏み込んだ人にとっては、たぶん初めて聞く材料吊であろう。しかし、今から30年前では、状況は全く異なっていた。当時、Nb3Gaは超電導材料の中で2番目に高いTcを持ち、最高のTcを持つNb3Geが薄膜状でなくては合成できなかったのに対し、まがりなりにも、バルクで20 Kを越えるTcを示し、Hc2 (4.2 K)も30 T以上であり、実用Nb3Snテープ線材(Nb3Sn極細多芯線はその当時、製造プロセスが提案された段階)のTcやHc2を大幅に上回っており、大勢の研究者(今日の酸化物超伝導体やMgB2研究に群がる研究者ほど多くはないが)が熱心に線材化を試みた。そもそもNb3GaのTc値としては、14.5 Kという値が知られていた。この値は当時でもそれほど注目を集める値ではなかった。ところが1971年Webb等が、ア*ク溶解で作ったNb3Gaを1,800℃で熱処理(この温度付近でのみ化学量論組成のNb3Gaが存在できる)後、急冷し、次いで700℃付近で結晶の長距離秩序度を向上させる後熱処理を行うと20.7 KのTcが得られることを報告すると、研究ブ*ムが起こった。CVD法、同時蒸着法、スパッタ*法、拡散法、レ*ザ*ビ*ム照射法等のNb3Ga線材化法が次々と提案され、19~20KのTcを持つNb3Ga線材が得られることが明らかにされた。しかし、いずれの製法も、高温熱処理、クエンチ、及び後熱処理を含んでおり、この高温熱処理が結晶粒の成長をもたらし、A15型化合物のピン止めセンタ*である結晶粒界密度を低下させ、高いJc値を得ることができなかった。このため、Nb3Gaの研究はブ*ムが去ると急激に衰退し、特に酸化物超電導材料の発見以後、顧みられることもなく、忘れ去られた超伝導体となっていた。

 冒頭に述べたようにNIMS超電導材料研究センタ*はNb3Alの実用化を目指した研究で、RHQT作製法を行うためにRHQ装置を開発している(図1)。このRHQ装置は、2,000℃付近の高温でミリ秒以下の超短時間熱処理が可能である。普通、このような高温での熱処理は、加熱と冷却に時間がかかるため、1,000秒程度の時間がかかることを思い起こしていただきたい。高温熱処理は確かに、結晶成長を大幅に加速する。しかし、熱処理時間を百万分の1に大幅に短縮できれば、結晶成長が顕著でない高温熱処理が可能かもしれない。このようなアイデアで、InoueらはNb3Ga線材作製にRHQ処理を適用することを試みた。

 具体的にはNb線にGaを溶融メッキし、次いで700℃で熱処理する事で、表面がNb3Gaで覆われた複合線材を作製した。これを300本Nbパイプ中に詰め込み、伸線加工することで、Nb/Ga前躯体線材を作製し、この線材をRHQ処理することで、Nb3Gaを生成させた。急冷後のNb3Ga線材は16 K程度のTcしか示さないが、700℃付近で後熱処理すると19.7 KまでTcは向上する。超電導*常電導遷移は帯磁率で測定しても、抵抗法で測定しても、図2に示すように、極めてシャ*プであった。電顕観察で見積もった線材中のNb3Gaの占積率とIc値から求めた、Nb3Ga相当たりのJcは図3に示すように、実用超電導線材に十分匹敵し特に高磁場中で高い。4.2 Kにおいて20 T、23 T、及び25 TでのJc値はそれぞれ、370 A/mm2、250 A/mm2、及び160 A/mm2であった。クレ*マ*プロットで求めたHc2 (4.2 K)も32 Tを越えており、実用的に極めて興味深い。問題点はNb3Gaの線材中の占積率が小さいため、overall Jcが低いことであるが、研究ははじまったばかりであり、前駆体線材の断面構成等を最適化する事により、解決できると考えられている。現段階でも30年来の課題であったNb3Gaに大きいJcをもたらす事に成功しており、今後の発展が興味深い。

 ローレンスバークレー国立研究所のScanlan氏は「すばらしい成果だ!今後、Nb3Ga開発状況を見守っていく必要がありそうだ。《とコメントしており、またNIMSのKikuchi氏は「すごいですね!Laves相(ご存じない人は超電導材料界の古老に聞いてください)→Nb3Al→Nb3Gaと超電導裏街道一直線ですね!《と述べている。

(超電導おたく通信)


図1 急熱急冷装置の概念図。
前躯体線材は電極プ*リ*とGaバスの間で通電加熱され、
溶融Ga中を通過する事で、連続的に急冷される。


図2 6.1 J/mm3のエネルギー密度で、急熱急冷処理した後、
700℃で100 hrの後熱処理したNb3Ga線材の帯磁率による超電導-常電導遷移(A)と
抵抗測定による超電導-常電導遷移(B)。


図3 RHQ法により作製した典型的なNb3Ga線材のNb3Ga相当たりのJcの磁場依存性。
比較のため、ブロンズ法による(Nb,Ti) 3Sn実用線材、及び次世代実用線材として
期待されているRHQT法Nb3Al線材のJc-B特性を示した。