SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.6, Dec. 2002

10.超電導A/D変換器・フロントエンド回路で40 GHz動作を実証 _日立_


 日立製作所は、単一磁束量子回路(SFQ回路)に基づく、アナログ*ディジタル(A/D)変換器・フロントエンド回路の40 GHz高速動作の実証に成功したと発表した。この成果は、1997年より開始した文部科学省の科学技術振興調整費総合研究「単一磁束量子を担体とする極限情報処理機能の研究《において得られたものである。日立はこのプロジェクトに参画し、次世代無線通信でのニーズに応えるべく高速・高精度A/D変換器の開発に携わってきた。今回得られた成果は、超電導A/D変換器の実用化に向けた研究を一層加速すると期待されている。

 SFQ回路は磁束の量子化現象を利用した超電導回路である。情報担体である単一磁束量子(SFQ)は幅数psの電圧パルスとして伝播するため、SFQ回路は数10 GHzを超える高速動作が可能である。日立はこのSFQ回路の特長を最も活かす応用として、高速・高精度なA/D変換器・フロントエンド回路を検討してきた。今回発表したフロントエンド回路はS-D変調器、デマルチプレクサ、スクイドアンプで構成されている。変調器はアナログ信号を40 GHzで量子化し、変調データとして出力するものである。しかし、変調データの周波数は高く、かつその信号レベルが0.1 mVと低いため、超電導回路外へ信号を伝送することができない。そこで、デマルチプレクサで変調データを複数のチャネルに分配することで1チャネル当りのデータレートを下げ、さらにアンプで信号レベルを1 mVに増幅するのである。

 フロントエンド回路の動作実証は、これまでに構成要素レベルで行われていた。しかし、回路全体を1チップに集積し、高速動作させることは困難であった。その障壁となったのは、第1に要素回路間でのクロック信号とデータ信号のタイミング設計であった。これはSFQ回路の正常動作に欠かせないものである。しかし、実際の回路では作製プロセスにより回路パラメータがばらつく。結果としてタイミングが変動し、回路の誤動作の原因となっていた。この影響は回路動作が高速になるほど顕著になる。回路設計を担当する古田太研究員によると、「この問題を解決するために、モンテカルロ法に基づいた回路シミュレーションを行い、タイミングの変動範囲を推定して、タイミング設計にフィードバックする手法をとった。これにより回路パラメータがばらついても正しいタイミングを確保する回路設計が可能になった。《と述べている。第2の障壁はフロントエンド回路全体を1チップに紊めることであった。デマルチプレクサのレイアウトを工夫し、形状の大きなスクイドアンプを効率的に配置したことにより、フロントエンド回路全体を1チップに集積することが可能となったという。

 作製した回路は、ジョセフソン接合2518個で構成されており、サイズは2.5mm×2.1mmであった。今回の動作実証では、40 GHzの変調データをデマルチプレクサで分配した後、一旦シフトレジスタに蓄え、後から低速クロックで読み出す方法をとった。得られたデータを評価した結果、変調器による入力信号の量子化とデマルチプレクサによる変調データの分配を動作周波数43 GHzで確認した。2000接合以上の回路で40 GHz動作を実証した成果は、世界でも最高水準であるという。一方、電圧測定によるスクイドアンプの動作検証も行われ、全ての出力チャネルで電圧1mVを得、増幅動作を確認できた。

 研究を統括する齊藤和夫主任研究員によると、「今回得られた成果を踏み台にして、フロントエンド回路からの信号の処理方法の検討および変調器の高精度化という、残された課題をクリアし超電導A/D変換器実現に向けた研究を一層進めて行きたい。《と意気盛んである。

(F-SQ)


図1 フロントエンド回路の顕微鏡写真