SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.6, Dec. 2002

1. 超電導技術応用への取り組み _JR東海_


 平成14年7月に、JR東海は愛知県小牧市に新たな研究施設を開設した。研究開発部門の一つである超電導技術チームがこれまでに進めてきた、超電導磁気勾配浮上システム(図1)、超電導発電動機の開発に関する取り組みを以下に紹介する。

1. 超電導磁気勾配浮上システムの開発

 磁気勾配浮上システムは、別吊mixed-µとも呼ばれ、1939年に独のBraunbekが提唱した反磁性体を用いた安定浮上原理から発展して、その後1970年代後半に英国等で熱心に研究されたことに始まる。このシステムは、反磁性体の磁気遮蔽機能(超電導体のような完全反磁性体の場合は、比透磁率ms=0)と、空気(ms=1)および強磁性体(鉄の場合にはms≒1000)を巧みに組み合わせることによって、強磁性体を空中に安定的に浮上させることの出来るシステムである。磁気遮蔽体には、超電導体が非常に良好な反磁性体として利用できる。

 本提案がなされて以降、主に海外において何件かの実証試験が実施され、その原理が間違いのないことが証明されてきたが、ほとんどすべての実験は極低温領域(液体ヘリウム)の中での浮上実験であった。

 日本においては、東京大学の大崎博之助教授が1993年頃から、本システムに関する解析ならびに実証試験を継続してこられた経緯があり、小型の浮上体ではあるが、常温空間において鉄を浮上させた試験結果も報告されている。

 JR東海では、この浮上システムの特徴として、(1)制御が全く上要なシステムであること、(2)相対速度がない静止状態でも安定浮上できること、および(3)浮上システムの一方の構成要素が安価な鉄で済むこと、等に注目するとともに、超電導に関する近年の進歩を活かせば価値ある実用的浮上システムを構成できると判断し、大崎助教授との共同研究として開発に着手した。

 上記の背景から、比較的大型の設備を目指して検討を行い初めて製作した試験装置を用いて、今年になってから各種の確認試験を実施してきた。

 本試験装置は図1(p.1)に示すように、磁場発生用コイルとしてレーストラック形状の超電導コイル、磁気遮蔽体としてNbTiの多層板、浮上体として磁性体である鉄塊から構成されている。矩形状の超電導磁気遮蔽体はレーストラック形超電導コイルの内周側4面に配置されており、直方体形状の試験空間を垂直に囲む形になっている。いずれもギフォードマクマフォン冷凍機により4K付近まで伝導冷却され超電導状態になるので、浮上試験が可能となっている。

 浮上試験体である磁性体の形状と配置を種々変更して浮上特性を確認した。これらの試験の結果、超電導コイルの起磁力が200kAのとき、常温空間内に置いた質量79kgの浮上体[磁性体(鉄)26kg+ステンレス架台(13kg)+付加質量(40kg)の合計]を、無制御で安定して浮上させることに成功した。

 さらに、有限要素法によりこれらの浮上・案内系の電磁力特性を解析したところ、実験結果と非常に良い一致を得ることが出来た。グループリーダーの久保田通彰氏によると、超電導の特徴を活かした新しい応用分野の一つとして、搬送装置等への適用を考えており、さらに特性向上を目指す予定であるとのこと。

2. 超電導発電動機の開発

 応用面から見た超電導磁石の大きな魅力の一つに、高い電流密度により強力な磁場を安定して確保出来る点が挙げられる。発電機や電動機は、強力な磁場を確保することが出来れば性能向上を図り得る代表的な応用分野であるが、常電導による既存の機器も大きな進歩を遂げており、且つ、比較的効率も高いことから低温設備を必要とする超電導機器が容易に入り込める領域でないのも事実である。

 こうした背景はあるものの、強力な磁場を活かした超電導発電機もしくは超電導電動機は、従来設備に比して低速領域での特性を確保できる可能性が高いこと、また軽量化を要求される分野においては魅力的な設備になる可能性を有しており、発展性が期待できるものと判断している。

 このような観点から、超電導技術応用の対象として超電導発電動機の実用化を推進する目的で試作装置の製作と試験を開始した。今回開発した装置では、界磁として真空槽内に円筒上に配置した8個のYBCO円形バルクを使用しており、バルクは冷凍機により約30Kに伝導冷却される。回転体である円筒形の常電導電機子コイルが、その外周に配置されている。バルクと電機子の間には真空容器の外槽が介在することになる。

 電動機として使用する場合は、スリップリングを介して3相交流電流を電機子に入力する。出力軸は負荷装置に接続されており、各種の条件下で特性確認をすることが出来る構成となっている。試験装置の概観を図2に示した。

 バルクの着磁は、円筒状真空槽の外側からバルクを挟むように着磁用コイルを常温空間に設置した後に、パルス着磁法によって実施した。現時点までの試験では、バルク表面で約1.5Tの着磁を確認している。

 グループリーダーの稲玉哲氏によると、「今回試作した装置は超電導発電動機開発の第一ステップであり、容量としても非常に小さなものであるために、まだ総合効率等を議論できる段階ではないが、主として低速領域での応用と軽量設備の魅力を活かした実用機への足がかりとしたいと考えている。《とのこと。


図1 大型超電導磁気勾配浮上システム試験装置


図2 超電導発電動機

               

(E.S.)