SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.5, Oct. 2002

6.DOE報告審査会でY系m級テープの結果を大々的に発表
_3M社・ASC社・IGC社_


 次世代線材を巡る日米間の開発競争は、益々熾烈さを増してきている。日本勢は、数10m級の線材を開発するなど依然としてリードを保っているが、最近米国勢に開発を更に加速しようとする動意が見受けられる。従来、開発の前面は国立研究所群が担っていたが、下記のように民間企業が前面に出てきているのが最近の特徴である。

 Superconductor Week誌8月26日号によれば、今年度のDOE報告審査会に出席した参加者は、Y厚膜導体の研究開発に於ける進歩に一様に感銘を受けたようである。殆ど全部の研究グループは、多数のm長サンプルで1MA/cm2以上のJcを達成し、厚膜導体の着実な進歩を報告した、とのこと。

 オークリッジ国立研究所(ORNL)超伝導プログラム部長のB. Hawsey氏は、「昨年、我々の産業パ−トナーは少し失望しているように見えたが、今年は彼等が再び元気を取り戻して、皆がより良好なテープを作製し、勇気付けられる結果を得ている。」と語った。LANLのS. Foltyn氏によれば、3M、ASC、IGC-Superpowerの3社共に連続プロセスで作製した導体で良い結果をえた事は大きいニュースである。単に1社が大きな進歩を遂げたのなら今年は良い年と言えるが、3社共に進歩したと云う事は大事件である、とコメントした。それに同意してHawsey氏は、「初期のBi系開発と同様であるが、民間企業が研究所を凌駕したのは今回が初めてである。」と述べた。

 ASC社は、RABiTS合金テープ上にreel-to-reelで蒸着する方式を採用して、100A以上のIcと再現性を有するm長テープを10個連続に作製した、と報告した。Superconductor Week誌8月12日号で報告されているように、IGC-Superpower社はm長のIBAD基板上で100A台のIc値を実証した。Microcoating Technologies社は、自社独自の燃焼式化学蒸着法(CCVD)を開発して、中間層を積層したテープを作製し、良好な導体特性(YBCO-PLD)を実証した。3M社は、RABiTS−BaF2製造法を用いて最長のテープを作製したが、テープの全長に亘る結果は未だ十分に高くはなかった。

 3M社は、良好な25m長基板の定常的製造に付いて報告し、現在15m長の部分テープを用いて厚膜導体を作製している。短い部分は2MA/cm2台のJc値を示すが、導電性の部分的断続がおこり、その原因はハンドリングに帰せられている。最良の5m長テープでは、0.1MA/cm2より低い電流密度で10Aの電流を通電できた。

 LANL超電導技術センター長のD. Peterson氏によれば、この種の結果は特別に重要である。即ち、国立研究所が非常に長い厚膜導体を作製するようになることは有りそうもない。我々は、10m長の厚膜導体を作製するだろうが、誰かがもっと長い、例えば100m級のテープを望むのなら、我々はむしろ彼等を当センターに来てもらって、当所の設備と熟練を利用して、彼等自身で厚膜導体を作製するよう招請したい。勿論、我々は彼等の顧客になるだろう、と云っている。

 各国立研究所も厚膜導体の進展について報告した。これらの中に、ORNLとASC社によってBaF2製造法で作製された1.5m長テープの報告があった。当テープは、44.2AのIcと1.5MA/cm2のJcを示した。このコンビはまた、85.6AのIcと1.5MA/cm2のJcを有する1.15m長テープも作製した。LANLの研究者は、電流容量の記録的結果は報告しなかったが、MgO中間層採用により製造時間が顕著に短縮した。これは、2002年度の主要な研究成果である。IBAD-MgO法によるサンプルは、一貫して1MA/cm2以上のJcを示し、製造時間はYSZの場合と比べて1/100に短縮している。Sandia研究所は、TFAプロセスにより作製したサンプルで、2.5~4.0 MA/cm2のJcを達成したと報告した。このプロセスで1つ有利な点は、短い焼成時間(約1分)である。アルゴンヌ研究所(ANL)がISD(InclinedSubstrate Deposition)法で作製した短尺テープの結果には、比較的速い製造速度で作製したサンプルが0.55 MA/cm2のJcを示す事が含まれている。ANLは、2003年度に産業界のパートナーと共に、長尺テープの開発を開始する計画と云う。

(こゆるぎ)