SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.5, Oct. 2002

4.ナノ組織制御で高温超電導体の上可逆磁場を飛躍的に向上*77Kで14T以上、世界最高の磁場特性を達成 _超電導工学研究所_


 超電導工学研究所のミリヤラ ムラリダ主任研究員、坂井直道主管研究員らは岩手県工業技術センターと共同で、RE-Ba-Cu-O系バルク超電導体(REは希土類元素)のナノメートルオーダーの微細組織を制御することにより、臨界電流密度の磁場依存性を飛躍的に改善する技術の開発に成功した。

 現在、高温超電導材料開発は、その実用化に向けて活発な応用開発が進められている。中でも、RE-Ba-Cu-O系バルク超電導体は、永久磁石の数倊も強力な超電導バルク磁石が作製できることから注目されている。超電導バルク磁石とは、バルク超電導体内に微細な非超電導物質を分散させた構造からなっており、非超電導物質の強いピン止め力を利用し、大きな磁場を捕捉させたものである。さらに、より強力な磁石を作製する方法としては、材料の大型化とともに臨界電流密度の磁場依存性を高めることが重要である。ここで、実際に臨界電流密度を高めることに成功した。作製したバルク材料の微細組織を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、幅20 nm以下の縞状組織が見られた(図2参照)。また、同材料を走査型トンネル顕微鏡(STM)により観察したところ、大きさが数nmのクラスターが縞状に並んだ組織が観察された(図3参照)。これらクラスターはマトリックスより、わずかにRE 濃度が高く、超伝導特性に劣るので、磁場誘起型ピン止めセンターとして働く。この縞状に並んだ組織が、臨界電流密度の磁場依存性の大幅な向上に寄与していると考えられる。

 Y-Ba-Cu-Oバルク超電導体においては、現在、液体窒素温度(77 K)において1 T程度の超電導磁石が作製されている。この度開発した材料は、強い磁場下で臨界電流密度が飛躍的に向上していることから、液体窒素温度(77K)で10 Tを超える強い磁石を作製できる可能性がある。それにより、液体窒素温度のような高温域における強力バルク磁石などへの高磁場応用が促進されるものと期待される。

 超電導工学研究所の村上雅人第1、第3研究部長は「理論的には、このような組織が実現できれば、77Kにおける臨界電流特性を向上できることは分かっていたが、実際にコヒーレンス長程度の欠陥を均一かつ高密度で分散することは、上可能であろうと思っていた。今回、このような組織制御によって、77Kにおける上可逆磁場が14T以上まで高められたことは、高温超電導の液体窒素温度における高磁場応用にとって大きな朗報である。また、基礎的な観点からも、このような微細なピン止めセンターが、どのような磁気特性をもたらすかについても興味深い。」と語っている。

 強力バルク磁石の応用としては、水浄化装置、磁気断層撮影装置、資源回収用の磁気分離装置、励磁装置、強力磁気浮上装置、等が考えられるが、すでに商品化されているものもあり、今後の応用展開が期待されている。


図1 従来のY123系バルク体(a)、(Nd, Eu, Gd) 123(Nd: Eu: Gdの比は1: 1: 1)バルク体(b) および今回開発した(Nd, Eu, Gd)123系(Nd: Eu: Gdの比は33: 38: 28で5 %の(Nd, Eu, Gd)211を添加している)バルク体(c)の臨界電流密度(Jc)の外部磁場(B)依存性(77 Kにおいて、試料のc軸に磁場を平行に印加して測定)。14 TにおいてもJcがゼロになっていない(14 Tまで超電導体として利用可能であることを示す)。


図2 透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した(Nd, Eu, Gd)123系バルク体(Nd: Eu: Gdの比は33:38:28、5 %の(Nd, Eu, Gd)211を添加)の微細組織。幅20nm以下の縞状組織が見られる。


図3 走査型トンネル顕微鏡(STM)により観察した(Nd, Eu, Gd)123系バルク体(Nd: Eu: Gdの比は33: 38: 28、5 %の(Nd, Eu, Gd)211を添加)の微細組織。大きさが数nmのRE濃度がマトリックスよりも高いと見られる領域(粒子状)が縞状に配列した組織がみられる。この組織が臨界電流密度の磁場依存性の大幅な向上に寄与している。

               

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