SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.5, Oct. 2002

11.スーパーコム10周年記念企画


■グローバル超電導ネットワークへの夢   科学技術振興事業団 北澤宏一

   スーパーコムが10周年を迎える時点で、たまたま、私が東京大学を辞職しましたため、その後の事務局運営を同じ専攻の後輩である岸尾光二教授と下山淳一助教授とで引き受けて下さることになりました。また、幸いなことに古戸義雄編集長と井深緑事務局長はそのまま続けていただけます。これまで同様スーパーコムが刊行を続けられること、皆様に感謝したいと思います。私自身の転職に関しましては、間もなく発刊しようと企図している本でその真意をお伝えできたらと思います。

 液体窒素温度超伝導物質は、1987年のWu氏らによるイットリウム系、88年の金材研(現物質・材料研究機構)前田弘氏らによるビスマス系発見で悲願は達成されました。しかし、大電流はなかなか流せませんでした。臨界電流の向上には材料科学上の工夫、すなわち、微細構造の高度な制御が必要でした。機械的加工を配向組織形成にうまく利用したビスマス系線材の市販が発表されるまでには15年の歳月が必要でした。本格的市販に至るまでには、約10件と言われる重要特許のライセンシング問題をまだクリアしなければならないといわれています。このことからも、高温超伝導線材は複雑・高度な材料技術を必要としたことが分ります。一方、イットリウム系線材もフジクラの飯島康裕氏らによるIBAD法の発明をきっかけに、日米の厚膜線材開発が急ピッチです。

 この機会を頂いて、直流超伝導ケーブルによるグローバル電力ネットワークと大陸間リニアモーターカーの実現が21世紀の人類の夢にふさわしいと信じるようになった理由を紹介させて頂きます。ただし、この主張は現在の勤務先とは何の関係もありません。

 前者は風力発電や太陽光発電など自然エネルギーのコストを下げます。その理由は地球全体の送電網では、適地での発電が可能になるからです。自然エネルギーによる発電のコストを下げるには有利な土地での発電が有効です。また、風力や太陽光はお天気任せで、電力貯蔵が必須と考えられていましたが、地球規模で平均化すれば、照るところ、風の吹くところなどを平均化できますし、昼夜や夏冬もなくなります。これもコストを下げるのに非常に有利です。もしも、現在の電力価格の2倊程度にまで自然エネルギー発電のコストが下がってくれば、私は人類はそれを選択する叡智を持ち合わせていると信じたいと思います。現在の発電価格は、風力で4-5倊、太陽電池で10倊程度とも言われます。

 既に現在の技術の延長上で、このような超伝導ケーブルは製作が可能になってきました。冷却も20kmごとに1台の液体窒素製造機を置くだけで良いと試算されています。そうなると送る電力の数%程度でシベリア程度の遠距離でも冷却が可能となる計算です。もしも、例えば、水素を作って運ぶと製造時の効率が7割、それを用いて発電する効率が7割としても5割はロスになる勘定です。超伝導送電が大陸間でも有利と判断する根拠です。

 一方、発電装置を国内に持たないと怖いという人がいますが、現在の石油は非常に限られたルートを通って我が国にやってきており、その意味では、多チャンネルで異なった国を経由して伝わってくる電力ネットワークの方が私にははるかに安全なように思われます。

 超伝導リニアモーターカーは究極の安全性を求めてJRが35年も前に開発を始めたものです。車輪とレイルとの間の1点接触という宿命を列車が負うことへの反省から、非接触を理想として浮上列車の研究が開始されたものです。航空機スピードの半分500km/hが経済速度(1気圧の場合)ということで、北京―上海間1500kmを日帰り圏にしたい中国などにとっては特に魅力のある乗り物だと思います。江沢民主席や朱溶基首相が多大な興味を寄せるのは当然と思います。自然エネルギーによるグローバル電力ネットワークと併せれば、炭酸ガス排出もない21世紀の人類の叡智が選択すべき基幹交通システムと信じます。運輸省も技術の囲い込みを緩めて、中国との協調を図っても良いのではないかと私はひそかに感じています。

 磁気浮上列車には超伝導反発浮上型と非超伝導磁石による吸引浮上型(上海市内用に採用決定)がありますが、前者は壁との間隔を10cm程度にとれるのに対して、後者はレイルとの隙間を5mm程度に保たないと吸引力がでません。私自身は、長期・長距離のメンテナンスを考えるとなるべく列車と壁(あるいはレイル)との間隔は大きくとりたいのが人情と思います。また、反発型は間隔調節がまったく上要であるのに対して、吸引型では磁石がレイルにくっついてしまわないように、常に制御が必要です。これらの点が長距離列車にとって超伝導型が本質的に優れる点と考えます。

 私の夢は、敦煌などシルクロードのオアシスに途中下車しながら、リニアで欧州までの旅を楽しめる日がくることです。その頃には超伝導がグローバル・ウォーミング回避の切り札であることが世界のひとびとの常識になっているでしょう。すでに、私たちが選択すればその道は技術的には開けています。超伝導技術の更なる発展が、両システムの導入をさらに加速してくれるものと思います。21世紀の人類が生きた証として、この2つのグローバル・ネットワークを選ぶことがもはや必然と思えるのです。

■スーパーコム事業を継承して  東京大学大学院工学系研究科 岸尾 光二

 北澤先生が始められた「スーパーコム」は、今号で発刊10周年を迎えました。この記念すべき時期に先生が離任されるのは誠に残念ですが、私が従来の脇役から急遽この重責を担うことになりました。宜しくお願い致します。

   この10年間を振り返りますと、初期の困難な時期を経た後、徐々に高温超伝導の研究開発が進み、最近では応用研究が盛んになってきました。高温超伝導も「夢の研究」から「現実の研究」になりつつあります。このような研究開発の進展に対応して、読者からの投稿も増え、製品開発のニュースのバラエティも拡がっており、これら情報を迅速に収録・発信してきた本誌は、幸い好評を戴いており、部数も1700部に増大しています。このような北澤先生が敷かれた路線を踏襲し、次の10年に向けて編集スタッフと共に、一層の充実・発展を目指していきたいと思います。是非、読者と同時に発信者としてもご協力戴ければ幸いです。

■スーパーコム発刊10周年記念企画について  編集長 古戸 義雄

 本誌は今10月号で発刊10周年を迎えました。まず発刊以来、読者の皆様から寄せられた温かいご協力、ご支援に感謝し、厚くお礼申し上げます。

 さて、スーパーコム発刊10周年記念企画として、“読者の声”を公募致しましたところ、早速予想を上回る多数の方から”読者の声”を戴き、感謝・感激しております。“読者の声”の全文を以下に収録いたします(氏吊50音順)。

 お陰様で、北澤先生が創刊のスーパーコムは、皆様からご好評を戴いており、”価値ある情報を、自由な形式で迅速に提供する”という本誌の方針も支持されています。先生がこの度離任されるのは大変残念ですが、先生が敷かれた路線を今後も継承して頑張って行きたいと思います。 読者の皆様からは、建設的なご意見や超伝導の将来性についての明るい展望と本誌の使命について多大の激励を戴き有難うございました。関係者一同これを肝に命じて、本誌の一層の充実と発展に努める所存です。今後ともご支援宜しくお願い致します。

■「超電導コミュニケーションズ(Super-Com)」10周年をお祝いして   青山学院大学 秋光 純

 早いもので、Super-Comが発刊されてから今年の12月で10年になるとのことである。感無量である。

 その前には「日経超電導」が1988年1月に創刊され、ほぼ5年間続いた後、Super-Comが後を引き継いだということになるのであろう。

 人生においていつでもそうであるが、筆者にとっては「日経超電導」の時代がとても長く感じられ、Super-Comの時代はあっという間に過ぎ去った感がある。人生に例えれば、「日経超電導」の時代は、新しい物質が次々と見つけられたという激動の青年期であり、Super-Comの時代は、応用をにらんだ成熟期(中年期?)ということになるのであろうか?

 しかし、これは酸化物超電導の人生(?)であり、何も超電導は酸化物だけでないのは勿論である。

 正直に言うと、Super-Comも新聞である以上、“あっと驚くような”事が無いと盛り上がらないし、それには、新しいタイプのhigh-Tcの超電導体を見つけるのが一番ニュース性があるであろう。

 しかし、新しいタイプのhigh-Tc超電導体を見つけようとすると、確固たる指針がないという点でBednorz-Müllerと同じ出発点に戻らなければならなくなる。しかし、Bednorz-Müllerと若干立場が異なるのは、少なくとも高いTcを持つ超電導体(できれば室温超電導体)が存在してもおかしくないという確信が、多くの人に存在することであろう。

 筆者のまわりを見回すと、どんどん若い人がこの世界に参入し、筆者も現役生としては、“最長老”に近い歳になってしまった。

 幸い、周りを若い元気な人に取り囲まれているので、後数年の間でなんとか新しい超電導体を発見したいものである。

 Super-Comも、北澤先生から若い岸尾さんにバトンタッチして、いろいろ変わっていくであろう。財政的問題その他難しい問題もあると思われるが、是非この火を絶やさずに続けていってもらいたいものである。

 Super-Comがもし休刊するようなことがあれば、多くの人が“ああ、これで超電導も終わったか”という印象を持つであろう。

 御健闘をお祈りしたい。

■スーパーコム発刊10周年を祝して   電力中央研究所 秋田 調

 スーパーコムの10周年、おめでとうございます。なんらかの御支援をしなければと思いつつ、この10年一方的に貴重な情報を御提供戴いて参りました。発刊当初は、匿吊記事による速報性を重視した記事内容であったと記憶しておりますが、最近はありきたりのジャーナルを遙かに凌ぐ内容の濃い記事を継続掲載されてきており、北澤先生、岸尾先生、古戸編集長をはじめ、関係者の御苦労がますます増えているのではないかと案じております。

 私がスーパーコムから戴きます情報でもっとも貴重な点は、速報性と共に、関係者にしか知られていない掘り下げた情報が得られる点、および、多面的な見方からの情報が得られる点にあります。このため、時には頭の中でバランスを取りつつ読み進めさせて戴くこともありますが、スーパーコムに記載されている圧倒的な情報量は他の追随を許さず、極めて確固とした存在意義を持っていると思います。このような商業誌、学術誌では発揮できない機動性を活用した記事を今後とも御提供戴けることを期待致しまして、お祝いとしたいと思います。

 なお、読者の誰もがスーパーコムへの御協力を惜しまない気持ちであると思いますので、多くの方々の力を引き出して、長く続く発刊方式を目指して戴ければ幸いです。

■フジクラ 飯島 康裕

 本誌は超伝導に関して網羅的に先進的なトピックスをタイムリーに提供していただけますので、大変助かります。高温超伝導も発見以来15年以上が経過しこれまでの技術面の進歩は目覚しいものがありますが、現実の応用で要求される技術レベルはなお高く、現状で簡単に市場を形成していけるものではないと思います。このような状況では基礎物理から材料プロセス、エレクトロニクス、応用システムまであらゆる分野の方が先端的な仕事を積み上げてやっと現実の応用が切り開かれていくものと思われ、常々他の分野の情報を知る必要を感じています。しかしながら、専門の異なる分野で学会や論文誌の膨大な発表のなかから玉石を見分けていくのは容易なことではなく、本誌の記事は少なくとも本誌編集部のフィルターのかかった情報として大変参考になっています。研究者の氏吊を出してコメントを記載させるという方法も、当事者の責任を持たせながら学術誌では伝わりにくい感触がつかめますので今後も続けていただければと思います。また製品化情報とか新プロジェクトの動向など、学術誌にはない各種の新しい情報にアクセスしていただけるので、この点でも大変貴重な情報ソースとして重宝しています。今後もより一層の充実した記事を期待しています。

■高温超伝導研究の終わるとき?   東京大学 内田 慎一

 高温超伝導発見から10年近く経った頃、若手の研究者から、「高温超伝導メカニズム追求の研究は、いつ終るのでしょうか?」と言う質問をしばしば受けました。当時、すでにTcの上昇は止まっていて、フォノンではなくスピンゆらぎが超伝導の主役と考えれば高温超伝導の基本的な所は理解できるのではないかという雰囲気があったからです。また、当時は若手にとって、高温超伝導研究が今後も挑戦するに値するテーマかどうかの岐路であった事も確かです。

 この問いに対する私の答えは、「基本的な事が理解できたと多くの研究者が判断した時が研究の終りで、それは主要な研究者がテーマを変え、新規の参入もなくなるから学会などを見ていればわかるよ」というものでした。内心の答えは「自分で撒いた種は、自分で刈るよ」ということだったのですが。

 さて、その後どうなったかといいますと、彼等そして私を含む多くの人間が未だ研究を続けています。一部の大家を除いて、誰もがメカニズムの基本的な所がわかったなどとは考えていないのです。その間にも、ストライプ秩序の発見やフォノンの関与を示唆する光電子分光実験、STMによるナノスケール相分離など新しい展開があり、新規の参入を促すとともに高温超伝導描像の根本からの見直しを迫っています。未だ未だ「終り」はみえていません。

 宇宙や生命は謎に満ちたもので、我々が果たして完全な理解に到達できるか否かは神のみぞ知るですが、世界中の知恵と技術を総動員しても未だ解明できない「世界」が、我々が容易に手に触れる事のできる銅酸化物という無機物質にもあるということを発信し続けて下さることを、スーパーコムに期待しております。

■山形大学 大嶋 重利

 スーパーコムが発刊されてもう10年が経つと聞き、驚いております。スーパーコムの出版を担当されている方々には本当に頭が下がります。超伝導を研究している人間にとって、特にエンジニアリングの研究者にとっては、企業の最前線の研究動向を「知る」ことは極めて重要なことですが、なかなか「知るルート」を見出せないのが実情だと思います。特に、地方研究者の私にとっては、情報を早く入手できない悩みがあります。そんなときに、スーパーコムは非常に役に立ちました。論文や学会発表にはなかなか載らない、企業最前線の開発情報が非常に多く含まれており、貴重な情報源になっております。また、国際会議やサミットなどのスピーディーな報告も非常に役に立ちます。時には未確認の「室温超伝導」の記事が載ることもありましたが、それはそれで、楽しい情報でした。スーパーコムは、専門学術雑誌とは異なりますので、やや曖昧性はあっても、読者に「情報を提供する」という観点に立ち、記事にするべきだと思います。今後のスーパーコムに望みたいことは、現在の目的を継続して、企業・大学・研究所等の最前線の開発研究や試作機器の情報を迅速に発信して欲しいことです。また、投稿者には、できれば内容を追尾できるリファレンスも書いて欲しいと思います。スーパーコムは「学術専門誌」にはならないで下さい。

■北海道大学 大西 利只

 超伝導の研究は変化が激しく多岐にわたるためそれらをコンパクトにまとめて迅速に周知する専門情報誌は本当に有難いものです。貴誌スーパーコムはまさにその代表的存在でしょう。これだけ膨大な情報を的確に編集し希望者すべてに無償で提供する方式(これには頭が下がります)や、記事一つひとつの署吊をペンネームとして客観性を重視する姿勢等、他には見られない独自の編集システムとされたご努力に心より敬意を表したいと思います。お蔭様で毎号愛読し、研究等に大いに利用させていただいております。今後とも是非継続していただければ幸いです。超伝導の研究開発は一時の華やかさが落ち着き、いま着実な研究過程にあると思います。薄膜やバルクいずれも特性が相当向上しており、例えばパワー応用面で注目されている超伝導限流デバイスも早晩実用レベルになると期待されます。話題がそれますが、私は以前からいま注目されている燃料電池に関心を持っておりました。数年前には実用化が困難視さえされていましたが、ご承知のとおり技術の進展と相俟って環境がらみで自動車業界を中心に熾烈な開発競争が行われております。技術の研究は目標が明確になると短期間でかくも激変するかと驚くばかりです。同様に、超伝導もさらに基礎を固めつつ、たやすくはありませんがニーズの発掘に注力すれば近い将来必ずや開発競争に火がつくのではないでしょうか。そう期待できる下地は出来つつあるように思われます。

■日立製作所日立研究所 岡田 道哉

 スーパーコム発刊10周年大変おめでとうございます。10年は一昔と申しますが、この10年間は、日本の超電導の多くの研究者にとって、本当に大変な10年間であったように思います。深刻さをますデフレ上況の中で、大半の企業が大胆な経営改革を求められました。国も同様で、国立の研究機関の多くが独立法人化しました。本当に、歯を食いしばって開発を推進しなければならない時代になったと思います。けれども、困難な状況にくじけることなく、自分たちの夢を実現しようと多くの研究者ががんばってきました。スーパーコムは、このような冬の時代にあって、くじけそうになる心を叱咤激励し、私たちに「明日の元気の素である“夢と勇気”」を与え続けてくれたように思います。明るい話題も多くありました。MgB2発見のニュースは、日本の技術レベルの高さを世界に知らしめるすばらしい機会であったと思います。

 近年は、情報化社会が加速され、地球がどんどん小さくなっています。グローバルな展望のない国や企業、組織の将来はないように感じます。スーパーコムは次の10年で、是非とも世界のスーパーコムへと飛躍して欲しいと思います。そのときこそ、我々、日本の超電導技術が真に世界に飛躍しているときであると信じています。

■10年、10年、また10年   湘南工科大学 荻原 宏康

 スーパーコムの10年、おめでとうございます。

 あれだけ期待の集まった高温超電導酸化物も、ついに応用超電導のくびきから逃れられなかったなというのが今の思いです。2000年を過ぎた今頃には超の字の取れたただの導体になっているのかなと期待していたのですが。

 10年という言葉にはことさらな思い出があります。超電導磁気浮上列車に超電導陣が本格的に参加したのは1970年(昭和45年)の8月です。日本の鉄道100年に当たる1972年を控えて、鉄道技術研究所でデモる超電導磁気浮上車を目指した開発が始まろうとしていました。

 まずは静止モデルによる浮上力の検証から、ということで乗り物のイメージのまったくない超電導マグネットから始まりました。とにかく浮くことを実証して、いや国会議員さんに実感してもらって開発費用を出してもらおうというところからです。ここで超電導浮上式リニア古事記を読んでもらおうというのではありません。

 当時、超電導線材はほぼニオブ・チタン金属間化合物を超伝導体として使うことになっていました。オプションがなかったわけではありませんが、今の超電導酸化物よりももう少し工業材料サイドに入り込んだところで、素性の悪さが目立ち過ぎていました。それから10年を3回繰り返しています。スーパーコムは一回。その前にあった日経超電導を考えに入れると、というのは理念からいってもスタイルからいってもこれはスーパーコムの前走者、20年になりそう。

 浮上式リニア用超電導マグネットの技術開発の経過の中では、宮崎の浮上式鉄道実験線で超電導マグネットが走り出す頃までは、浮上式リニア用超電導マグネットだけが応用超電導技術開発の目標ではありませんでした。その頃はまだ、超電導マグネット、いや超電導技術開発そのものが目標だったのです。ということで当時、超電導技術開発部隊を擁していた重電メーカーや大手電線メーカーは、それぞれ莫大な開発費を自己負担していたものです。ということでこの研究開発費は企業研究所、技術開発研究所、その費用を支える事業部技術部にとって大きな負担でした。勢い、浮上式リニア、いや、超電導磁気浮上式鉄道はいつモノになるんだと社内の研究開発計画説明会、つまり、研究費要求会議では質問を受け続けたのです。その返事はきまって、あと10年、でした。考えてみれば、あと10年、といえば皮肉や小言を聞かされるのを我慢しなくてはならなかったにしても、研究費はもらえた当時はよかったということになるのかも知れませんが。

 いま、超電導技術の技術面での成否が超伝導磁気浮上式リニアの成否だという人はいないと思います。それでもやはりあと10年はかかるでしょう。路線を決める、トンネルを掘る………簡単じゃないですからね。応用超電導のくびきといったのはこのことなんです。こと超電導にあっては、いや、工業材料としての超電導材料を手にしてからでさえ10年は邯鄲の夢の長さに過ぎないように思えます。

 この10年の間、スーパーコムは随分とたくさんの超電導成果を知らせてくれました。その中味には情報を寄せる側の必要悪としての三百代言的な記事もあると思っていますが、大学に拠点を置くスーパーコムだから報道できるというてのものだったと思います。日経から東大への転籍、いや、実際には日経超電導の東大での蘇生、は酸化物を含む超電導体科学にとっては快挙だったということでしょう。北沢先生に祝福あれ、です。

 でも、はじめにも書いたように私たちが超を意識している間は超電導の実用化はないのです。そのときのために、スーパーコムの変わりない活躍を期待しています。

■日本原子力研究所 奥野 清

 スーパーコム発刊10周年、おめでとうございます。本誌に毎回掲載される数々の役立つニュース、タイムリーな企画など、ありがたく読ませていただくと共に、超電導応用に於ける研究の動向を知る上で、大いに参考にさせていただいております。この場を借りて、これまで編集にあたられた皆様のご尽力に謝意を表します。また、私ども(原研)の成果も何度か記事にしていただき、感謝するしだいです。

 この10年間、ITERを初めとする核融合応用における(低温)超電導技術の進展はめざましく、Nb3Sn超電導線の世界的規模での実用化は最大の成果の一つです。最近になり、本技術の波及効果として、さらに高性能化したNb3Sn超電導線を加速器用マグネットに応用する動きが活発になってきました。その一方で、高温超電導の開発は一時期の華々しいものから、本誌特集にもあったように腰を据えた研究に移りつつあるように思われます。Nb3Snの発見から真の実用化に至るまで半世紀かかったことを考えれば、高温超電導開発はまだまだ駆け出しであり、これが本来あるべき研究の姿かと思われます。スーパーコムは、まさに高温超電導発展の歴史と共にあり、将来もこれがメイン・テーマとなることは疑う余地はありませが、一歩先に民生技術となった低温超電導や大型マグネット技術も、本誌の一端をこれからも担うことと考えます。「本誌の発展=超電導技術の発展」であり、その意味でも、今後のさらなる発展を期待しております。

■大型プロジェクトに求められるものは   京都大学 長村 光造

 国際会議に出席しいつも残念に思うのはわが国における大型プロジェクトとしての超電導研究の体制のアンバランスである。例えば次世代線材に目を向けてみよう。米国の場合企業、国研、大学が緊密な連携のもとにコンソーシアムを組織し開発研究を実施しその最先端の研究成果を国際会議で発表し研究のイニシアチブを維持していることである。ひとつの例として今回のASC2002では機械的性質がひとつの焦点であり、ORNLで作られた試料を用いて最先端の研究がNISTのCheggourによって発表された。余談になるが彼は英国ダーラム大学のHampshireの研究室でPhDを終えた若手の研究者である。かくして彼はこの分野の第一人者と認められてゆくわけである。欧州においても同様に産官学が必ずある一定の割合で組織をつくらねばならない共同研究の場があり、Bi系線材の交流搊失についてはるかにすすんだ研究成果を出している。

 そこで国が主導するような大きな研究開発プロジェクトを効果的・合理的に推進するため次のようなプロセスの可能性を考えてみた。(1)提案されたプロジェクトに参加を希望する組織が公開の場でそれぞれの研究開発の方法を提示し、委員会で採択を決定(透明性の確保)。(2)採択された組織は産官学の立場にかぎらず対等な立場で開発研究コンソーシアムに参加する(イコールパートナーシップの確立)。(3)組織内では製造と特性評価は必ず別組織が実施する等の協力分担研究を原則とする(客観性の確立)。(4)期間内では成果を求めないまでも研究の進捗状況を公開し、プロジェクト終了時には成果発表と外部評価を同時に公開の場で行い、その総括の結果は次期プロジェクトに反映される(社会的責務の明確化)。このような体制が日本にすでにあるだろうかと国プロにある程度関与している人に尋ねてみたら、「残念だが否といわざるをえないな」との答えが返ってきた。

 筆者も常日頃思う事であるが、なによりも国のプロジェクトが信頼されるためには情報公開を基本とした透明性が求められるのではないだろうか。ここでこのようなことを述べるのも世界に立ち遅れ始めた感のある超電導開発競争にいかにして巻き返しをはかるかであり、率直な議論を積み重ねる場として信頼の確立した中立的なスーパーコムでこのような日本の超電導研究の戦略を議論できるようなコラムを設けて頂ければと願う次第である。

■古河電気工業 木村 昭夫

 スーパーコム発刊10周年、誠におめでとうございます。

 何事も新しい事業、企画を起こすことはたやすいことですが、それを維持、発展させることは非常に大きな困難を伴うものです。編集長始めとして、編集部の皆様のボランティアで運営されているのにも頭がさがる思いです。しかし、このことは逆に超電導関連の市場の大きさを考えると営利団体では長続きしないことも現実で、適切な選択であったと思います。

 常温超電導材料が発見され、銅線並の加工性をもった超電導線が実現し銅線に置き換われることができれば、その市場は膨大なものになることは誰にでもわかります。そのような材料がいつ発見されるのか、明日かもしれません。もしかしたら既に見つかっているかもしれません。その市場が膨大だからこそ、線材メーカーとして超電導の開発、研究はやめられないのです。

 当社も超電導に手を染めてから約40年が経過しようとしています。最近になってやっと社内的に1事業としての地位を認めてもらえる段階まできました。この大きな夢を現実にするよう超電導を事業として続けて行きたいと考えています。そのためにも、正確でかつ公正な立場で、さらに元気がでるような夢を膨らませる記事を掲載していただきたいと思います。

■物質・材料研究機構 熊倉 浩明

 このたびはスーパーコム発刊十周年を迎え、おめでとうございます。あれからもう10年になるのですネ。古戸編集長以下、スタッフの皆様のご努力に深く敬意を表したいと思います。スーパーコムがどれだけ超伝導研究者の役にたっているか、今更言うまでもありません。

 毎回送られてくる記事を読みながら、もしこれだけの情報を自分自身で得ようとしたら一体どれだけの時間と労力がかかるだろうかと、常々思います。

 スーパーコムさえ読んでいれば、超伝導関連で重要な情報はまず逃すことはないと思います。スーパーコムの特長は、記事の正確さとわかり易さにあると思います。

 他の新聞や雑誌などでは、往々にして首をかしげるような記事を見かけますが、さすがにスーパーコムではそのようなことは皆無です。私自身は線材などの応用研究を主にやっており、物理などの基礎研究には疎いのですが、それでもスーパーコムを読んでいると基礎研究の流れがフォローできるように思います。超伝導研究も昨今は難しい時を迎えていますが、これからも私たち超伝導研究者に有益な情報を提供し続けていただきたく、よろしくお願い申し上げます。

■日経BP社 黒川 卓

 『スーパーコム』発刊10周年、おめでとうございます。超電導研究に携わっておられる皆様が協力し合い、ここまでお続けになったのはすばらしいことです。最初に申し上げたいのは、これまでにたくさんの人々が携わった超電導研究の成果と、投入した多額の資金は絶対に無駄にせず、必ず世の中で活用される製品を生み出していただきたいことです。

 たしかに、景気が悪化した現在、基礎的な研究活動を続けるには早期の利益または大義吊分が強く求められます。利益を重視する経営者や早物(わさもの)好きの一般人が地道な研究の必要性を理解することは期待できず、これまでに志半ばで超電導研究を止めざるをえなかった人々を多くみました。『日経超電導』の発行を続けられなかった我々も責任を痛感しております。

 これからの時代、最終目的として大量生産を期待しながら物を研究開発することは必ずしも得策ではありません。少しでも利益と雇用を生み出す「スモールビジネス」が何種類もあればいいのです。ただし利益が自己中心的なものであってはいけません。先進国は高度成長期に地球環境を破壊し、開発途上国はそれを繰り返そうとしています。研究の目的を、上要な消費財の開発でなく、環境に保全と回復を、生命に健康と幸福をもたらす分野に向けるべきです。『スーパーコム』にその方向への誘導と啓蒙を期待します。

■物質開発から超伝導応用へ   東北大学金属材料研究所 小林 典男

 スーパーコム発刊10周年おめでとうございます。

 最近のスーパーコムのトレンドはほぼ完全に超伝導応用です。10年前のスーパーコム創刊号の内容の大半が物質開発だったことと比較すると、超伝導研究の推移が良くわかります。ただしこれは、編集長が代わったことも考慮しなければならないので、かなり割り引いて考える必要があるかもしれません。しかし、それを割り引いても超伝導応用の流れは確かなものになって来たようにおもいます。高温超伝導発見の頃の騒々しさはありませんが、日刊工業や日経産業などの新聞紙面でも、おそらく2週間に1度くらいの割合で、超伝導を利用した材料・機器開発の記事が見られるようにおもいます。それも、エネルギー、環境、医学など多岐にわたっています。以前は、超伝導応用といっても実験用の小さなスケールのマグネットしかなかったのですが、いまでは、無冷媒超伝導マグネットの登場で様々な分野に進出しようとしています。

 スーパーコムは、このような流れの中で、極めて懇切丁寧な解説によって、企業や大学の研究者、技術者、学生に貴重な情報を与えてきました。このような優れた情報が、ボランティアによって無料で提供され続けられてきたことは、世界でも類のない出来事ではないでしょうか。私自身は1度も情報を提供したことがなく、10年間ただ一読者として利用させて頂いただけですが、スーパーコムを支えてきた関係者の方々には、本当に頭の下がる思いがします。

 私が超伝導研究を始めた当時は、超伝導は21世紀の技術として未来の夢のひとつだったのですが、実際に21世紀に入り、超伝導は現実の技術として利用されようとしています。上況の中で多くの企業が超伝導研究の分野から撤退していますが、新しい分野で超伝導技術の利用が進んでいるように思います。大学でも、理学部から工学分野での超伝導研究が今後活発になって行くだろうと思います。このとき、スーパーコムの役割はますます重要になるでしょう。

 超伝導が新しい学問分野を形成することを祈りながら、その時でも基礎研究が残ることを切望している次第です。

■スーパーコム 10周年によせて   住友重機械工業 技術開発センター 櫻庭 順二

 編集長をはじめ事務局の皆様のご努力により、10年続いてきたことに敬朊致します。本誌は貴重な情報源として毎回楽しみに拝見しています。記事を読むたびに、記事をかかれた方の超伝導に対する熱意が伝わり、自分自身を奮い立たせる原動力になっています。本誌創刊当時と最近の記事を比較すると、技術、応用範囲ともに格段にレベルが上がっており、心強いかぎりです。創刊の頃は、酸化物超電導電流リードを用いた冷凍機直冷式マグネットの記事が割と頻繁に出ました。最近はマグネットそのものよりも、応用に関する内容。直冷式マグネットそのものは、もう世の中で普通の製品になってきたのだ思います。使う人は酸化物超伝導材料が使われていることなど意識することはないでしょう。多くの分野で、超伝導の技術が身近にありながら、誰もそれを意識することのない世の中になって欲しいと願う次第です。マグネットや冷凍機を開発・提供してゆく立場として、超伝導技術が広く普及することを期待しており、その一端でも担えればありがたいと考えています。まだまだ、本誌の役割は重要と思います。最近、私自身からの情報提供の機会が少なく、編集長からお声をかけていただくたびに心苦しく思う次第ですが、今後とも本誌が長く続くことを期待します。

■日立電線 アドバンスリサーチセンタ 佐藤 淳一

 創刊10年、おめでとうございます。ここまでボランティアで10年もご継続とのことで、ご苦労が多々あったと思いますが、ご努力に感謝いたします。創刊号以来、超電導関係のタイムリーな情報誌としていち早くホットな情報を把握するのに愛読しており、またトピックスがあったときには投稿させていただいております。

 本記事を書くにあたって、10年間のことを振り返ってみました。派手さはなくなったものの地道な実用化への道を歩んでいると感じました。

 ところで超電導関係は市場予測などでは、いつの時代も10年後には巨大な市場になると予測されていますが、残念ながらその予想はほんの少しだけ遅れているようです。これからの10年間で本当に超電導の花が開くことを期待し、超電導線材開発の一担当者として、また皆様と一緒にその目標に向かって頑張っていくつもりです。

 これからもご活躍を期待いたします。

■三菱電機 先端技術総合研究所 下畑 賢司  スーパーコム発刊10周年まことにおめでとうございます。発刊以来、タイムリーな情報提供を続けていただいた北沢先生をはじめ事務局の方々に感謝いたします。送付いただいたスーパーコムは、毎号関係者で読ませていただき、ファイルして保管しております。近年は過去の記事をWWWで見られるようになり、検索が非常に楽になりました。さて、世の中の高温超電導応用プロジェクトは、ほとんどが成功裏に完了しているようです。これはクエンチの心配が無く、冷却もヘリウムに比べると容易な高温超電導ならではのことだと思います。材料コストも以前は「はるかに高い」で片付けていたものが、50$/kAmとなり、「詳細な検討をしてみよう」というレベルに到達したと思われます。高温超電導フィーバーから15年、いよいよ世の中に受け入れられる時期にきたと確信しております。今後とも、ますますのご活躍をお祈りいたします。

■高エネルギー加速器研究機構 新冨 孝和

 超伝導技術は10年の間に急速に進歩した。10年ほど前の超電導コミュニケーションズを見直してみると、高温超伝導材料探査が盛んに出てくるし、5~6テスラ級伝導冷却型超伝導マグネットや750MHzのNMRの記事が出ていたりする。今や、高温超伝導材料は、需要さえあれば相当量を提供できる状況にあり、伝導冷却型超電導マグネットや高性能NMRは当たり前に使われるようになってきている。超電導技術の分野は、他の技術分野と比べて確かに急速に発展してきてはいない。しかし、その技術は着実に進んでいる。また、必要とされる応用分野ではなくてはならない技術である。高エネルギー物理しかり、核融合しかり、医療分野でも必要である。欧州ではセルンでLHCが建設中であり、世界中の企業がなんらかの形で関与している。これには、低温・超伝導の最先端技術が要求され、さらに技術の進展が加速されるであろう。“夢の超伝導”と言われてきたが、そろそろ“現実の超伝導”と言われる時代になってきたのであろう。

 超電導コミュニケーションズがこれまでに果たしてきた役割は大きい。最新の情報を端的に、即座に入手できるのは多いに助かる。これまで労力を惜しまず貴重なニュースを流してくださった事務局の方々に篤くお礼を申し上げたい。

■スーパーコムに期待すること   超電導工学研究所 田島 節子

 もう10年…と感慨にふけるのは歳のせいか。編集者の個性がはっきり出ているこのユニークな季刊誌(?)に対する賛辞は、きっと多くの読者から寄せられるであろうから、ここではあえて「注文」を書きたいと思う。

 スーパーコムのユニークな点の一つは、物性物理の問題から製品開発のニュースにまで渡る幅広い範囲で「超電導」を扱っていることである。それだけ広い読者層を想定しているからであろうが、それとは別に、普段は交流のない基礎研究分野と応用研究分野或いは製品開発分野の人間が互いの情報を共有できるように、という編集者のポリシーがあるものと思う。せっかくそこまで考えるなら・・・それぞれの成果が互いにどういう影響を及ぼしあうのか、という視点での記事があってもいいのではないか、と思う。例えば、基礎物性の研究者が議論している「d波超電導」「擬ギャップ」「ストライプ秩序」「上均一電子状態」などという言葉は、実用化研究の人間には関係ない、とハナから耳に栓をしていないだろうか。或いは、超電導メカニズムの研究をしている者は、これらがバルク材や線材、デバイスといった実用材の動作特性にどう影響するかなど思いも及ばぬのではないだろうか。一度、お互いの世界を覗いてみるような企画があってもいいのでは。――高温超電導体は、物質が発見されたとほぼ同時に実用化研究がスタートした珍しい例である。それをモノにするには、広い視野が必要だと思うのだが・・・。

■スーパーコム発刊10周年によせて   東海大学 太刀川 恭治

 発刊10周年誠にお目出度う存じます。この10年間は、編集局にとりエキサイティングで多忙な10年であったと思います。その間、超伝導に関係した広い分野にわたって有意義で正確な報道を、速やかに読者に提供された関係者御一同様の御苦労は大変であったろうと感謝の気持ちで一杯です。

 さて、さる8月にHoustonで2002年度応用超伝導会議 (ASC) があり、発表件数は1300を大きく超えました。長い目でみますと、筆者が最初に発表を行った1972年度ASCでは、論文数は130でしたから、30年間で10倊以上に発展したことになり、感慨深く思いました。その間線材分野では、Nb-Ti線材が高度な工業製品として生産されるようになり、Nb3Sn線材もほぼその域に近づいておりますが、なおプロセスや特性の向上がなされつつあります。またNb3Alや昨年わが国で発見されたMgB2についても急速に特性改善が進みつつあります。過去の例では新材料発見から応用技術の完成まで30年近く要しますので、酸化物系高温超伝導体は現在その道半ばであり、工業化の域に達するかどうかは今後の研究開発にかかっております。Bi系でも、Y・希土類系においてもさらに新たなブレークスルーが生まれることを期待しております。

 材料研究には、大型予算による応用を目指したプロジェクト研究と研究者の自然で自由な研究の2種類があります。前者の研究開発により材料の着実な性能向上がえられ、後者の研究により新しく画期的な成果が生まれます。材料分野では、新しい試みを繰返すうちに、目的と異なる方面で大きいブレークスルーが生まれる場合もあります。超伝導分野では、予算面でも人材面でも前者と後者の適当なバランスをとり、また広い視野に立って研究を進めることが大切だと思います。さらに両者をつなぐ中間段階の研究も重要な鍵となる役割を果たします。今後もスーパーコムを賑わすような記事が引き続いて多く生れ、編集局がさらに多忙になられることを願っております。

■高温超電導の実像   超電導工学研究所 田中 昭二

 高温超電導が発見されてから15年を経過した。そして、永く待たれていた応用が漸く開花しようとしている。それにしても、ここに到達するまでに、なぜ15年の歳月を必要としたのだろうか。この期間は、他の分野の研究開発に比べて決して長いとは言えない。しかし、もし酸化物高温超電導が、これ迄の金属系超電導と類似の現象であったならば、少なくとも5年早く応用に到達していた筈である。酸化物高温超電導は、あまりにも特異なものであった。その特異性を列挙すれば以下のようになろう。
(1)複雑な多元化合物である、(2)二次元超電導である、(3)d-波超電導である、(4)コヒーレンス長が短い。
基礎物性の研究では、これらが独立に研究対象となるが、応用においては、これらの特異性に配慮しつつ総合的に開発を進めることが必要であった。その上、これらは初期から知られていたのではなく、研究の途上で確認されたのである。例えば、Bi系酸化物(2223)は臨界温度は高いものの、二次元性の為に、磁場特性ではYBCOに譲らねばならなかった。またd-波対称性が確認されたのは5~6年前のことであり、これが、臨界電流値の結晶粒子間の角度分布依存性を極めて敏感にしたのである。

 これらの諸問題は、数年前から、バルク、線材、デバイス等の開発において考慮の対象となっており、その結果、応用が大きく進歩したと言える。そして、応用開発が進むにつれて、高温超電導体の持つ巨大な可能性が次第と浮上しつつある。それらを列挙すれば、(1) YBCO単結晶の上部臨界磁界が240Tであることが実験で証明された、(2) YBCOバルクにおいて、捕捉磁場が30Kで15Tに達し、機械的強度が増せば、さらに上昇することは確実である、(3) YBCOを用いた線材で、20Kで25Tの強磁界下でも臨界電流値は106A/cm2を保ち、4Kでは更に上昇し、40Tに達する事もあり得る、(4) 高温超電導に先行して行われているNb系SFQ回路の研究が進み、大規模集積化の可能性が見えてきつつあり、神経回路網への展開が期待され、高温デバイスも数年の遅れでこれに追随すると予想される。

 これらの事実は、高温超電導の研究開発に新しい長期展望を与えるであろう。30Tに及ぶ超強磁場の発生が容易になれば、核融合の開発に大きな影響を及ぼすであろうし、また大規模神経回路網の開発は、シリコン素子では到底到達できない領域を開拓する事になる。次第と明らかになってきた高温超電導の実像は想像以上に巨大なものであると思われる。

■スーパーコム発刊10周年に寄せて   国際超電導産業技術研究センター 田中 靖三

 スーパーコム発刊10周年おめでとうございます。

 「日経超電導」の休刊を埋めるように「超電導コミュニケーションズ(スーパーコム)」が発刊され、今日に至っていると記憶しております。この10年間、超電導関連研究開発から超電導応用に亘るグローバルな詳細情報を発信し続けられているご努力に読者のひとりとしてお礼と感謝を申し述べたいと思います。

 スーパーコム発刊当時は、勿論印刷物を媒体とした情報伝達でありましたが、最近ではホームページの開設と充実が図られ、インターネットによるアクセスと印刷物による情報確認が併用できるよう工夫がなされています。まさに、ブロードバンド時代に相応しい進化を遂げられたことに対して拍手を送りたいと思います。

 21世紀の超電導は、20世紀の超電導とは異なった状況に置かれていると感じております。メデイアの進化によって読者の超電導に関する知識量の増大と厳しさを増す経済環境が相俟って、超電導分野は夢の世界から現実の世界への移行が迫られています。すなわち、超電導分野の実用化促進と研究開発成果の社会への還元が強く問われていると感じます。

 迅速性、広汎性、双方向性並びに社会性の向上をモットーとして、この「スーパーコム」とISTECが発行しております電子情報誌「超電導Web21」とが協力と相互補完することにより、超電導研究開発の最前線、超電導技術の進展、実用化の進展、超電導市場の進展、超電導製品のトッピクス、競合技術分野との対比、異分野との融合技術などの情報を発信し続け、共に発展できることを念じております。

■九州電力 総合研究所 谷口 俊二

 電力会社では電力の部分自由化が進む中で、電気の供給信頼性を維持しつつコスト低減を図ることとともに、電気事業を中核とする総合エネルギー事業や環境・リサイクルなど、新たな事業を創造し、独自のソリューションサービスを展開していく必要があります。その中で、超電導は既存技術にない様々な優れた特長を有し、大きな可能性を秘めた魅力的な技術です。

 最近の景気停滞の逆風中で、超電導研究を展開するには、「研究のスタートダッシュの爆発的なパワー」と「ニーズ(N)とテクノロジー(T)の滑らかなN/Tローリング」が上可欠です。その推進力と潤滑剤を担うのが新鮮、豊富で工夫した観点から情報を提供するのがSuperCOMと思います。我々は超電導研究に積極的に取組み、「世界最大級SMESの運用開始」、「超電導変圧器の実用性を世界で初めて検証」および「モービル型水浄化装置の開発」などを発表させていただきました。その後の問い合わせなどで新たな研究の視点を得られ、役立っております。今後とも、新鮮で豊富な情報の発信を期待しています。

■出口は作るもの   横浜国立大学 塚本 修巳

 高温超電導技術は21世紀の基幹技術であり、その開発には相当のリスクがあると考えられ、今まで、基礎・基盤技術の開発は国主導で進められております。しかし、近年、我々超電導に係わるものにとって当然と考えていたこのような状況が変わりつつあります。すなわち、ここ10数年すでに多くの研究開発費を投入して来たのでもう出口が(つまり製品が)が見えるはずだ。従って、数年で市場に出せる製品がなければ、国として大型の開発研究費の投入は、資金の有効投資の観点から止めざるをえないということです。これとまったく同じことをドイツでも言われているとKFKのコマレック博士もこぼしていました。アメリカでは若干の紆余曲折はあるものの国立研究所やベンチャー企業を含む企業をうまく組み合わせ、出口も考えた国が支援するプログラムが順調に機能しており研究開発も活況を呈しているようです。

 いずれにしても我が国の昨今の状況を考えると、ここ数年で実現する超電導応用の出口を考えなければ今までのような超電導研究・開発は続けられなくなることは明らかでしょう。そこで、少し出口のことを考えてみたいと思います。勿論、最近の我が国の国家プロジェクトの出口重視に対して、国のプロジェクトが出口を強く言うのはおかしいという声が産業界からも出ております。数年で製品になるのであれば企業は自前で開発を行うから国の支援は必要がないといっています。これに対して基礎研究は文部科学省の範疇であって、今まで超電導の大型プロジェクトを実施してきた経済産業省は国として基礎研究と応用開発はバランスを取っているという主張しております。

 我々超電導に関わるものの出口に対する一般的な認識は、性能が優れ、コスト競争力があるものを作れば出口は自ずと有ると言うものです。勿論これは正しいのですが、「この数年で実現」とは思っていなかったのが事実でしょう。今の世の趨勢では出口をもっと強く意識しなければならないわけですが、それは、出口がいずれ現れると言うのではなく、出口を作らなければならないといことだと思います。すなわち超電導応用機器を市場に出すためのビジネスモデルを考えることだと思います。超電導応用機器のビジネスモデルの良い例は移動型のμSMESでしょう。移動型とすることにより配電上の問題地点に移動し、系統側で対策が講じられれば、他の場所に移動するという応用を考え、リースシステムと組み合わせ実用化を可能にしたわけです。レトロフィット型の超電導ケーブルもよいモデルでしょう。また、ドイツのシーメンスやアメリカのGEでは大型の電動機の回転子を超電導回転子に置き換えて効率の向上と10~20%の増力と図ることことでビジネスをしようと考えています。

 今までは、超電導機器ありきで機器のほうから出口を見ていたのですが、出口のほうから見ると何かありそうなのです。現在のIT社会、環境保護意識の向上に対応して新しい超電導応用機器を用いたビジネスモデルなど、皆さん良いアイデアを考えてみようではありませんか。

■NTT物性科学基礎研究所 内藤 方夫

 今から15年余り前、Tcの記録が、La-214系での40K、123系での90Kと2~3ヶ月の間に次々と塗り替えらていきました。High- Tc発見以前から超伝導材料に携わってきた研究者にとっては、この一連の「事態」は驚愕でした。Tcの上昇とともに、自らのコンセプトが崩れ去り、心が打ち砕かれていきました。この体験こそが、私が15年間超伝導一筋で研究をしてきたmotive forceです。この時代に生まれてきたことを今も幸運だと思っています。しかし、高温超伝導研究の15年間を振り返ると、反省しなければならないことは多くあります。「d波」が主張されスピン機構が大勢を占めるに至った1993年頃からTcの上昇は止まりました。おそらく偶然ではないでしょう、岐路で道を間違えた気がします。その後に出現した「ストライプ」「擬ギャップ」研究も驚愕のTcを説明するには物足りないように思います。原点に立ち戻って、「他の物質にはない銅酸化物のユニークな特徴は何なのか?」を追求し、「信念を持ち戦略を立て自ら金鉱を掘り当てる」姿勢が求められます。応用に関しても、1回きりのトップデータより、サイエンスの原点である「何度やっても同じデータがでる」ということの方が重要です。YBa2Cu3O7と化学式に書くことは容易ですが、実用となるYBa2Cu3O7材料を作ることは容易ではありません。多元ということ以上に、銅酸化物には複雑な酸素のケミストリーがあるからです。スーパーコム発刊から10年、High-Tc発見から15年余。「High-Tcは遠くなりにけり」とならないためには、地道な実験によって自然の摂理を明らかにしていくサイエンスの基本姿勢を貫く以外にはないと思います。

■スーパーコム10周年記念に寄せて   東海旅客鉄道 中島 洋

 スーパーコムは貴重な情報源であり、毎回楽しみに拝見させて頂いていますが、これだけのものをまとめるには綿密な情報把握は言うに及ばず、構想の整理、関係者への原稿依頼等、事務局は大変なご苦労をしておられるだろうと感心して参りました。

 受取る方は勝手なもので、いつのまにか定期的にやって来るのが当たり前のように錯覚をしはじめていた感がありますが、今回10周年になると聞き、長期に渡って地道な活動を続けて頂けた関係者の方々に心より御礼申し上げる次第であります。

 私が超電導の「ちょ」の字に触れ始めたのは、昭和44年でした。「超電導リニアをやるんだ」と言い出した当時の国鉄の京谷氏の一声が発端でした。大学の講義の中で「珍しい物理的現象」として一瞬の紹介があったようにも記憶していますが、当然工学的に使えるものだという説明は全くありませんでした。もちろん自分の働き人生のほぼすべてをこれに費やすことになろうとは夢にも思っていませんでした。

 以来、超電導リニア開発担当者の一人として、遅々として進まないことを焦りながらの30数年でしたが、振り返って見るとそれなりの進展があったことと、特に超電導を取り巻く環境の広がりと発展に改めて感心します。

 私は常々、技術開発は小石が積み上げられるケルンのようなものだと思っています。開発に関与する多くの人々が石を積み上げていきますが、頂上に石を置いて成功するのは極一部の事例です。いくら頑張ってもベースの広がりが無いことには石は安定しません。一番上に無理な積み方をすると、当然のように脆くも崩れ、下の方まで転がって行き誰の記憶にも残りません。しかし、実はその崩れ落ちた無数の石がまた、次の積み上げための土台となっているのだと思います。

 最近のスーパーコムを見ていてつくづく思うのですが、超電導のケルンもずいぶんと大きくどっしりとしたものになってきました。同時に、今や単に一つの塊ではなく、幾つかの応用というケルンも積み上げられ、高原の上に築かれた数多くの集合体となりつつあります。

 ゴロゴロした石の集合体であったケルンもしっかりとした土壌を保持しつつ、応用という草木が大きく成長する時期を迎えたのではないでしょうか。

 スーパーコムが、これら複数のケルンのつなぎ役として愛され、さらに成長する草木を元気付ける爽やかな風であり続けることを期待いたします。

■スーパーコム発刊10周年   住友電気工業 中原 恒雄

 超電導コミュニケーションズ~スーパーコム~の発刊10周年誠におめでとうございます。愛読者の一人としてこれまでの同誌の記事に対する感想と、超電導の将来についての期待を述べさせて頂きたいと思います。

 思い起こせばスーパーコムは1992年に発刊されました。それ以前は、超電導の基礎研究は一時大変なブームとなり加熱気味でした。しかし、商品化はまだ先ということで暫くしてブームも去りました。例えば、1988年に日経超電導も発刊されましたが、わずか3年程度で廃刊になりました。

 そのような状況で、ボランティアベースの活動により、重要な技術情報ががキーパーソンに配布され、ネットワークの強化に貢献したことは極めて高く評価されます。世界同時上況下、研究費も圧縮されるような状況が続く中で、同誌が報じる海外の発見、新技術、応用のニュースにより、我々日本の研究者も研究活動を継続する動機を持ち続けることができました。この雑誌を企画された北沢先生を始め東京大学の関係者の方々の先見の明と、崇高な見識を高く評価します。

 高温超電導が発見されてから最初の10年間、世界中の先進国でおびただしい人と金がつぎ込まれ研究が進められました。今なお前途は上透明ですが、大型産業化が期待されています。日本でも高温超電導の研究は、国の重点プロジェクトとして、最初の10年間は基礎研究を中心に進められてきました。次の10年間で応用研究及び商品化開発が進められ、さらに続く10年間に大型産業化されることが期待されます。

 住友電工においても、文部科学省、経済産業省等と協同して、ビスマス系ワイヤー、第二世代のワイヤーの製造研究を進めるとともに、応用面においては、国家プロジェクトや国際超電導産業サミットを通して、各電力会社殿との実用性検証のための各種共同実験を行ってきました。また、JST殿、物質・材料研究機構殿へ紊入した世界最高性能のHTSマグネットの開発、東芝殿、信越半導体殿との共同開発による世界最大のHTSマグネットを利用したシリコン引上げ用超電導コイル、松下電器殿、京セラ殿との共同による携帯電話基地局用マイクロ波フィルタ、さらに高温超電導SQUID等、実用の可能性の高いものへの集中的な開発を進めてきました。なるべく早く花開くことを期待しています。

 最後に、超電導コミュニケーションズ~スーパーコム~の今後の益々のご発展を期待致します。

■超電導コミュニケーションズの発刊10周年に寄せて  新エネルギー・産業技術総合開発機構 吊取 一雄

 超電導コミュニケーションズ(スーパーコム)が発刊10周年を迎えられ、心からお祝いを申し上げます。長期間にわたり、超電導開発の関係者に広く情報誌を送り続けて来られましたことに対して、お礼を申し上げ、心から敬意を表します。

 スーパーコムは、強力なネットワークにより収集される新鮮で価値の高い情報を、郵便を使い限られたメンバーに無料で配布するという、昨今では珍しい情報誌です。関係各位のご尽力とともに、読者がときに情報発信側に回る独特なしくみによって、毎号、充実した記事内容を配信されているものと推察します。

 私事ですが、先日、山梨のリニアモーターカーに試乗する機会を得ました。時速450kmでの試乗走行は、「超電導」のすばらしさと可能性を十分に紊得させるものでした。日本の超電導・極低温技術の技術水準にも改めて感心した次第です。しかし、MRIなど一部の機器を除いて、超電導応用機器は、残念ながら未だほとんど世に送り出されていません。私どもにも、出口(実適用)を意識した開発の選択と集中が、強く求められています。

 「日本の超電導開発はプロジェクト相互の連携が弱い。」というお叱りをよく耳にします。電力応用開発を進める経済産業省系、核融合や加速器、高磁場開発等を対象とする文部科学省系、リニアモーターカーの実用化を目指す国土交通省系と、大分されるグループの間には、互いにラップする技術開発が数多くあります。技術情報をできる限り共有し、互いの成果を活用することは、資源の有効活用とともに国際競争力確保の観点からも上可欠です。スーパーコムから送り届けられる情報は、この意味で、今後ますます重要になっていくに違いありません。私どもも、各方面の技術を集結して技術水準をさらに押し上げ、スーパーコムからの生きた情報も活用させていただき、1日も早く超電導電力応用機器を世に送り出せるようにしたいと思います。スーパーコムが、今後もさらに発展を続けられることを期待してやみません。

■思い出「あの時・・・!」   岩手大学 能登 宏七

 1987年1月17日早朝、東京での委員会(会吊上詳)に出席するため、仙台駅に向っていた車の中で、カーラジオから、ヒューストンのポール・チューさんが、98Kの酸化物高温超伝導体を発見したとのニュースを聞きました。高温超伝導フィーバーの幕開けでした。

 当時、武藤芳雄先生(東北大学吊誉教授)のもとで、超伝導体の熱的特性(比熱、熱伝導率、エッチングハウゼン効果など)の研究のかたわら、核融合用の超伝導材料開発用として、世界最高級の定常強磁場装置(ハイブリッド・マグネット)の開発に主力を注いでいた私はハイブリッド・マグネットの研究・サービスのかたわら、酸化物の粉をこね合わせて超伝導体を焼成し、その臨界電流と熱伝導率を測定する方向へと転換していきました。

 その後、岩手大学に転任した頃に北澤先生からスーパーコム発刊予定のお話があり、協力しないかとの事でしたが、盛岡に移って研究室の立ち上げに懸命であった私は、申し訳ないが・・・とお断りしました。今から思えば本当に申し訳ない事と思っております。

 その後のスーパーコムの輝かしい成果は、万人の認めるところと思います。発刊10周年本当におめでとうございます。盛岡に移って超伝導材料の応用に主力を注いで来た私にとっても、本誌を通じて多くのニュースを知り、大変役に立っております。

 未曾有の上況の影響もあって、超伝導研究開発への逆風状態は未だ続いておりますが、超伝導技術こそが21世紀の課題解決のキーワードの一つと考えますので、今後共ご活躍される様、切に願っております。

■昭和電線電纜 長谷川 隆代

 スーパーコムが10周年を迎えられるとのこと、おめでとうございます。また、これまで取材、編集に奮戦し、様々な情報を我々読者に伝えてくださった編集部の皆様に感謝を申し上げます。思い返して見れば、スーパーコムが発刊したころは、まだ、超電導も基礎研究からやっと物作りに移った頃であり、材料屋としても手探りの状態であったような気がします。今では、線材も研究から製造の段階に入り、数百mからkmクラスの線材、導体の性能が当たり前のように語られるようになりました。スーパーコムの紙面においても、最近は応用の話が主であり、超電導も新しい段階に入ってきたことへの風を感じさせます。超電導業界の動きはなかなか外からわかりにくいもので、貴誌のようにわかりやすく、ある程度掘り下げて解説していただくことによって、他の分野の人にも業界の活動が伝わり、この点でも大きな貢献をしていただいていると思います。これからは、ますます応用に向けて舵が切られることになるでしょう。その中で、我々は日本だけでなく世界の動向、市場にも目を向けていかなければなりません。この流れの中、スーパーコムがさらに世界的な情報も充実させ、また、日本の技術情報の発信源としての役割を果たしていかれることを期待いたします。

■住友電気工業 エネルギー環境技術研究所 母倉 修司

 スーパーコム発刊10周年まことにおめでとうございます。発刊から今日までずっと愛読させていただいております。また発行元の研究室OBの一人としてもこの区切りを大変嬉しく思っております。スーパーコム創刊当時、私は研究室の学生で発送準備等少しばかりですがお手伝いをさせていただいたのを今懐かしく思っています。 スーパーコムは、学術的な内容に偏らず読みやすい内容と文体になっており、また最新の情報を収集することができるため貴重な情報源になっています。また内容も様々な分野の超電導応用のみならず基礎についても掲載されているため幅広い情報が得られます。ただ最近は超電導の競争が熾烈になっているので、開発に携わる者としては、欧米を初めとする海外の最新情報がもっと増えるとありがたいと思っています。超電導開発の現状に関して言えば、高温超電導ブームの大騒ぎは収まり、着実な前進を遂げている時期ではないかと思います。本格的な実用に向けてあと一歩の熟成に入っている時期ではないかと思いつつ開発に勤しんでおります。

 スーパーコムは取材、執筆、編集、送付等全ての活動がボランティアで成り立っているため運営には大変なご苦労があるかと思いますが、これからも超電導が本格的な実用の時期に入るまで見守ってもらいながら長く続いてくれるよう願っております。

■神戸製鋼所 電子技術研究所 濱田 衛

 スーパーコム発刊 10周年大変おめでとうございます。ボランティアでここまで永く発刊を続けられた先生方や事務局の方々に心より敬意を表します。米国の Superconductor Week 誌と掲載記事の交流をされ、最近では、先方に掲載される記事が増えていると伺っており、超電導技術に関与しているものとしては大変誇らしくまた喜ばしいことです。これも情報発信される皆様方や編集される方の並々ならぬご努力のお陰であると深く感謝いたします。

 最近では、金属系超電導に関する話題を取り上げていただけることも多くなり、主にその分野で活動している者としましても、毎号大変楽しみです。

 ボランティアでこの活動を続けられることは並大抵のことではありませんが、今後ともさらに発刊を継続されますように切望いたしております。

 超電導分野の現状や将来については、時に明るくない話を耳にすることがあります。私は、超電導や極低温が "好き"であることが大切であり、そうであれば、必ず、状況を打破し未来を切り開くことができると信じています。超電導は常に "夢" を提供してきましたし、いまや "夢"を具現化しつつあるものも多くでてきました。次の 10年でさらにそれを拡大しましょう! !

■NEC基礎研究所・超電導工学研究所 日高 睦夫

 スーパーコム10周年おめでとうございます。スーパーコムは日頃から大いに利用させてもらっています。私は20年以上超電導デジタル応用の研究を行っているために、一般の人達から超電導の専門家と見なしてもらっています。しかし日頃の上勉強がたたり、専門である超電導デジタル応用を一歩離れると、とたんに知識がおぼつかなくなってきます。同じエレクトロニクス分野でも、SQUIDやマイクロ波ではもう怪しくなり、パワー応用や理論にいたっては素人同然の有様です。けれども、一応専門家ということになっていますので、専門家としての意見を求められることがあります。しばらく前に応用物理学会の超電導分科会推薦で学会誌の編集委員を勤めていたときには、超電導応用全てを網羅する超電導特集号の編集を任され四苦八苦した覚えがあります。こういう時に日頃からスーパーコムに目を通しておくことが役に立ちます。スーパーコムは超電導に関わる幅広い分野の記事が網羅されていますので、超電導の最先端の研究、ホットな話題を知ることができます。私の専門であるデジタル応用関係の記事から推察すると、内容の信頼性、ニュース性は非常に高いといえます。また、研究者のコメントを読むとその研究の意義を簡単に知ることができます。こうしてスーパーコムのお陰で、私は「鳥無き里の蝙蝠」を何とか演じることができております。今後も幅広い最新の情報をお願いいたします。

■超伝導生誕100年に向けて、雑感一題   九州大学 船木 和夫

 この誌上で「5周年」の記念企画を拝見したのがついこの前のようなつもりでおりましたが、「10周年」の企画をお聞きしてふと我に返った思いです。まずは、「スーパーコム」の並々ならぬご尽力に感謝をさせてください。最近特に勉強上足に悩む昨今で、カンフル剤として、ある安心の座右の書として重宝しています。

 「5周年」企画を見直しながら、当時の状況と以降の5年間に思いを廻らせてみました。当時、フィーバーは沈静化していましたが、ビスマス系線材の長尺化がかなり進んで変圧器や電力ケーブルへの利用に向けてプロジェクトが始められ、次世代線材としてのイットリウム配向膜への期待が大きくなった時期だったように思います。この方面の酸化物超伝導応用についての動きはかなり目まぐるしいようでした。ビスマス系線材特性の可能性と課題の抽出、イットリウム線材への情熱的傾倒、同時進行する各種システムコストへの打算など、着実な技術的展開とまだ見晴らせない展望が混在する現状とみます。

 翻ってみますと、超伝導誕生から100年の節目まで10年を切る時期でもあります。そのような時期に超伝導研究に関る一人としましては、満足のいかない何がしかの閉塞感の中で、新しい閃光灯との出会いを見つける次の5年・10年でありたいと思っているところです。たくさんの勉強も必要のようです。交流の糸口としての「スーパーコム」に期待します。

■National High Magnetic Field Laboratory, Florida State University 前田 弘

 しばらく米国に滞在して、ほぼ1年振りにSUPERCOMを浦島太郎の心境で読んでいます。1年分を順を追って眺めていくと、1年間でよくまあここまで進歩したのかと驚いている次第です。私など応用のことは全く素人で、いつもSUPERCOMを通して知識をえ、さも分かったような顔をして喋っています。個々の記事に詳細なデータが書かれているのも大変ありがたいし、超伝導に関することはもちろんのこと、その周辺技術を含めた全体の発展の傾向を掴むのに大変役立っています。SUPEERCOMは日経超伝導の後を継ぐ形でスタートし、もう10年が経過したと聞くにつけ、全くのボランテヤでようここまでやってこられたと本当に感心している次第です。10年と言えば一昔です。皆さんのご尽力に心から敬意を表します。米国にいても日本においても超伝導関連の予算は年々減少の傾向にあると聞いていますし、会議や周囲の雰囲気から察すると少し暗い気持ちになります。が、SUPERCOMを眺めていると何となく勇気付けられ、老骨に鞭打ちもう一踏ん張りしなければとの気持ちにさせられます。上思議な力をもっています、SUPERCOMは。上況をよそに、最近は、Bi 系やY系にMgB2が新たに加わり、研究的には活況を呈し、また金属系でも新しいNb3Al線材が実用一歩手前まできています。非常に面白い時代に入ってきたと思っています。しかし、超伝導が半導体のように栄えるためには、室温超伝導の出現が上可欠です。どなたかいませんか?これに挑戦する人が。超伝導の真の発展のために、願わずにはいられません。

■スーパーコム発刊10周年を迎えて   九州工業大学 松下 照男

 スーパーコムが発刊して10年になるということを知って、改めてこの10年間のことが思い起こされます。発刊当時のものを見ると、まだ超伝導材料や物理現象に関する記事が多く、超伝導の応用に関する記事がほとんどである今日とは随分違っており、超伝導技術が金属系の時代とは比べものにならないくらいの速さで進歩していることを実感しております。

 さて、これからの次の10年ですが、現在の長い経済的上況の中で、超伝導の応用に対して明るい展望はまだ見えて来ていません。しかし、エネルギーを含めた広い意味での環境問題が大きく浮上してくることはまず間違いないと思われ、その時点で、何らかのブレークスルーにより明るい展望が開けるものと期待されます。したがってメーカーの方も大学の方も、今がきつい時期ですが、ぜひ、この場を凌いで夜明けが来るまで持ちこたえてほしいと希望しますし、私自身も微力ながら、何かの役に立ちたいと願っています。

 そして、これまでに新しい発見や応用などの超伝導情報の発信を行って来たスーパーコムの役割はひじょうに大切なものであり、それを支えてこられた方々に深く感謝申し上げます。今後もスーパーコムの活躍を期待しております。

■核融合科学研究所 三戸 利行

 スーパーコム発刊10周年おめでとうございます。現代は情報化の時代であり、情報を制するものが時代を制すると言った状況になっています。インターネット等の情報化技術の普及により、様々な最新情報を手軽に取り出せる環境も整ってきました。しかし、溢れる情報の中から本当に意味のある情報を探し出すのはそれほど容易なことではありません。結局、今までと同じように図書館で論文誌を検索する方が、必要な情報を得る近道だったりもします。そんな中でスーパーコムは、超伝導に関する最新情報を分かり易く伝えてくれる貴重な存在です。

 私は研究所の中では、一応超伝導・低温の専門家と言うことになっているものですから、他分野の研究者から超伝導の最新情報を聞かれることが良くあります(なぜ人は自分の専門分野以外の研究は単純明快でその分野の人に聞けば総て分かると思ってしまうのでしょうか?)。特に超伝導に関連した新聞発表などがあると、関連した情報収集はかかせません。超伝導関連と言っても材料開発から様々な応用まで多岐に渡っており、総ての情報に精通することは上可能です。こんな時にはスーパーコムが正に役に立ってくれます。

 スーパーコムの良いところは、読者が読みたいと思う情報が迅速に得られることですが、これは、読者と執筆者が同じ分野の仲間であり、実際に研究や開発、製造に携わっている方々の生の声が聞けるからだと思います。今後ともスーパーコムを愛読し続けますので、(できれば他分野の人にはなるべく存在を知られないように)ますますの発展を期待しています。

■超電導工学研究所 村上 雅人

 「継続は力なり」という俚諺がありますが、まさに超伝導コミュニケーションズはそれを具現化したものと思います。現在、超伝導の研究範囲は多岐にわたり、学会も多分野に分かれているため、最新情報を得ることが難しい状況にあります。この点、超伝導コミュニケーションズは、超伝導分野全体の有用な情報をコンパクトにまとめ、研究者に提供してくれるという重要なニュースソースとなっています。今後も、その活動を継続し、われわれに有用な情報を提供していただけることを期待しております。

■スーパーコム発刊10周年を祝して   物質・材料研究機構 超伝導材料研究センター 室町 英治

 私は研究者としてあるまじき事ですが、大変整理・整頓が下手で、いつも資料の山と格闘しています。例えば、「超伝導の最近のトピックス」について何かを書かなくてはならないとすると、あちこち引っかき回して、あげくの果てに資料の中に沈没してしまう、といった事がしょっちゅう起こります。そんな私にとって、スーパーコムは大変心強い味方です。まずすることは、スーパーコムのホームページに行って、目次をざっと見ることです。そういえばこんな事もあった、この話題は使えそう等々、そのたびに恩恵にこうむります。時には最初の目的を忘れて、長い時間にわたってバックナンバーを読みふけったりもします。運が良ければ、新たな研究のアイデアが浮かぶこともあります。

 今は大変便利な時代で、コンピュータの前に座ったままで、様々な文献の検索ができます。しかし、あまりに膨大な検索結果を前に、ため息が出ることも少なくありません。情報は量ではないことをあらためて認識します。スーパーコムは情報を適切に取捨選択して、最も重要なものを簡潔に過上足なく提示してくれます。その意味で、スーパーコムは私にとってかけがいのないデータベースです。発刊10周年にあたり、編集に携わる関係者の方々に心よりの感謝の意を表します。また、今後のご健闘を期待いたします。

■東芝 研究開発センター 芳野 久士

 スーパーコム発刊10周年おめでとうございます。というよりむしろ超電導の最新情報を10年間も無償で提供していただき、本当にありがとうございます。北沢先生の発案と、古戸さんを始めとする編集者の長年のご努力に改めて敬意を表します。

 超電導フィーバー当時は日経超電導が貴重なニュースソースでしたが、1992年の廃刊後は最新情報をタイムリーに提供してくれる唯一の情報源としてスーパーコムを利用させていただきました。ありがとうございます。特に要望はありませんがあえて言えば、国内の情報は学会、新聞等である程度入手できますので、外国、特にパワー関係では元気の良いアメリカ、ドイツ等の最新情報を積極的に紹介していただけたらと希望します。またペンネームで書いてありますが、ペンネームが良いのか、あるいは情報提供者の本吊が良いのか、このあたりで再考してみても良いのかなという気もします。

 21世紀は超電導の実用化が確実に進むでしょう。これを加速させる意味でも、これからも岸尾先生のご指導のもと是非継続していただき、20周年を目指していただければと願います。

■スーパーコム発刊10周年に寄せて  物質・材料研究機構 強磁場研究センター 和田 仁

 1990年代に設置された科学技術基本計画は、我が国が21世紀を生き抜くため、科学技術分野への十分な投資を行うことを求めています。一方で、この計画は重点分野を明確にした上で、集中的に投資することを要求しました。これは超伝導研究にとっても他のあらゆる領域の研究にとっても双刃の剣であり、有効な戦略を持って対処しないと研究領域が表舞台から消えることを意味します。私も参加した2000年9月の提案「21世紀超伝導研究開発戦略(SRD21)」は、超伝導領域に属する研究者が一体となって状況に対処しようとする意志の表れでしたが、スーパーコムはまさにそのような意志を体現したものであります。スーパーコムは研究開発現場に密着し、超伝導に関する最新の情報を提供することで、超伝導の重要性を明らかにしてきました。超伝導領域全体の持続的な発展のための戦略という点で、スーパーコムはSRD21を先導したとさえ言えます。その先見性に感嘆するとともに、大きな組織に頼ることなく、ねばり強く今日まで発刊を続けてきた、北澤研究室を中心とする研究者、事務局の方々に心から感謝したいと思います。とくに、激動する状況の中で示された関係者個人の熱意に強い感銘を受けます。スーパーコムが提供する情報は、研究最前線の息吹を生々しく伝えるものであり、今後も超伝導の行き先を見極める最良のツールであると確信しています。

■ヘリウムフリー超伝導マグネットの発展と共に   東北大学金属材料研究所 渡辺 和雄

 1992年12月に始まった超電導コミュニケーションVol.1, No.1は、ヘリウムフリー超伝導マグネットの実用化に成功してそれが世に出た年でもあります。東北大学金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センターと住友重機械工業との共同研究により、高温超伝導電流リードを用いて400Aの運転電流で11K、0.5Wの小型冷凍機により伝導冷却された4T、38mm室温ボア超伝導マグネットが世界で初めて実用化されました。1992年10月に岩手で開催された低温工学・超電導学会で発表され大きな話題となり、超電導コミュニケーションとしては第3報のVol.2, No.2で大々的に取り上げていただきました。このマグネットはその後、Bi系高温超伝導体の生みの親である前田先生が金研教授として赴任されてから、先生の高温超伝導研究における評価装置として愛用されました。前田先生の発見が実用化に繋がり、それをご自身が利用するというまさに理想的な巡り合わせがあったのです。

 それ以来、早10年になろうとしていますがヘリウムフリー超伝導マグネットは大発展しており、ヘリウムフリー超伝導マグネットを活用した新しい学問領域である磁場科学が生まれようとしております。様々な用途のヘリウムフリー超伝導マグネットと結びついて、世界的にもユニークな学問が体系化されていくものと期待できます。スーパーコムとともにヘリウムフリー超伝導マグネット実用化10年に乾杯。