SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.5, Oct. 2002

1.ニオブ・アルミ導体を用いた大型超伝導コイル登場 _日本原子力研究所_


 日本原子力研究所(原研)は、次世代超伝導線材であるニオブ・アルミ超伝導(Nb3Al)線を使って図1に示す外径1.5mの大型超伝導コイルを製作、原研那珂研究所にて性能試験を行ったところ、13Tの磁場中で46kAの大電流通電に成功した。今回の成果は、Nb3Al線材を実用化するとともに大型コイルに利用できることを初めて実証したものである。

 国際熱核融合実験炉(ITER)では、超伝導コイルの最大磁場が13Tで設計されているため、既に実用段階にあるニオブ・スズ超伝導(Nb3Sn)線を用いるコイル設計がなされている。一方、ITER計画の次段階となる核融合発電の実証プラントでは、発電に必要な高温高密度のプラズマを更に強い磁場で閉じ込めることが経済性の観点から有効であるため、最大磁場が13Tを超える超伝導コイルで設計されている。そこで、13Tを越える強磁場中でも高い超伝導性能を持つNb3Al線材が、次世代超伝導線材として注目され、世界的にもNb3Al線材の実用化に向けた研究が開始されたところである。

 Nb3Al線材の製作手法として急熱急冷法の開発が進められているが、核融合炉超伝導コイルに要求されるNb3Al線材は、①ヒステリシス・ロスの観点からフィラメント径を50μm以下にする、②クエンチ時の温度上昇を抑え安定性を向上させるため超伝導線内に銅を配置(銅比1.5程度)しなければならない、さらに、③製造単長が1km以上でなければならない等の要件があり、現状の急熱急冷法による線材は適用できない。そこで、原研は住友電工と共同で図2に示すようなニオブとアルミの薄膜(厚さ1μm)をロール状に積層する構造(ジェリーロール法)を採用、銅母材に埋め込み750℃、50時間という熱処理条件で、固相拡散によりNb3Alを生成する製造方法を確立し、実用化した。コイルに使用されたNb3Al線は、フィラメント径49μm、銅比1.43で4.2K、12Tでの臨界電流は600~680A/mm2である。さらに、Nb3Al線はNb3Sn線に比較して機械的な歪に対し優れた特性を有していることから、Nb3Sn超伝導線では限られた場合にしか適用できなかった熱処理後の巻線加工(React&wind)が、一般的なコイル製造方法として可能となった。実際、本コイルの製造では、大型コイルの製作を模擬して、直径1.23mで熱処理し、その後、直径1.43mでコイル巻線を行うことにより、故意に0.4%の曲げ歪みを印加した。尚、コイル製造は日立製作所が担当した。

 4Kにおける性能試験では、13Tでの分流開始温度を測定し、素線の特性と一致することを確認した。これは、Nb3Al線を1152本撚った大型導体でも、歪に強い特性によって、素線の性能をフルに発揮できることを示している。また、ITERのトロイダル・コイルに印加される電磁力を模擬し12.5Tで60kAの通電を行い、最大750kN/mの電磁力下でも導体の特性に変化がないことを実証した。さらに、13Tの磁場下で、0~46kAの繰り返し励磁を1,000回行い、その特性に劣化が無いことを確認した。ここに、工業的規模で生産されたNb3Alによる大型超伝導コイルの開発に成功した。本開発を担当した原研の小泉副主任研究員は「Nb3Alは、Nb3Snに比べ歪に強いため、素線の特性が撚線導体の特性に一致するというNb3Alの利点を実証することができた。Nb3Alの素線特性の向上はコイル性能の向上に直接つながってくる。今後は核融合発電プラントにつながる16T級のNb3Al素線開発を目指したい。」と語った。


図1 原研那珂研究所の試験装置に据付けられるニオブ・アルミ超伝導コイル


図2 開発したNb3Al素線の断面構造

               

(かかし)