SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.4, Aug. 2002

9.応用超伝導国際会議(Applied Superconductivity Conference: ASC2002)報告


 今回のASCは8月5日から9日まで米国、ヒューストン市で開催された。ウエルカムパーティーでの主催者C.W. Chu教授の挨拶において、ここに約50ヶ国から1500吊以上の超伝導の応用に関わる研究・開発者が集結したことが紹介されたように本会議は相変わらずの大盛況であった。天気は概ね快晴で灼熱の陽気であったが、約20℃にまで冷房が効いた会場内においてもホットな議論が繰り広げられた。粗く見積もって参加者の10%が日本からで、EUから10%強、韓国から5%、残りのほとんどが米国という構成であった。昨年の同時多発テロの影響で中国やロシアに対する米国の査証発行遅延が続いているため、これらの国からの参加はほとんど無かった。プログラム上の講演件数は1416件(口頭398、ポスター1018)、3つのカテゴリー(Electronics, Large Scale, Materials)はそれぞれ418, 424, 561件であった。細かく見るとCoated Conductor関連が110件台で最も多く、昨年発見されたMgB2関連は早速60件台に至りBi系線材関係とほぼ同数となった。Bi系線材開発と応用、RE123バルク材料、Coated Conductor、エレクトロニクス関係の詳細は、本稿に続く報告記事を参照いただくこととし、以下にはMgB2関連の発表について記す。

 MgB2の応用研究は、金属シース線材や薄膜デバイスの開発に向けて活発に進められており、いずれも20~25Kでの冷凍機冷却による実用が狙われている。線材応用では高磁界発生がターゲットとなっており、ピンニング力向上による上可逆磁場、Jcの改善が主な研究課題となっている。本系では粒界が有効なピンニングサイトとして理解されているが、今回の会議では、粒内への100nm以下の微細析出物導入による上可逆磁場、Jcの改善に関する報告が相次ぎ、なかでも、Dou(Wollongong大)らのSiC導入による20K近傍での顕著な磁場中のJc向上の発表は注目を引いた。彼らは20Kならば4~5Tまでの磁場発生に十分な特性を持つ線材を得ており、超伝導層の密度が1.3g/cm3と低い点が改善されれば、一層優れた特性の発現が期待できる。Wisconsin大のグループからは、微細な化学組成がずれた領域がMgB2粒内に存在することが報告され、また原因は上明であるが一旦RRR=15程度のクリーンでありながらかつMgの欠搊を持つMgB2を作製した後、Mgガス共存下でアニールすることにより、RRR=3程度にダーティーになりHc2が大きく改善されることを示した。このほか、MgB2粒の微細化による粒界の高密度化がJcの改善に有効であることもいくつかのグループによって報告された。

 一方、薄膜では本来の高いTcの発現に苦労していた時期は過ぎた感があり、25K付近での応用が本格的に検討される段階に至ったようだ。Penn State大のXiらは基板周囲に金属Mgを置いたMOCVD法で、SiC単結晶上にTc ~41KのMgB2膜を作製しており、Hc2 (0)はc軸並行、垂直でそれぞれ23, 29Tである。課題であった表面の凹凸も2nm程度のスムースなものになっていた。このほかの報告も確実にレベルアップしており線材同様に薄膜も次回ASCまでに具体的なデバイスとして開発されていく可能性が極めて高いと思われた。

 なお、次回2004年のASCはフロリダ州ジャクソンビル市で開催される。

(東京大学:下山淳一)

■ビスマス系線材とその応用

 今回の会議でビスマス系線材に関しての第1印象は、材料開発のみならず具体的な応用を目指した非常に幅広い研究が数多く行われていることである。しかし材料部門のみで見ると発表件数は約70件と昨年よりやや減少気味である。これは日米、とりわけ米国での研究がYBCO Coated Conductorに主流が移っていることによる。それに加えて今回の会議のもう一つの特徴はMgB2の出現である。ビスマス系材料のメジャーな研究機関、例えばWisconsin大学、NIMS、Geneva大学などがMgB2線材の開発にかなりの時間を割くようになった。ただ筆者はこのことがビスマス系線材の開発にとってマイナスになるとは考えていない。対象とする材料が増えることは、もっと幅広い見地からビスマス線材を見直すことが可能となるであろう。同じPowder-in-tubeが線材作製法の主流というのも、材料として何か共通点があるのかも知れない。この会議でも、ビスマス系とMgB2の両物質を対象として比較検討した興味ある発表が多かったことを付け加えておく。

 さてビスマス系線材は既に生産段階にある。メーカとしてあえて自分たちの技術を誇示するような発表は影を潜めた。しかし、長尺線材のJc(oxide)(77K, 0T)は4x104A/cm2程度で頭打ちである。このままでシステム屋が本当に使いたくなるような線材になるのかという上安は拭いきれない。この問題になんとか突破口を見出そうという材料研究屋の意欲が今回の会議では現れてきたように感じる。Wisconsin大学、Twente大学の多芯線一本一本の特性解析は、いま生産されている線材が実際はまだまだ未熟なものであることを如実に示している。試料を提供するメーカと解析する大学とのフランクなつきあいは、日本としても大いに学ぶべきであると感じた。その他、異相の問題、気泡の問題、クラックの問題等、問題点はかなり整理されてきたような感じがする。その結果高圧下での熱処理などによってJcもかなり改善されてきた。次回の会議には、何か大きなブレークスルーが起こるのを是非期待したい。

 一方、最初に述べたようにシステム開発を入れた会議全体としてはビスマス系線材を扱った発表が非常に多かったような気がした。特に、ケーブルなど電力応用に関連した導体の交流搊失の問題などが熱心に討議されていたようである。また各種電力機器、強磁場発生内層マグネット、磁気分離など非常に多くの応用システム開発の紹介があり、我々材料屋としては勇気づけられた感じである。PlenaryでのYurek(ASC)の話にあったように、まだ当面はビスマス系線材がシステム開発の主流になっていく。前述したようにビスマス系線材はまだまだ本来の能力を十分に発揮しておらず、それを引き出すのが我々材料屋の重要な使命であることをあらためて認識させられた会議であった。

(物質・材料研究機構:戸叶 一正)

■RE123バルク材料関係

 本会議でのバルク超電導体材料関連の報告のなかから注目されたものを以下に記す。まず、Weinstein(Houston大)らは、中性子照射されたウランをドープすることにより、Nd123でJcが690%増加することを報告した。同じくHouston大のZhouらは、バルクの上面だけでなく下面にも種結晶を置くことにより、バルク下部まで配向性を改善することに成功している。Dogan(Missouri-Rolla大)らは、Nd2O3を0.1~0.5mol%添加することにより、Jcと捕捉磁場が増加するが、0.75mol%以上では増加しないことを示した。Hu(超電導工研)らは、徐冷速度を初期段階は速くし、その後、遅くする2段階成長を行い、捕捉磁場が増加することを示した。また、Muralidhar(超電導工研)らは、NEG123で上可逆磁場が大幅に向上することを報告した。Tomita(鉄道総研、超電導工研: 筆者)らは、樹脂含浸強化したバルク体の捕捉磁場を測定し、液体窒素温度以下の低温域において、着磁特性が極めて高いことを示した。

 バルク超電導体の応用では以下の興味深い報告があった。Werfel(ATZ社)らは、外径250mm、内径200mmのY系バルク体(ポリグレイン)を磁気軸受け(固定子)として用いた超電導モーターについて発表した。現在、300kgのラジアル力であるが、数ヶ月以内には10インチ級の軸受けにより500kgまで高める予定である。Walter(Nexans社)は、自動車用として液体水素冷却の軸受け(マルチシーディング法により作製された100mm径のリング状バルク体)について報告した。Boeing社からは10kWh級のフライホイル用磁気軸受けの報告があった。14,000rpmを達成し、搊失は72-150Wであった。10kWhでの予想される貯蔵エネルギーの総搊失は10Wh程度が想定される。本年でDOEのプログラムが終了し、次期プロジェクトに進む予定である。Wangら(Southwest Jiaotong大)は、磁気浮上による5人乗り(520 kg)の乗り物を22 mm浮上させた試験についての発表をした。昨年、第14回ISSにおいて最初の報告をしているが今回は、今までに延べ24,500人の乗客を載せ、延べ400kmを走行したことを示した。15.5 mのトラックにはNdFeB永久磁石を用い、4人乗りの車両の低部には、直径30mm、厚さ18mmのサイズのY系バルク体434個が液体窒素容器に貼りつけてある。浮上距離15mmの時に約8500Nの浮上力が測定されたが、これは1年前と比べて、5%程度の低い値で、劣化が生じたものと推測される。バルク体の応用が進むと共に、樹脂含浸技術等の強化保護対策が望まれる。2008年の北京オリンピックに5~10km程度の軌道を敷設してのデモンストレーションが予定されており、楽しみである。その他、日本からバルク体を用いた磁気分離装置の発表が数多く見られ、日立、九州電力、いわて産業振興センター、岩手大からの報告があった。

(鉄道総合技術研究所・国際超電導産業技術研究センター:富田 優)

■RE123 Coated Conductor

 Coated Conductorに関する材料の発表は、オーラルセッションが3セッション、ポスターセッションが7セッションと発表件数はかなり多かった。その中で、今回の特徴として高Ic線材の発表とプロセス改良の発表が挙げられる。

 報告された高Icの線材の多くはJcとして77K、自己磁場下で1MA/cm2以上のレベルに達してきた。なかでも、Goettingen 大のグループからは、ステンレス基体上にIBAD法でYSZ層を作製しPLD法でYBCO層を載せた4mm幅10m長線材で1cm幅換算220A(Jc=2.2MA/cm2)、最良の1m区間で300A/cm超という長尺高Ic線材開発が報告された。1cm幅Icとして400A、生産速度40m/hrを開発目標としている。American Superconductor 社は約1m長のNi基合金のRABiTS法基体上に、Y2O3/YSZ/CeO2バッファー層を作製し、非真空BaF2プロセスによりYBCOを作製した。3種の合金基材に対し、Icが100~120A/cmで5cmのタップで測定したIcは1箇所を除き、数Aの誤差であり、均一な特性のYBCO線材の作製に成功したと述べた。SRLはTFA-MOD法のマルチコート法で3回塗りから4回塗りにすることで、飛躍的にIcを増大させた。

 プロセス改良については以下のような発表があった。Oak Ridge国立研究所からは、BaF2プロセスにおいてVolume growth rate (Growth rate×面積) をあげるためバッチ処理による回転反応法について報告があった。発表は主に回転反応法についてであったが、Growth rateをあげるために低圧処理も視野に入れているようである。Brookhaven国立研究所は電子ビーム蒸着法によるBaF2プロセスにおいて銀の微粒子を基板上に設け、これがHFの脱出パスとして機能することにより、5mm厚のc軸配向したYBCO膜の作製に成功し、銀の粒の断面積を考慮した場合1mm厚のYBCO膜と同等のJcを持つことを示した。高価なレーザーを用いるPLDの代わりに、コスト低減可能なPulse Electron Deposition (PED)を用いた発表もあった。All solution 法で高臨界電流密度のYBCOを作製していたSandia国立研究所から、TFA-MOD法で溶媒のメタノールをジエタノールアミンに代えることにより前駆体膜の作製時間が短縮可能であるとの発表があった。Augsburg大、Oak Ridge国立研究所より、RABiTS法でアスペクト比の大きな結晶粒をレンガの様に敷き並べること(Brick Structure)により、傾角粒界の影響を少なくできるというシミュレーション結果が示され、10°の傾角粒界の場合、アスペクト比が40以上では結晶粒界のJc特性が粒内の約8割にしか低下しない。現在のところアイデアの段階であるが、これが実現すればRABiTS法の課題の1つである結晶粒界の問題が改善されるであろう。

(電力中央研究所:一瀬 中)

■エレクトロニクス分野

 エレクトロニクス分野では、約410件の発表(内135件が口頭発表)があった。内訳は、SQUID関連が86件、デジタル関連が64件、マイクロ波関連(非線形効果を含む)が58件、検出器関連(ミキサー・カロリーメータ、単一フォトン検出器など)が56件、基盤技術関連(HST・LTS・接合・回路等を含む)が88件、新機能デバイス関連(Qubitを含む)が54件である。

 SQUID関係では、顕微鏡、医用、鉱物探査等様々な応用に向けたデバイス・システム開発が精力的に研究されている。その中で、シールドレス化が大きな部分を占めており、心磁計測への応用例も多く報告された。CSIROは鉱物探査の空中計測用デバイスとして、3個のSQUIDで構成した回転型グラジオメータの試作を発表した。IPHTは、考古学用モーバイルSQUIDをLTSとHTSで試作し、コンパクト化されたLTSシステムの性能の高さを示した。Strathclyde大は、冷凍機で冷却した後、ヘッドに組み込まれたSQUIDシステムを取り外してポータブル化するユニークなシステムを発表し、3時間程度の利用時間が取れること示した。SQUIDの期待される応用展開として、抗原・抗体反応計測が挙げられるが、MagneSensorsのDiIorioは招待講演にて、そのマーケットの大きさを指摘した。九大の円福らも招待講演にて、抗原・抗体反応計測にHTS-SQUIDを実際に適用し、性能の良さを示すと共に、システム化の課題であった磁束ノイズをスイッチングにて除去する新しい発想を提案し、注目を集めた。その他、住電ハイテックスは原子炉壁の非破壊検査への応用を目指し、ガンマ線照射効果について報告するなど、様々な展開を見せている。

 デジタル分野では、これまで提案されているプロセッサ、ルータ、ADコンバータ、計測系フロントエンド(TDC、サンプラーなど)への応用に関する最新の成果講演がおこなわれた。注目を集めていた米国SUNYとTRWによるプロセッサFLUX-1はまだ動作に至っていない。NECからは2x2スイッチ回路の35GHz動作実験の報告があった。ADコンバータはバンドパスタイプの発表が増加している(MIT、HYPRES、吊大)。ローパスタイプではSRLによる動作実験の報告、日立による50GHz DMUXの動作実験成功の報告がなされていた。計測系フロントエンドでは、米国HYPRESS社によるTDCシステムの発表が目を引いた。接合・回路基盤技術では、米国TRW, Northrop Grumman, HYPRESが連続でLTSファブリケーションラインを報告した。設計・実装についても大規模化にむけたキーテクノロジーに実証レベルの進展がみられた。NECによる自動配線ツール、吊大、通総研、横国大、NECなどによるCONNECTセルライブラリを用いた多数の回路の発表があり大きなアピールとなった。現状のJTL配線の問題解消を目指す受動配線利用の研究(SUNY、NEC、HYPRES、TRW)や、チップへ供給するバイアス電流のリサイクル(TRW、HYPRES)についても新たな提案と実証がなされた。HTS関係の接合技術も大きく前進し、HTSサンプラーの性能改善や実装研究にも進展が見られた。

 マイクロ波関係では、研究の中心はそのチューナブル化に移っている印象である。通常のシステム開発に関しては、ConductusのTsuzukiらがTransmission Zeroを組合せた3Gシステムについて講演した。また、高電力応用を目指して、表面インピーダンスにおける非線形効果の研究も重要な位置を占めており、MITのOatesらは、キャリアードーピングに依存した非線形効果について報告した。また、その他の応用として、NISTのBoothらによる、マイクロ波信号リミッターとして自己減衰型超伝導トランスミッションラインに関する招待講演を行った。デジタル回路などの保護システムとして40GHz超えるバンド幅で適用できることが示された。また、ヒューストン大のWosikらは、YBCO薄膜検出器を用いたMRIの大幅な改善効果について招待講演を行った。

 その他、検出器関係では、テラヘルツミキサー・X線検出器が着実に高性能化されていると共に、Rochester大が開発している単一フォトン検出器についても招待講演があった。新機能デバイス関連では、量子コンピューティングへの応用を目指したデバイス研究が大きく展開してきているといった印象を受けた。

 全体としては、これまでと同様な規模が維持されている。各分野においては基盤技術から、実用化を目指しシステム化までバランスの取れた発表となっており、また、Qubit素子などの新しい提案も精力的に展開されており、超伝導エレクトロニクス研究が、具体性を持って広がり続けていることが伝わる会議であった。

 最後に、本会議中に、昨年10月11日血友病のため他界されたNISTのR.ONO博士を偲ぶメモリアル講演がありました。ONO氏は、日米の超伝導エレクトロニクス交流に重要な役割を果たしてくれていました。心よりお礼申し上げると共に、ご冥福をお祈り申し上げます。

(大阪大学:斗内政吉 NEC:萬 伸一)