富士通は平成10年度より現経産省プロジェクト「超電導応用基盤技術研究開発《の中で超電導工学研究所より再委託研究を受け、高温超電導接合を用いた超高速論理回路の研究を行っている。この回路は、内部で10 ピコ秒程度の時間幅、電圧振幅1mV程度の微小なSFQパルスの有無を論理信号の“1”、“0”に対応させて動作を行い、100GHz以上のクロックで動作する可能性のあるポスト半導体回路として期待されている。しかしこの回路では、回路内の信号が微小信号であるため室温半導体回路に受け渡すときに、パルス幅を広げ、電圧を増幅するドライバ回路が必要であった。
高温超電導接合は、臨界電流を越えた後連続的に電圧状態に遷移するSNS (Super/Normal/Super)的な特性を示す。このため、これまで提案されてきたドライバ回路は、信号電流でSQUIDを電圧遷移させ、これを多数個直列に接続することにより電圧を稼ぐ、というような構造が提案されていたが、SQUID一個当たりの発生電圧が小さく、また前段回路に電流増幅や分岐回路が必要なため、所望の電圧を得るためには数百接合の規模の回路になってしまう点が問題だった。
一方、従来のNb接合では、接合特性を流れる電流が臨界電流を超えるとギャップ電圧の2倊の電圧が発生し、その後臨界電流以下に電流を下げても電圧状態を維持するSIS(Super/Insulator/Super)的特性を利用したラッチ型ドライバ回路が使われていた。この方法では一接合当りの出力電圧を大きくできるため、先のSQUID型に比べて1桁以上回路規模を小さくすることが可能である。富士通では、高温超電導接合においても並列にキャパシタンスを付加しNb接合のように特性にヒステリシスを持つ点に着目し、この構造を用いたラッチ型ドライバ回路を提案していた。
今回、実際に超電導工学研究所の世界最先端の接合作製技術を用いてこのドライバ回路を作製し、その動作を確認した。接合はYBCO薄膜の再成長時の界面に形成されるバリアを制御して作ったいわゆるInterface-engineered接合を用いた。またキャパシタンスには回路の層間絶縁膜であるLaSrAlTaOx膜を誘電体膜として用いた。回路内に抵抗素子も作りこみ、抵抗値の違いによりITO(SnドープInOx)膜とAu薄膜の二種類を用いた。
作製した2段(2個接合を直列に接続した構造)のドライバ回路でその動作を確認し、2mV以上の出力が得られた。さらにSFQパルスを発生させ転送させる回路を同一チップ中に作りこみ、発生させたSFQパルスで実際に1段のドライバ回路で約1.2mVのレベル信号に変換することも確認できた。この成果は、高温超電導回路においてSFQ信号を外部に取り出した初めての成果と思われる。
富士通の波頭研究員によれば今後出力電圧をさらに増大し、GHz以上の高速動作することを確認していくとのことだが、高温超電導回路において大きな技術課題となっていた出力ドライバの目処がついたおかげで、ますます高温超電導回路の応用が広がっていくだろう。
(じそく かずこ)