SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.4, Aug. 2002

3.電気めっき法によるMgB2薄膜の作製に成功 
_物質・材料研究機構、日本原子力研究所_


 物質・材料研究機構材料研究所の阿部英樹研究員と日本原子力研究所関西研究所の吉井賢資研究員は、電気めっき法で超伝導材料のMgB2(二ホウ化マグネシウム)薄膜作製に成功したと発表した。この作製法は、従来技術に対して二つの特長を備えているとのことである。第一点目は、装置の簡単さ・原料の安価さ、さらにプロセスの単純さにより、薄膜作製を低コストで行えることである。第二点目は、真空蒸着法など従来法では困難な、任意形状の基板表面への薄膜作製が可能となることである。

 2001年に発見された新超伝導物質MgB2は、金属間化合物中最高の超伝導転移温度39Kを示すなどの利点を持ち、超伝導マグネット線材・超伝導素子材料への利用など、実用化に向けた研究が世界規模で行われている。ジョセフソン素子など超伝導素子の作製には、薄膜作製技術の確立が上可欠である。現在まで試みられたMgB2薄膜の作製法は、半導体プロセス技術同様の真空蒸着法によるものが主流であるが、これには超高真空装置など高価な設備が必要である。

 一方、今回成功した技術では、塩化物とホウ酸塩の混合溶融塩の電気分解、すなわち電気めっき法によりMgB2薄膜を合成する。必要な装置は600℃程度まで加熱することのできる電気炉と直流電源のみであり、設備コストは従来法に比べ著しく低い。また、出発原料として大量かつ廉価に入手可能な塩化物とホウ酸塩を使用するため、製膜コストが大幅に低減される。

 さらに本手法では、任意形状の導電体表面へのMgB2薄膜作製が行える。真空蒸着法では、筒状基板の内側の面など、陰になった部分への薄膜作製は困難である。しかし、電気めっき法では、イオン電流が障害物を回り込んで流れるため、適当な陽極を作製することにより、電極形状に依らず、均一な厚みの薄膜が作製できる。例えば、袋状になった基板の内面にMgB2めっきを施せば、空洞共振器などの素子が作成可能とのことである。

 図1は、筒状に整形したグラファイト陰極の内側の面に以下のようにして作製されたMgB2薄膜の顕微鏡写真である。塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム及びホウ酸マグネシウムをモル比で10:5:5:2に混合し、窒素雰囲気下で600℃に加熱・溶融する。次に、内径3mm・外径5mmの筒状グラファイト陰極中央に、径1mmのグラファイト陽極を挿入し、これら全体を混合溶融塩に挿入する。陰陽両極間に4Vの直流電圧を印加させ、一時間保持すると、筒状陰極の内壁に、50mm程度の厚さのMgB2薄膜がめっきされる。

 阿部・吉井両研究員は、「大規模な設備投資を必要とせず、任意形状の導電体表面への薄膜作製を大規模に行うことができる電気めっき法の特徴と、合金超伝導体中最高の転移温度を持つMgB2の特徴を併せることにより、超伝導MgB2に関する応用研究の一層の進展と新たな産業分野の創出につながると期待される。《とコメントしている。


図1 電気めっき法により作製されたMgB2薄膜の実体顕微鏡像。
筒状のグラファイト電極ユニットを輪切りにし、その四分の一部分を拡大したもの。
グラファイト陽極(図左上の円弧)とグラファイト陰極(図右下)にはさまれた白い部分は電解質。
電解質とグラファイト陰極の接線にそって厚さほぼ50mmの黒色のMgB2薄膜がめっきされている。

(マイスナー反自省)