バルクモータの研究には一般にイットリウム系材料が使用されており、無負荷状態では同期速度やヒステリシスモータ的定トルク特性が得られている。一方、ビスマス系超伝導バルク体をモータ用回転子に適用した場合、液体窒素冷却程度の高温度領域では弱いピン止め力を反映して滑りを生じ、同期速度には達しないと過去の実験的研究から考えられていた。また、回転磁界中におけるバルクの電磁特性とトルク発生機構の関係も明らかでない。そこで、同研究グループではBi-2223バルク回転子の基礎的電磁特性と、同回転子を適用したモータのシステム特性両面から研究を進めている。今回、空隙磁束密度の空間高調波成分を抑えるために分布巻電機子巻線(図1)を用い、また、バルク材のピン止め特性とモータ特性の関係を系統的に調べるため、ロータリー真空ポンプで液体窒素を減圧して温度を変化させ、詳細な試験を行った。その結果、温度を64 K程度まで下げ、電機子電流Iaを適当な範囲に設定することで同期速度回転ならびに定トルク運転が可能なことを突き止めた。電機子電流がこの範囲より大きくても小さくても同期しない(図2)。一方、77.3 Kでは同期速度に達する電機子電流値は存在しなかった。この原因として、電機子電流が小さい時にはトルクを発生するだけの十分な磁束侵入が起こらず、また大きすぎると磁束フローによってバルク回転子が一次側回転磁界に対して相対的速度差(すべり)を生じてしまうと考えられる。現在、この興味ある結果からさらにバルクの電磁的挙動に関心を寄せ、詳細な検討が進められているところである。また、同期化力の向上に注目した研究も必要と認識されている。
牟田一彌教授によると、「Bi-2223バルク材を用いるメリットは、イットリウム系材料に比較して安価・小さな起磁力によって磁化可能・劣化の問題が少ないこと等が挙げられる。今回の成果は、さらにBi-2223だけでなく、それ以外のバルク材を用いた駆動メカニズムの電磁的特性解明や、材料サイド・システムサイド両面からのアプローチ研究に大きなはずみを与えるものである」とコメントしている。
図2 無負荷試験結果 (試験温度: 64.0 K)
(京の夜桜 T. N.)