SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.4, Aug. 2002

2.Bi-2223バルクモータで同期速度回転・定トルク運転の観測に成功
_京都大学_


 京都大学大学院工学研究科電気工学専攻牟田一彌教授、中村武恒助手の研究グループは、ビスマス系高温超伝導バルク回転子を用いてアキシャル型モータを試作・試験し、液体窒素冷媒温度ならびに電機子電流による回転磁界強度を適切な値に設定することで同期速度回転・定トルク運転の観測に成功した。また同研究グループが知る限りにおいて世界で初めて新知見を得たとして、その研究成果を2002年8月4 ~9日にテキサス州ヒューストン(アメリカ合衆国)にて開催された応用超伝導会議(Applied Superconductivity Conference 2002)で発表した。

 バルクモータの研究には一般にイットリウム系材料が使用されており、無負荷状態では同期速度やヒステリシスモータ的定トルク特性が得られている。一方、ビスマス系超伝導バルク体をモータ用回転子に適用した場合、液体窒素冷却程度の高温度領域では弱いピン止め力を反映して滑りを生じ、同期速度には達しないと過去の実験的研究から考えられていた。また、回転磁界中におけるバルクの電磁特性とトルク発生機構の関係も明らかでない。そこで、同研究グループではBi-2223バルク回転子の基礎的電磁特性と、同回転子を適用したモータのシステム特性両面から研究を進めている。今回、空隙磁束密度の空間高調波成分を抑えるために分布巻電機子巻線(図1)を用い、また、バルク材のピン止め特性とモータ特性の関係を系統的に調べるため、ロータリー真空ポンプで液体窒素を減圧して温度を変化させ、詳細な試験を行った。その結果、温度を64 K程度まで下げ、電機子電流Iaを適当な範囲に設定することで同期速度回転ならびに定トルク運転が可能なことを突き止めた。電機子電流がこの範囲より大きくても小さくても同期しない(図2)。一方、77.3 Kでは同期速度に達する電機子電流値は存在しなかった。この原因として、電機子電流が小さい時にはトルクを発生するだけの十分な磁束侵入が起こらず、また大きすぎると磁束フローによってバルク回転子が一次側回転磁界に対して相対的速度差(すべり)を生じてしまうと考えられる。現在、この興味ある結果からさらにバルクの電磁的挙動に関心を寄せ、詳細な検討が進められているところである。また、同期化力の向上に注目した研究も必要と認識されている。

 牟田一彌教授によると、「Bi-2223バルク材を用いるメリットは、イットリウム系材料に比較して安価・小さな起磁力によって磁化可能・劣化の問題が少ないこと等が挙げられる。今回の成果は、さらにBi-2223だけでなく、それ以外のバルク材を用いた駆動メカニズムの電磁的特性解明や、材料サイド・システムサイド両面からのアプローチ研究に大きなはずみを与えるものである」とコメントしている。


図1 アキシャル型Bi-2223バルクモータの写真
(電機子巻線: 分布巻3相4極)


図2 無負荷試験結果 (試験温度: 64.0 K)

               

(京の夜桜 T. N.)