SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.4, Aug. 2002

1.LHD実験で1億度の電子温度を達成 _核融合科学研究所_


 大型ヘリカル装置(LHD)は、我が国独自のアイデアに基づくヘリオトロン磁場配位を用い、全ての磁場閉じ込めコイルを超伝導化した世界最大の超伝導核融合プラズマ実験装置である。図1に大型ヘリカル実験棟内のLHD装置の写真を示す。ヘリオトロン配位は閉じ込めにプラズマ電流を必要としないことから制御性に優れ、将来の核融合炉に必要な定常運転に適した方式として期待されており、文部科学省の大学共同利用機関である核融合科学研究所(NIFS:所長 藤原正巳)において精力的な研究が進められている(大型ヘリカル研究部総主幹 本島修)。

 LHDは1998年3月のファーストプラズマ点火以降、4年間に5回の長期プラズマ実験を行い、大型トカマク装置と比肩できるプラズマ・パラメータの領域に至ったことが実証されている。特に、2001年度に行われた第5サイクル実験では、改良された電子サイクロトロン共鳴加熱装置(ECH)による高パワー加熱の実施及び中心磁場を2.993Tまで上げる励磁の成功により、10keV(1億度)の高電子温度プラズマ生成を達成した。図2にその時のプラズマ内の電子温度分布を示す。

 LHDはヘリカルコイル及びポロイダルコイルの電流比を変えることにより、磁場配位及びプラズマの磁気軸中心位置を変化させることができる。更に、ヘリカルコイルの3ブロック(H-I, M, O)の電流比を変えることによりヘリカルピッチ数γの変更を行うと同時に電流グレーディングによる高磁場励磁が可能である。第5サイクルプラズマ実験前に行った磁気軸中心半径を 3.5 mにして中心磁場を 2.993 Tまで上げる励磁の成功により,ECHを用いたプラズマ中心加熱実験が可能となり,高電子温度プラズマの生成に結びついた。他の磁場配位も前サイクルにおける最高値と同じ値を部分的な常伝導領域の発生なしで達成し,超伝導コイルに性能の劣化等の異常が無いことを確認した。また、磁気軸中心3.6mで従来の最高磁場である2.917Tの励磁にも成功し、ヘリカルコイル内の巻線の動きによる機械的擾乱の発生が、運転サイクルを重ねることによって落ち着いてきている傾向(トレーニング効果)が観測された。

 LHD第5サイクルの運転経過を図3に示す。2001年8月6日に低温システムの精製運転を開始し、2002年3月15日に全体システムの加温を完了した。超伝導コイルを極低温に保った定常運転時間は3,791時間、圧縮機起動から停止までは5,294時間の安定な連続運転を行っている。「1998年の実験開始から、第5サイクル終了までの積算運転時間は23,745時間に達し、年間の2/3となる高い稼働率を実現し、大型超伝導低温システムの高い信頼性を実証している。《と大型ヘリカル研究部・装置技術研究系の三戸利行教授は述べている。


図1 大型ヘリカル実験棟内のLHD写真


図2 10keV(1億度)達成時の電子温度分布
(核融合科学研究所提供))


図3 第5サイクルのLHD超伝導低温システムの運転実績

               

(TM)