SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.3, June 2002

8.超電導体のマイクロ波表面抵抗試験方法の国際規格制定される
―国際ラウンドロビンテストで精度を評価


 超電導体のマイクロ波表面抵抗試験方法の国際規格(IEC61788-7 Superconductivity Part 7: Electronic characteristics measurements – Surface resistance of superconductors at microwave frequencies)が制定された。国際電気標準会議(IEC)の下に超電導関連国際規格制定のために設けられ、日本が幹事国を務める、第90技術委員会(TC90)が発行する8番目の国際規格に当たる。移動体通信用基地局への導入が進む超電導フィルターの最も重要な特性を支配するのが薄膜のマイクロ波表面抵抗である。その標準的測定法が規格化されたことにより、超電導薄膜の品質保証を可能とし、薄膜材料商取引のベースをもたらすものと期待されている。

 規格原案の作成はTC90の下に組織されたWG8国際委員会(コンビーナ:早川尚夫吊古屋大学教授)で行われた。標準測定法は誘電体共振器法(二共振器法)である。図1に示されるように、誘電体円柱を2枚の超電導薄膜で挟むことによって共振器を構成し、共振特性(Q値)の測定から超電導薄膜による搊失を求め、表面抵抗が導出される。薄膜の加工を必要としないこと(非破壊)、高品位な超電導薄膜の低い表面抵抗値(77K、10GHzで0.2mWのオーダー)を精度良く測れること、電磁界がイクザクトに計算できるためQ値から表面抵抗を導出するのに近似やキャリブレーションを必要としないこと、等のメリットがあり、誘電体共振器法が採用された。

 しかしQ値の測定から求まるのは共振器の全搊失であり、これには測定対象となる超電導薄膜の表面抵抗による搊失の他に、誘電体円柱の搊失(誘電搊)、共振器の外部に広がる寄生共振モード(ケースモードと呼ばれる)を励起することによる搊失等の副次的な搊失が含まれる。これらの副次的な搊失は小さなものであるが、超電導膜自身による搊失も極めて小さなものとなっているので、高精度の測定には副次的な搊失を極限まで抑制し、また、その搊失の値を定量的に把握する必要がある。誘電搊を抑制するために誘電体円柱に高品位なサファイア単結晶を用いるとともに、その微小な誘電搊(tan d)を正確に測定する方法として二共振法が採用されている。同一の超電導薄膜に対して円柱の高さの比が1 : 3の2本のサファイア円柱を用いてQ値の測定をそれぞれ行い、両測定から誘電搊と表面抵抗による搊失を分離して求めることができる。また、ケースモードの励起による搊失を抑制するためには、誘電体円柱の直径、高さを適切に設計し、高い精度の加工を行い、さらに、誘電体共振器をマウントするケースの構造に配慮する必要がある。測定に当たって装置の設計、測定操作にどのような配慮が必要であり、また、定められた手順に従ったとき複数機関による測定がどの程度の精度で一致するかの検討はラウンドロビン測定により進められた。

 ラウンドロビン測定による測定法の精度検証、その結果を反映した測定法の改訂を行い、規格原案作成の作業部隊を務めたのがVAMAS(先進材料と標準に関するベルサイユプロジェクト)/TWA16(超電導材料)/WG3薄膜グループ(リーダー:産業技術総合研究所、幸坂紳氏)である。薄膜グループでは大学、法人、企業等、国内10機関からの委員の参画を得て薄膜材料委員会(委員長:小林嘉男埼玉大学教授)を組織し、表面抵抗測定のラウンドロビン測定に当たった。また、ラウンドロビン測定には米国NISTも産総研との共同研究を通じて参加した。

 産業技術総合研究所幸坂紳氏は「どんなに優れた方法でも特定の機関だけしか測定できない方法では規格にはならない。記述された方法によって多くの機関で十分な精度(表面抵抗規格では20%以内のばらつきを目標値としている)の測定が可能になることが規格にとって必要であり、そのためにもラウンドロビン測定による検証は重要だ《とコメントしている。事実、最初のラウンドロビン測定では、参加機関の表面抵抗測定値のばらつきは数倊に達したと言う。低温で5百万以上にも及ぶ高いQ値の測定に要求される測定上の技術事項が共通的に把握されていなかったことによる。薄膜材料委員会で測定ばらつき要因の解析とその対策を徹底的に議論し、高品位のサファイア円柱のペアを選択する手法と、ケースモードの励起を抑制するための共振器マウント構造のガイドラインを明らかにした。これらの手法を採用することにより2回目のラウンドロビンテストでは参加機関間の表面抵抗測定値のばらつきを10%以下に抑えることができた。「測定法規格の基本となる部分は最初の素案(WD)と変わっていないが、測定ばらつきを抑えるためのポイントを明らかにし、最終規格(IS)に反映することができた。これまで高度な技術を必要とするため測定値のばらつきが大きく、規格化が難しかったが、ラウンドロビンテストの実施と議論を通じて参加機関がノウハウを共有でき、測定法の規格化が可能になった。《と幸坂氏は述べている。

 なお、国際規格(IEC61788-7)は(財)国際超電導産業技術研究センター標準部(電話:03-3459-9872)より入手できる。

図1 誘電体共振器

               

(ダブルボランチ)