SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.3, June 2002

5.超電導磁気分離で赤潮退治、原油漏れにも有効
_日立製作所、超電導工学研究所_


 日立製作所の佐保典英主任研究員らが、超電導磁気分離法の赤潮退治や原油漏れで汚染した海水の浄化への高い有効性を実験で証明したことを、5月15日に開催された国際超電導産業技術研究センター主催の超電導技術動向報告会で、共同研究者の超電導工学研究所第1、3研究部の村上雅人部長が発表した。

 日立製作所と超電導工学研究所は、共同でバルク超電導磁石を利用した磁気分離装置を開発している。この方法では、汚染水に前処理として鉄系凝集剤を添加して磁性フロックを形成する。つぎに、回転フィルターで、この汚染物質を濾過分離し水を浄化する。通常の手法ではフィルターに汚染物質がつまると浄化能力が低下するので、ある程度つまったら洗浄する必要があり、このときには水が必要となるうえ、分離が一時ストップしてしまう。これが、フィルター方式の磁気分離の大きな欠点である。 ところが、バルク超電導磁石の発生する強力な磁場を使うと、フィルターから汚染物質をかきとることができ、高濃度の汚泥として回収できる。このため、連続的に磁気分離が可能となるとともに、コンパクトなシステムをつくることができる。

 日立製作所の佐保主任研究員らは、バルク超電導磁石を利用した磁気分離装置は小型で移送が容易であることから、例えば小型船舶に搭載して、赤潮や原油で汚染された海水を浄化できるかどうかを検討した。その結果、表1に示すように、鉄系凝集剤を添加する予備実験で、赤潮の原因となるプランクトンをほぼ90%以上除去できることが分かった。貝毒の原因となるプランクトンもある程度除去できている。表中のアレキサンドリア・タマランセが貝毒の原因となるプランクトンであり、残りが赤潮の原因となるプランクトンである。また、同様の鉄系凝集剤を添加する方法で、原油に汚染された海水の分離にも成功しており、超電導バルク磁石を搭載した磁気分離装置を使えば、赤潮や原油に汚染された海水の浄化が可能となる。

 日立製作所の佐保主任研究員は「今はまだ試験の段階であるが、工夫を凝らせば、貝毒についても除去が可能であろう。《と語っている。共同研究者である村上部長は「赤潮や原油に効果があるということが実証されたことで、磁気分離技術の応用範囲は飛躍的に広がったと考えられる。環境対策としても重要な技術であり、日本だけでなく世界的なレベルで検討していく必要がある。《と語った。ただし「このような新規技術は、いろいろな省庁の守備範囲にまたがるため、それぞれの縄張り争いで埋没する可能性がある。各省庁の横断的なテーマとして考える必要がある。《とも主張している。また、海洋汚染にも関係のあるテーマであることから、東京商船大学の和泉充教授は「今日、国際航海に従事する船舶による海洋汚染も深刻になってきており、いろいろな場所と条件で問題が起きている現在、非常に有望な高温超電導の応用技術である。東京商船大学としても重要なテーマと位置付けている。《と語っている。東京商船大学は実験用の船舶を有しており、大津皓平教授(同大学海事交通共同研究センター長)を中心に、南清和助教授等のグル*プが同技術の有用性を実践の場で実証することを目指している。

                            

表1 磁気分離による赤潮の原因となるプランクトンの除去率
注)上記データは光合成を行うプランクトンの濃度指標であるクロロフィルa測定結果と、
細胞個数の測定結果の両方を載せている。
(データは広島湾で採取された。(株)日立製作所提供)

               

(田町引越しのS)