超伝導体で出来たループ中の磁束Fは磁束量子F0 = h / 2eを単位として量子化される。ループ中にジョセフソン接合を一つ、あるいは複数個含むSQUIDでも事情は同じであるが、今度は磁束量子が接合を横切ってループに出入り出来るようになる。従って外部磁束をうまく使うと、SQUIDループ中に磁束量子数が0の状態と1の状態を使った量子重ね合わせ状態を実現できる。しかしこの方法では、2重井戸中の真ん中のバリアーが高くて、トンネル確率は小さくなる。そこでNTTの選んだのは、3つのジョセフソン接合を含むDC-SQUIDである。このSQUIDでは、外部磁束f = F / F0が0.5の時、超伝導リングを巡る永久電流の向きが、時計回りと反時計回りの状態が同じエネルギーを持ち、量子2準位系を形成する。この量子2準位系の間のポテンシャルバリアは、前述の場合よりもずっと低くて、量子力学的重ね合わせによるエネルギー分裂DE の典型的な値は、0.4 ~10GHzと、実用的な値になる。量子ビット動作では、このバリアーを介した2準位系の量子力学的重ね合わせ状態を用いる。
図1が実際に作製した量子ビット用SQUIDの電子顕微鏡写真で、超伝導材料としては、Alを用いている。図中の矢印が、微小ジョセフソントンネル接合である。希釈冷凍機を用いて、温度約30mKで動作させている。SQUIDの量子ビット状態を読み出すには、図1のように、量子ビットの発生する磁束を、量子ビットを囲んだ読み出し用SQUIDで測定することによって、実行される。読み出し用SQUIDと量子ビット用SQUIDとは常に磁気的に結合しているため、これが系のデコヒーレンスの原因となる。従って両者の結合は弱い程よいが、逆にこれは信号の微弱化を生むことになるため、結合度は結局実験から最適化する。
図2は、読み出し用SQUIDの臨界電流のスウィッチング特性で、量子ビットに流れる永久電流の向きが、f=0.5付近で反転していることがはっきりわかる。図2の読み出しは、単一読み出しによる結果で、デルフト工科大のように、何千回も測定した平均値ではない。NTTの作製した読み出し用SQUIDの最小分解能はF0の0.2%と非常に高く、これが単一読み出し成功の原因と考えられる。
ところで、量子ビット用SQUIDのジョセフソン接合をより小さくして、接合におけるジョセフソン結合エネルギーEJと帯電エネルギーEcの比EJ /Ecを小さくすると、図3のように、スウィッチング電流特性は、単一測定にもかかわらず、図2の結果をあたかも平均化したような特性を示した。同グループの田中弘隆研究主任は、「EJ/ECが小さくなるにつれて、系全体が古典系から量子系へとクロスオーバーしているのが初めて観測されたのではないか。《とコメントしている。
NTTでは今後、この量子ビット素子の量子共鳴状態やラビ振動確認、更には量子もつれ状態の設計を行っていく予定である。
図2 量子ビットの読み出し結果。
読み出し用SQUIDのスウィッチング電流―外部磁束依存性で、EJ /Ecが大きい場合。
図3 EJ /Ecが小さい場合の読み出し結果
(NTTの量子猫)