SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.3, June 2002

4.SQUIDを用いた超伝導量子ビットの開発
_NTT基礎研_


 NTT物性科学基礎研究所の高柳英明機能物質科学研究部長の研究グループでは、SQUIDを用いた量子ビットの研究を行ってきたが、最近量子ビット素子の、一回の読み出しに成功した。  量子コンピュータの基本演算単位である量子ビットを、何を用いて実現するのが一番いいのか。この答えを出すには、異なる系で今後数多くの試行錯誤を必要とするであろう。NTT物性基礎研では多くの候補の中で、超伝導の磁束状態を用いた量子ビットを選び、具体的素子である超伝導磁束量子干渉計(SQUID)の量子2準位系としてのエネルギー状態を追及している。高柳部長は、「実用化された量子コンピュータは、1000個以上の素子(量子ビット)から構成されると考えられるので、量子ビット素子としては超伝導や半導体素子のように集積化に適した素子が有利である。更に超伝導状態では,基底状態と励起状態の間に形成されたエネルギー・ギャップが凝縮した基底状態を隔離するため、外部からの雑音に対して強いという特徴を持つ。これらの点から、超伝導素子は,量子ビット素子の最有力候補の一つと言える。《と述べている。

 超伝導体で出来たループ中の磁束Fは磁束量子F0 = h / 2eを単位として量子化される。ループ中にジョセフソン接合を一つ、あるいは複数個含むSQUIDでも事情は同じであるが、今度は磁束量子が接合を横切ってループに出入り出来るようになる。従って外部磁束をうまく使うと、SQUIDループ中に磁束量子数が0の状態と1の状態を使った量子重ね合わせ状態を実現できる。しかしこの方法では、2重井戸中の真ん中のバリアーが高くて、トンネル確率は小さくなる。そこでNTTの選んだのは、3つのジョセフソン接合を含むDC-SQUIDである。このSQUIDでは、外部磁束f = F / F0が0.5の時、超伝導リングを巡る永久電流の向きが、時計回りと反時計回りの状態が同じエネルギーを持ち、量子2準位系を形成する。この量子2準位系の間のポテンシャルバリアは、前述の場合よりもずっと低くて、量子力学的重ね合わせによるエネルギー分裂DE の典型的な値は、0.4 ~10GHzと、実用的な値になる。量子ビット動作では、このバリアーを介した2準位系の量子力学的重ね合わせ状態を用いる。

図1が実際に作製した量子ビット用SQUIDの電子顕微鏡写真で、超伝導材料としては、Alを用いている。図中の矢印が、微小ジョセフソントンネル接合である。希釈冷凍機を用いて、温度約30mKで動作させている。SQUIDの量子ビット状態を読み出すには、図1のように、量子ビットの発生する磁束を、量子ビットを囲んだ読み出し用SQUIDで測定することによって、実行される。読み出し用SQUIDと量子ビット用SQUIDとは常に磁気的に結合しているため、これが系のデコヒーレンスの原因となる。従って両者の結合は弱い程よいが、逆にこれは信号の微弱化を生むことになるため、結合度は結局実験から最適化する。

 図2は、読み出し用SQUIDの臨界電流のスウィッチング特性で、量子ビットに流れる永久電流の向きが、f=0.5付近で反転していることがはっきりわかる。図2の読み出しは、単一読み出しによる結果で、デルフト工科大のように、何千回も測定した平均値ではない。NTTの作製した読み出し用SQUIDの最小分解能はF0の0.2%と非常に高く、これが単一読み出し成功の原因と考えられる。

 ところで、量子ビット用SQUIDのジョセフソン接合をより小さくして、接合におけるジョセフソン結合エネルギーEJと帯電エネルギーEcの比EJ /Ecを小さくすると、図3のように、スウィッチング電流特性は、単一測定にもかかわらず、図2の結果をあたかも平均化したような特性を示した。同グループの田中弘隆研究主任は、「EJ/ECが小さくなるにつれて、系全体が古典系から量子系へとクロスオーバーしているのが初めて観測されたのではないか。《とコメントしている。

    NTTでは今後、この量子ビット素子の量子共鳴状態やラビ振動確認、更には量子もつれ状態の設計を行っていく予定である。

    


図1 量子ビット用SQUID(内側のループ)と読みだし用SQUID(外側のループ)の電子顕微鏡写真


図2 量子ビットの読み出し結果。
読み出し用SQUIDのスウィッチング電流―外部磁束依存性で、EJ /Ecが大きい場合。


図3 EJ /Ecが小さい場合の読み出し結果

               

(NTTの量子猫)