SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.3, June 2002

2.瞬低補償用酸化物超電導SMESの開発状況
_中部電力、東芝_


 現在、中部電力と東芝は、酸化物超電導導体を用いた超電導電力貯蔵装置(SMES)の開発を進めていると伝えられている。近年、電力の高品質性が要求される半導体産業や情報関連産業において、落雷などで一時的に電圧が低下するいわゆる瞬時電圧低下(瞬低)により、多大な搊害が生じ、これを補償する電力機器としてSMESに熱い期待が集まっている。

 瞬低補償用SMESでは、瞬時高出力に伴う高耐電圧と信頼性、ならびに高磁界設計によるコンパクト化を図るため、コイル向けに高磁場でも通電特性に優れた線材の開発が要求されるが、中部電力は昭和電線電纜との共同開発により、高磁場中でも高い電流密度特性を持つBi2212酸化物超電導線材の開発にすでに成功している。

 この線材の臨界電流密度は、4.2K、10Tにおいて20万A/cm2以上、20Tでも18万A/cm2以上であり、金属系超電導線材の特性を大きく上回るものである。開発された線材は20K以下の温度において高磁界でも通電特性が劣化せず、臨界温度も80Kであることから温度余裕も大きく、優れた磁場安定性と温度安定性を兼ね備えている。この線材の持つ高い温度安定性と磁場安定性により、金属系超電導線材では冷却面での制約から十分な固体電気絶縁が施せなかったコイルの高耐電圧化が可能となり、この線材を用いたコイルでSMESを実現すると、コイルの高耐電圧化によりSMESの高出力化を図ることができるとのこと。その結果、導体の優れた磁場特性によりコンパクトに高い磁場が発生できるコイルを実現でき、SMESの課題であったエネルギー密度の低さを大幅に向上することが可能となる。

 瞬低を補償するSMESでは、コイルの高速放電が必要であり、出力時間は1秒で設計されている。また、落雷による瞬低を2回連続補償できる仕様で設計が進められている。瞬低を連続2回補償する運転では、コイル電流の急激な変化に伴う短時間での大きな磁界変化により、コイルに多くの交流搊失が発生し、それにより導体の温度が上昇するが、NbTi導体を用いた従来のSMESでは温度マージンが小さいため、瞬低を連続2回補償することは困難である。一方、開発中のSMESは温度マージンが大きいため温度上昇に対し非常に安定であり、運転時の温度上昇をすぐに取り去る必要がなく、瞬低を連続2回補償することも可能となるばかりか、コイル冷却に小型冷凍機による伝導冷却を適用することが可能となり、冷却システムが簡素化できるという利点があるとのこと。

 瞬低を補償する機器としては、SMESの他にもコンデンサを用いたものや2次電池を用いたものなどが、競合技術として知られている。性能が同じであればより低コストの機器が市場に受け入れられることになるが、SMESについては国家プロジェクトにおいてコスト低減の技術開発が進められており、金属系SMESで20万円/kWのコスト試算結果が得られている。これに対し、中部電力が開発している酸化物超電導線材を用いた瞬低補償用SMESは、高磁界化によるコンパクト化や冷却システムの簡素化などにより、5万円/kWまで更なるコスト低減が期待でき、競合技術は繰り返し使用による取替コストも発生するため、SMESは非常に高い競争力を持つと考えられる。

 現在、瞬低動作の基礎検証へ向けて、写真の要素コイルを20段積したソレノイドコイルを用いた1MJ級機の製作を進めているとのことであり、酸化物超電導体の大きな実用分野の一つとしてその成果に注目が集まっている。


図1 10MJ瞬時電圧低下補償用SMES外観写真


図2 酸化物セグメントコイル外観写真

               

 (国士無双)