SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.3, June 2002

11.配線層を含めたオールYBaCuO積層型接合の開発
_産総研_


 産業技術総合研究所では、YBaCuO膜を用いた積層型ジョセフソン接合の開発を進めているが、今回、配線層を含めて全てYBaCuOからなる、オールYBaCuO積層型接合の開発に成功したと報告した。

 集積回路用高温超伝導ジョセフソン接合としては、現在、ランプエッジ型接合を中心として活発に開発が進められている。特に、YBaCuO膜表面を改質したバリア層を持つランプエッジ接合が、優れた素子特性分布をもつため、単一磁束量子(SFQ)を用いた小規模回路の実証が進められている。一方、Nb系ジョセフソン集積回路に用いられている積層型接合は、ランプエッジ接合に比べその構造および作製プロセスが複雑になるが、集積性に優れているためポストランプエッジ接合として期待されている。

 産総研では、従来よりYBaCuO積層型接合の開発と並行して、CeO2を層間絶縁膜とした、ビアやクロスオーバーなどの集積回路にとって上可欠な多層積層構造の開発を進めてきた。今回のオールYBaCuO積層型接合の開発は、この二つの作製技術を組み合わせることにより、実現したものである。接合作製におけるキーポイントとしては、YBaCuOと格子整合性のよいCeO2を層間絶縁膜として採用したこと、プロセス中でのYBaCuO膜の劣化を防ぐためリフトオフ法を用いないこと、粒界接合の発生を防ぐため配線層のYBaCuO膜厚を1mm程度と厚くしたことなどが挙げられる。

 発表によれば、作製したオールYBaCuO積層型接合は図1に示すような構造を持つ。接合部はYBaCuO/PrBaCuO/YBaCuOから構成され、層間絶縁膜としてはCeO2膜が用いられている。また、接合部は反応性同時蒸着法で、CeO2層間絶縁膜はスパッタ法で、YBaCuO配線層はパルスレーザ堆積法で作製している。接合特性(図2)は、典型的なジョセフソン特性を示すとともに、配線もYBaCuOであるため、ジョセフソン電流は接触抵抗なしで観測されている。また、臨界電流の磁場特性はフラウンホーファ干渉パターンを示し、臨界電流の磁場変調率は81%とのこと。YBaCuO下部電極層および配線層の電流電圧特性は通常の超伝導特性であることから、得られた接合特性が粒界によるものではないことが確認されている。

 研究担当者の佐藤弘主任研究員は、「実は、積層接合作製後のCeO2層間絶縁膜およびYBaCuO配線層作製での高温プロセスによって、下部電極の酸素抜けによる超伝導性の劣化やPrBaCuOバリア層の拡散による接合特性の劣化を心配していた。しかし、それぞれのプロセス段階でのプロセス温度と酸素雰囲気条件を注意深く制御しながら、実際、作製してみると案外、杞憂であることが分かった。《とコメントしている。

 また、チームリーダの赤穗博司総括研究員は、「今回の開発で、SFQ回路の基本素子であるSQUIDゲートの実現に向け見通しが出てきたと考えている。《と話している。

 

図1 作製したオールYBaCuO積層型接合の構造模式図

図2 接合の電流-電圧特性
(x:0.2mV/div., y: 20mA/div.)

               

(Tigers)