SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.3, June 2002

1. 高温超電導技術を応用したモービル型水浄化装置を開発
―小型・経済的なモービルシステムの実現を目指して
_九州電力、日立製作所_


 九州電力と日立製作所は、超電導工学研究所で開発された樹脂含浸型のバルク高温超電導体を用いたモービル型水浄化装置の製作を開始したと報告している。報告によると、製作中の水浄化装置は、処理量が100m3 /日で、前処理装置を含めた全システムを4トントラックで移動できるようなコンパクトな装置である(図1)。本装置が完成すれば、中小規模の閉鎖水域に発生するアオコ類や赤潮が浄化装置を移動しながら除去・浄化できるので、1台の浄化装置で複数箇所の汚濁水域を効率的に浄化することができる。また、下水、工場排水等の汚濁水浄化装置としても利用可能で、幅広い応用が期待されるとしている。

 現在、9月末完成を目途に製作中で、完成後は先ずダムや湖沼等でのアオコ類の浄化実証試験に入る計画である。

■膜磁気分離浄化装置の構成と特長

 電磁石等を使う磁気分離浄化法は、磁石の吸着力を利用して流体中の磁性粒子を分離・除去する方法で、従来行われている物理化学処理による凝集沈澱法等に比べ、はるかに高速で固液分離が可能であり、磁気力が大きいほど高速処理が可能であることから超電導磁石が用いられる。なかでも高温超電導バルク磁石は、通常の電磁石に比べ小型・省エネルギー化が可能で、RE-Ba-Cu-O高温超電導バルク体(REは希土類元素)を極低温に冷却後着磁すると、1テスラ(1万ガウス)以上の強力な超電導磁石となる。この強磁界を利用した磁気分離構造と膜ろ過構造を組合せると、大量の汚濁水を浄化できる新しい膜磁気分離装置が実現できる。

 磁気分離法を水浄化に応用する場合は、水中の汚濁粒子が非磁性体であるため、前処理としてシーディング剤の磁性粉と凝集剤等を加えて混合・攪拌し、磁性粉と汚濁粒子を凝集した磁性フロックを生成する。この前処理水を磁気分離部に通し、磁気力で磁性フロックを捕捉分離して水を浄化する。

 本装置では図2に示すように一連の浄化機能が3つに分けられている。まず、原水中の汚濁物を磁性フロック化する前処理部、生成した磁性フロックを膜でろ過し浄化水を得る膜分離部及び膜面に蓄積した磁性フロックを磁気力で剥離・捕集し膜面を再生するとともに磁性フロックを高濃度汚泥として回収する磁気分離部で構成されている。

 実際には、連続浄化ができるように膜を回転ドラムとし、磁性フロックは回転膜面上に捕捉し、原水はドラムの内側から浄化水として放出される。この装置で超電導バルク体による高磁場を用いて連続浄化ができるため高濃度・高速浄化が可能で、かつ簡素な構成のため小型、経済的な装置となる特長がある。

■膜磁気分離試作装置を用いたアオコの浄化予備実験結果

 高温超電導バルク磁石(発生磁界約3テスラ)を装着した膜磁気分離試作装置を使用し、アオコ原水を用いて浄化実験が行われている。試作装置は、前処理部で生成する 磁性フロック直径が0.1mm以上であるため、回転膜には目開き43μmの非磁性の金網を使用し、回転膜の最大ドラム直径は400mm、網幅200mmである。

 浄化実験による水質分析結果を表1に示す。アオコの指標成分であるクロロフィルaの除去率は94.2%であり、アオコが高率で除去されていることが確認できる。また、生物的酸素要求量(BOD)の低減率は90%、原水中のSS(浮遊粒子)も除去率96.4%で分離・除去でき、同時に、連続的に回収された回収汚泥の濃度は20,000 mg/Lで、高濃度のアオコ汚泥が回収されている。さらに、富栄養化の原因となる窒素、リンの除去率もそれぞれ85.7 %、93.9 %と、アオコを除去するのみでなく水域の水質を大幅に改善でき、また、処理水に含まれる残留鉄の分析結果から、使用した磁性粉および凝集剤の処理水への残留は、ほとんど無い。

 実験の結果、原水からの浄化処理時間は約5分間で、高濃度の汚泥として回収できることが実証され、高速浄化装置としての機能が確認できたと述べている。

■モービル型水浄化装置の設計

 アオコの浄化予備実験結果を基に、小型、経済的かつ運用が容易ということを開発コンセプトにモービル型水浄化装置の設計が行われている。

 装置の主要諸元を表2に、イメージ図を図1に示す。装置は次のような特長を有している。①湖水のアオコ類、赤潮や各種排水の浄化に柔軟に対応するため、4トンのトレーラーに搭載可能で、100m3/日の浄化処理能力を有する。②前処理部はフロック形成のための攪拌時間を4分以内として高速浄化を図り、磁性粉や凝集剤等の希釈水に浄化水を有効利用する。③磁気分離部の高温超電導バルク体には、高磁場が発生でき信頼性も高いYBCO樹脂含浸型バルク体を使用する。浄化処理量から200mm以上の磁場発生領域が必要となるため、図3に示すようにYBCOバルク体7個を直列に並べた構成とし、全体を真空断熱容器に内蔵して消費電力0.8 kWのGM冷凍機による60K以下の伝導冷却とする。④膜分離部は大量処理が可能なSUS製の回転ドラム式を採用する。⑤連続的に回収された汚泥は水切りを行い高濃度化する。

 本開発の責任者である九州電力 電力貯蔵技術グループ長の堤克哉氏は「地球環境保全の観点から、アオコ類や工場排水等の汚濁水を効果的に分離除去、浄化する技術は上可欠なもの。私たちが手がける磁気分離装置が先駆的で身近な技術に展開されるよう進めたい。また、磁気分離技術は、今回のアオコ類の除去をはじめ、地熱水からの砒素の除去、工場生産過程での有価物の回収による資源のリサイクルなどの様々なニーズがある。今後、これらへの展開も図りたい。《と抱負を語っている。また、本分離装置の基礎技術の開発者である日立製作所の佐保主管研究員は、「今回、バルクを用いた磁気分離装置の実用化に向けて着実に展開されるのは素晴らしく、実証試験の成果を期待したい。また、一層の用途拡大に努めたい。《と話している。さらに、超電導工学研究所の第三研究部部長村上雅人氏は、「バルク超電導体の強い捕捉磁場を利用する応用については長年開発を進めてきた。今回その成果が実装置へ適用されることとなり、材料研究者にとっても非常にうれしい限りである。実証試験が成功し、今後の材料及び応用開発の両者に一層の拍車がかかることを期待している。《とコメントしている。


図1 モービル型水浄化装置イメージ図

表1 浄化実験結果

表2 モービル型水浄化装置の主要諸元


図2 膜磁気分離システムのフロー図


図3 磁気分離部のバルク超電導体と冷凍機の構成

               

(Activity of KEPCO)