SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

9. MgB2材料は超伝導エレクトロニクス応用に向いている?


 1月22日の学振146委員会でNTT物性科学基礎研究所・機能物質科学研究部の超伝導体薄膜研究グループリーダー内藤方夫氏が、MgB2の超伝導エレクトロニクスへの可能性について以下のような講演を行った。MgB2は、臨界温度(〜39 K)が銅酸化物超伝導体に比べて低いために、実用材料としては中途半端ではないかという意見が一部にある。確かに、large-scaleの線材応用やマイクロ波フィルター等の単一膜応用については、前者では臨界温度と臨界電流、後者では臨界温度と高周波表面抵抗の2つの超伝導パラメータからのトータルな判断が必要である。しかし、エレクトロニクス応用については、銅酸化物超伝導体の展開が発見以来15年が経過する現時点でも未だ見通しがたっていないために、MgB2への期待は大きい。

 一般に、超伝導デバイス作製の成否は、as-grown高品質薄膜作製と良質ジョセフソン接合作製の2つの技術が鍵を握っている。前者については、超高真空チャンバー内での低温成膜(300˚C以下)でMgB2のas-grown超伝導薄膜が得られることが、NTTグループによって示されている[1]。後者については、早急な実証が必要であるが、現段階で、UCBのClarkeらによるバルク試料を用いたポイントコンタクトが良好な接合特性を示すこと(図1)[2]、NTT物性科学基礎研究所機能物質科学研究部超伝導体薄膜研究グループ研究員椊田研二らによるas-grown薄膜を用いたPb/MgB2接合もクリーンな界面を示していること(図2)[3]から、素性は良さそうに見える。一方、銅酸化物超伝導体には界面に重大な問題があることを内藤氏らは以前より指摘している[4]。同氏によれば、Cu-O化学結合が弱い銅酸化物材料では、バリヤー材料が銅酸化物の酸素を奪う界面酸化還元反応が生じ、接合特性の人為的な制御が極めて難しいという。「界面が制御できなければデバイスはできない」という言葉は、過去の歴史が教える普遍的な教訓である。

 MgB2の表面・界面に本質的な問題は無いのか?緊急課題は、現在得られている多結晶(アモルファス?)又は低配向のas-grown薄膜で、良質ジョセフソン接合が作製できるか否かを実験的に検証することである。現状で、as-grown薄膜の格段の高品質化は容易ではないし、急ぐべきことでもない。これは、low- TcのNbのジョセフソン接合にNbの単結晶薄膜は必要ないことからも示唆される。SIS接合作製プロセスとして、Nb接合の際のAl酸化膜のように、Mgをoverlayerし自然酸化するプロセスが最初に思い浮かぶが、そのようなシンプルなプロセスがうまくいけば、エレクトロニクス応用への道も拓けるであろう。特に、銅酸化物のこの方面の展開が行き詰まっている状況を考えると、エレクトロニクス応用こそが、薄膜研究者がTcが低くともMgB2に最も期待する展開である。


図1 MgB2バルクグレイン間の弱点接触による準粒子特性(上)と強点接触によるSQUID特性(下)。UCBのClarkeらのグループの論文[2]より転載。


図2 Pb/MgB2接合の特性。D(MgB2) + D(Pb)以下でアンドレーフ反射によるdI/dVの増大が観測される。また、低バイアス側で多重反射によると思われる微細構造が重畳している[3]。

               

(Medium-Tc)