SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

8. MgB2と同じ結晶構造の新超伝導体Y(Pt,Ge)2発見
_産総研と物材研機構_


 1986年の酸化物超伝導体発見より早15年、「もはや高温超伝導は銅酸化物にしか存在しないのではないか」、という懸念を吹き払ってくれたのが、MgB2新超伝導体である。このMgB2は、AlB2型の結晶構造を持ち、ごらんの通りスピンは一切持たないが、超伝導転移温度は約40 Kと大変高い。さらに最近話題のC60のFET超伝導もスピンはなく、これらのことから高温超伝導にスピンが不可欠とは言えなくなったのではなかろうか。 超伝導発現メカニズムを検討する上で大変興味深い。では、MgB2がなぜこのような高い超伝導転移温度を示すのであろうか。物質探索からのアプローチとしては、類似化合物に新たな超伝導体を見出すことが重要であろう。

 産業技術総合研究所の鬼頭聖主任研究員と物質材料研究機構の高野義彦主任研究員と戸叶一正材料基盤研究センター長の共同研究チームが、最近MgB2と同様のAlB2構造を持つ新たな超伝導体Y(Pt,Ge)2を見いだした(1)。試料はアークメルト法で合成され、エックス線回折パターンからAlB2構造であることが確認された。この化合物がAlB2構造をとることは、これまでに報告されていないようだ。格子定数は、a=4.196 Å、c=3.994 Åで、MgB2に比べa軸が特に長くなっている。図1に電気抵抗の温度変化、図2に磁化曲線を示す。電気抵抗は、約3.3 K付近で急激に減少しゼロ抵抗を示し、ほぼ同様の温度で、磁化率には大きなマイスナーシグナルが現れた。また、2 KにおけるMHカーブは、対称的で大きなヒステリシスカーブを描いた。このように、Y(Pt,Ge)2は転移温度約3.3 Kの超伝導体であることが見出された。

 こうなると、いろいろな組み合わせを試してみたくなるものだ。格子定数も程近いY(Pd,Ge)2 (2)や物材機構の今井主任研究員による発見のSr(Ga,Si)2 (Tc=3.5 K) (3) は超伝導を示すが、例えばY(Pt,Si)2などは残念ながら超伝導を示さない。このように超伝導・非超伝導の境界は微妙なところに引かれているが、仮に超伝導が現れても転移点は低く、(MgBe2を除くと)AlB2構造では、MgB2だけが極端に高い超伝導転移温度を示していることが解る。酸化物高温超伝導体にも類似した現象が見られている。銅を含まない層状ペロブスカイト構造の超伝導体は僅かに、Sr2RuO4(Tc〜1 K) (4)とLiインターカレートしたKCa2Nb3O10 (Tc〜5 K) (5)だけが知られている。このように層状ペロブスカイト構造でも、銅酸化物だけが大変高い超伝導転移を示しているのである。これらの物質群を比較検討することで、高温超伝導解明のヒントが得られるかも知れない。

 これまでの酸化物高温超伝導体、そして新しいMgB2、さらにC60のFETと、いろんな種類の高温超伝導体が現れてきた昨今、まさに新超伝導探索の視野が広がってきたといえよう。物材機構の高野主任研究員は、「銅酸化物にとらわれず、様々な物質に超伝導の可能性を追求していくべきではなかろうか。今回の超伝導体の転移温度は残念ながら余り高くないが、きっとどこかに潜んでいるであろう新たな超伝導体を探す上での、糸口となって欲しい。」とコメントしている。

(1) H. Kito et al., Physica C in press.
(2) S. Majumdar et al., Phys. Rev. B 63(2001)172407.
(3) M. Imai et al., Phys. Rev. Lett. 87(2001)077003-1.
(4) Y. Maeno et al., Nature 372(1994)532
(5) Y. Takano et al., Solid State Commun. 103(1997)215.


図1 Y(Pt0.25Ge0.75)2の電気抵抗の温度変化


図2 Y(Pt0.25Ge0.75)2のM-Hカーブ

               

(酔龍)