このユニークな手法を考案した太刀川恭治教授によると、MgB2 コアに対するメタルパウダーの添加は人工ピンの導入またはMgB2 結晶粒の結合改善を図ったものであるが、SEM 観察などの結果では、Jcの向上は後者に原因するものであろう。In 及び Sn の融点はそれぞれ 157℃及び233℃であるため、200℃で熱処理するとInあるいはSnがMgB2粒界に良く浸透して結合の改善に役立つと考えられる。また、圧延等の加工中に試料内部に発熱を生ずるため、加工のままでもInあるいはSnの浸透による結合改善の効果が得られるものと考えられる。この見地から、融点がより低いIn添加の方がSn添加より効果が大きいものと理解される。なおInも超伝導となるが、In及びIn-Mg合金の0 Tの臨界温度Tcは3.5 K以下のため、In自身の存在はIcの増大に無関係と考えられる。
本研究では、Inの添加量を5 vol%、20 vol%としたテープ線材も作製し、特性を評価したが、Icは、10 vol%、20 vol%、5 vol%の順に大きかったので、最適In添加量は10〜15 vol%と考えられる。なお今回の研究に用いた MgB2 粉末よりさらに微細で粒径の均一な MgB2 粉末を用いる事によって、線材のJcは全般に高められるであろう。200℃熱処理を行った In 添加テープの Tcは無添加テープより 2〜3 K 高い値を示したが、本質的なものではなく加工歪の相違によるものと思われる。In 等の低融点メタルパウダーの添加は、加工のままあるいは 200℃程度の低い温度の熱処理で有効なため、Jc 改善の容易なアプローチといえよう。さらに今回の結果は MgB2 線材の Jc 向上になお大きい余地が残されていることを示すものということが出来る。この研究結果は最近のサンタフェや筑波での国際ワークショップで発表されて海外でも興味をよんでおり、さらに詳細な研究がなされよう。
太刀川教授は、「MgB2 PIT線材の応用には今後3元化等による臨界磁界特性の一段の向上がのぞまれる。また、化学的なプロセスによる、コーテッドコンダクターや高周波キャビティ等のコーティング材の開発も大いに期待される。」とコメントしている。
(西東)