SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

7. MgB2 線材の臨界電流密度
―インジウム添加により大巾に向上
_東海大学_


 MgB2 の線材化には、わが国内外で Powder in Tube 法が一般に用いられ、線材の臨界電流密度Jcは、MgB2 原料粉の質、シース材の種類、加工及び熱処理条件等に依存することが知られ向上が図られている。東海大学工学部の太刀川恭治教授・山田豊教授の研究グループでは、MgB2 粉末に金属インジウム(In)を添加することにより、Jcが顕著に向上する効果を見出した。同グループでは、市販の MgB2 粉末(粒径約100ミクロン以下)を外径8 mm 、内径6 mm 、長さ70 mmのNi管に充填し両端に栓をして、溝ロールにより 2.4 mm角の棒に加工し、これを平ロールにより厚さ0.3 mm 、巾約5 mmのテープ材に圧延した。加工後のMgB2コアの断面積は、約0.6平方mmである。図1に無添加テープ、10 vol% In添加及び10 vol% Sn添加テープの4.2 K 、1 Tにおける臨界電流Ic値の例を示した。この測定は、物質・材料研究機構で、同機構の熊倉浩明博士と松本明善博士の協力により行われた。図で200℃×1は圧延の途中で200℃×10 hの焼鈍を1回、また200℃×3は同焼鈍を圧延途中で2回と圧延後に1回行ったことを示す。なお無添加試料のIcは200℃の焼鈍を加えても変化はみられない。図のようにIn添加によりIcが圧延のままで3〜4倍、また200℃の焼鈍を繰返すことにより6 ~ 7倍に増加した。なお、Sn 添加テープでも、200℃×3の処理でIcが無添加試料の約3倍に増加した。SEM観察では、In添加でコア全体の組織が緻密化し、また In は主として MgB2 結晶粒内の隙間に分布していることが分かった。

 このユニークな手法を考案した太刀川恭治教授によると、MgB2 コアに対するメタルパウダーの添加は人工ピンの導入またはMgB2 結晶粒の結合改善を図ったものであるが、SEM 観察などの結果では、Jcの向上は後者に原因するものであろう。In 及び Sn の融点はそれぞれ 157℃及び233℃であるため、200℃で熱処理するとInあるいはSnがMgB2粒界に良く浸透して結合の改善に役立つと考えられる。また、圧延等の加工中に試料内部に発熱を生ずるため、加工のままでもInあるいはSnの浸透による結合改善の効果が得られるものと考えられる。この見地から、融点がより低いIn添加の方がSn添加より効果が大きいものと理解される。なおInも超伝導となるが、In及びIn-Mg合金の0 Tの臨界温度Tcは3.5 K以下のため、In自身の存在はIcの増大に無関係と考えられる。

 本研究では、Inの添加量を5 vol%、20 vol%としたテープ線材も作製し、特性を評価したが、Icは、10 vol%、20 vol%、5 vol%の順に大きかったので、最適In添加量は10〜15 vol%と考えられる。なお今回の研究に用いた MgB2 粉末よりさらに微細で粒径の均一な MgB2 粉末を用いる事によって、線材のJcは全般に高められるであろう。200℃熱処理を行った In 添加テープの Tcは無添加テープより 2〜3 K 高い値を示したが、本質的なものではなく加工歪の相違によるものと思われる。In 等の低融点メタルパウダーの添加は、加工のままあるいは 200℃程度の低い温度の熱処理で有効なため、Jc 改善の容易なアプローチといえよう。さらに今回の結果は MgB2 線材の Jc 向上になお大きい余地が残されていることを示すものということが出来る。この研究結果は最近のサンタフェや筑波での国際ワークショップで発表されて海外でも興味をよんでおり、さらに詳細な研究がなされよう。

 太刀川教授は、「MgB2 PIT線材の応用には今後3元化等による臨界磁界特性の一段の向上がのぞまれる。また、化学的なプロセスによる、コーテッドコンダクターや高周波キャビティ等のコーティング材の開発も大いに期待される。」とコメントしている。


図1 1 Tの磁界下における MgB2 テープの臨界電流に対する In または Sn の添加効果

               

(西東)