SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

6. 高温超電導コイルの磁場強度向上に新法
―強磁性体を用いて
_産総研_


 高温超電導コイルの問題点は液体窒素温度付近での強磁場特性の劣化であり、ビスマス系が特に激しい。産業技術総合研究所は、液体窒素温度の高温超電導ソレノイドの両端に強磁性体ディスクを配置することで、高温超電導ソレノイドの性能を向上できることを実験により実証した。研究の詳細は、本年8月に米国Houstonにて行われるApplied Superconductivity Conference 2002で発表される予定である。

 Bi2223銀シース高温超電導テープ線材を液体窒素温度で利用することが研究されている。この線材は磁気異方性を有し、テープ面に垂直に磁界が印加されると臨界電流が急激に低下する。このテープ線材を用いて空心ソレノイドを製作した場合、ソレノイド両端部の線材には面に垂直に磁界が印加しこの部分の臨界電流が低くなるため、この特性が重大な問題となる。産業技術総合研究所超電導応用グループ(梅田政一主任研究員,近藤潤次研究員、古瀬充穂研究員)は、以前より強磁性体ディスクをソレノイド両端部に配置することで、この向きの磁界を低減できることを、数値計算により示してきた。今回、Bi2223線材を導体とする10枚のダブルパンケーキからなる、内径60 mm、外径120 mm、高さ100 mmの高温超電導ソレノイドを製作し、また内径40 mm、外径134 mm、厚さ20 mmの強磁性体ディスクを2枚用意した。そして,ディスクをソレノイドの両端から2 mm離して配置した場合としない場合の2ケースについて、77 Kにおける最端部のダブルパンケーキの直流での平均臨界電流(1mV/cm×(巻線材長)の電圧が発生する電流)を測定した。その結果、強磁性体ディスクを配置することで、平均臨界電流が3割増加した。また、図は強磁性体を配置したときのソレノイドと磁力線を示したものであるが、図中A点における径方向(テープ面に垂直な方向)の磁界成分を小型ホール素子を用いて測定した結果、強磁性体ディスクを配置することで約1/6に低減できていることが明らかになった。表はこれら測定結果を示している。

 近藤潤次研究員は「Bi2223線材が液体窒素温度でもっと高磁界を発生できるようになれば、全く鉄心を用いない空心ソレノイドが主流となる。本研究のように強磁性体ディスクの配置が性能向上に大きく貢献できる。あまり磁界分布に高精度を要求せず、広い空間に1 T程度の磁界を発生させたい用途に、この強磁性体ディスクを配置したソレノイドが採用される可能性がある。」と述べている。

         


図1 強磁性体を配置したソレノイドと磁力線分布


表1 強磁性体の有無による臨界電流と磁界の変化

               

(いとしのエリー)