SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

4. 30 m長の次世代超電導線材を開発
_フジクラ_


 フジクラは、世界最長の30 m長全長において1 MA/cm2(77 K)に近いJc特性を有するY系超電導テープ線材の開発に成功したと発表した。Y系酸化物超電導体は本質的に臨界電流密度の高磁界特性が優れており、すでに開発が進んでいるBi系酸化物線材に継ぐ次世代線材としてその開発が望まれているが、高度な結晶配向制御を必要とするため長尺線材化技術の開発に多くの年月を要してきた。これまでに多数の製造方法が提案され、数年前から日米欧で国家プロジェクトが立ち上げられて熾烈な開発競争が行われているが、1 m長以上の試料で1 MA/cm2(77 K)級の高特性が報告されているのはフジクラが開発したIBAD法だけである。フジクラでは昨年春にJc=0.4 MA/cm2、長さ10 m長の記録を達成しているが、今回はそれをJc=0.8 MA/cm2、長さ30 m長に向上させたもので、高特性を有するY系線材の長尺化が充分可能であることを実証したと言える。

 Y系酸化物超電導体は粒界弱結合に敏感なことから、できるだけ単結晶に近い高度な配向性が求められるが、次世代線材の開発においては、単結晶的に全軸配向したフレキシブルな基材・中間層を開発することによってこれを実現しようとしている。IBAD法は無配向の耐熱金属テープ上において、イオンビーム照射を用いることにより高度に全軸配向した中間層を成長させるもので、基材金属の結晶性に影響されることなく極めて緻密で平滑な成長表面が得られる。また、結晶粒径が小さいため、統計的に弱結合粒界が線材断面全体を遮断する確率が低いこともわかっている。このため他の方法に比べJcを制限する要因が少なく、最も安定に高特性が得られる方法として期待されている。

 1991年のIBAD法開発当初においては、製造速度が遅いうえに設備メンテナンスに手間がかかったことから長尺線材化は疑問視されることが多かった。近年イオン源の技術水準が飛躍的に向上してきたことから、国際超電導産業技術研究センターのNEDO受託研究“超電導応用基盤技術研究開発”において、フジクラの再委託研究として大面積で連続長時間運転可能なIBAD成膜設備の開発が1999年より実施されてきた。さらに、従来中間層材料として使用されてきたYSZに比べ、配向成長の速度が約2倍速いパイロクロア型構造酸化物(Gd2Zr2O7)が同じくフジクラにより開発された結果、従来比10倍以上の製造速度が得られ、1.0 m/hの製造速度で60 m長、0.5 m/hで30 m長の中間層が製造された。

 超電導層の製造方法については、単純な工程で最も安定して高特性が得られるレーザー蒸着法(PLD法)をフジクラでは採用している。今回製造速度4 m/hで8時間の連続運転を行った結果、30 m長にわたって均一な膜厚0.5ミクロンのY系薄膜が得られた。図1にその概観を示す。中間層製造速度を0.5 m/hとした試料において、77 K自己磁場中で超電導特性を測定した結果、全長にわたってJc=0.8 MA/cm2、Ic=40 Aが得られたほか、一部の長さ10 mにおいてはJc=0.99 MA/cm2、Ic=49 Aが得られた。従来1 MA/cm2(77 K)級のJcが得られた試料の長さは同じくIBAD法中間層とPLD法超電導層を使って米国ロスアラモス研とフジクラが達成した1 m長が最長であり、10 m以上においてこれが達成されたのは初めてのことである。米国では昨年度よりロスアラモス研内に新しい研究センターを発足させ、10 m長の1 MA/cm2(77 K)級Y系線材を開発するプロジェクトが立ち上げられたばかりであるが、今回の成果により日本において先行して目標に到達したことになり、日米で開発競争が続いているY系超電導線材開発に大きな前進があったと考えられる。今後は工学的応用の見地からの期待も高まるものと思われ、IBAD法による線材化については、原理検証段階から実用線材へ向けた開発段階へ進んでいくものと思われる。

 今回の成果と、今後の展望について、開発者であるフジクラ材料技術研究所の飯島康裕主査と柿本一臣主査は以下のように述べている。「Y系線材は事実上単結晶に近いフレキシブルな酸化物テープを作製するという過去に例のない試みであり、IBAD法中間層はその目的に合致した要素を最も多く備えている。線材の開発において最も難しいのは長尺全長にわたって欠陥を入れないようにすることであり、短尺で高特性が得られても線材化は保証されない。気相合成プロセスの技術水準は従来に比べ大きく進展しており、線材製造技術として成立する可能性は充分ある。今後、コスト面も含めどこまで到達できるか挑戦する価値はあると考えている。」


図1 30 m長 IBAD/PLD法次世代線材の外観写真


図2 30 m長Y-123膜の(103)面X線極点図形

               

(FJK)