SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

14. SFQ回路に向けたランプエッジ接合の特性均一化技術
―酸化物系フリップフロップで270GHz動作
_超電導工学研究所_


 国際超電導産業技術研究センター・超電導工学研究所(SRL)の高温超電導デバイスグループはこのたび高温超電導回路の高集積化に向けて、超電導接合の臨界電流特性を均一化する作製技術を確立するとともに、フリップ・フロップ回路で270 GHzの高速動作を達成した。

 SRLではNEDOから委託を受けて実施している「超電導応用基盤技術研究開発プロジェクト」の一環として、高温超電導SFQ回路を作製するための基礎技術を開発している。接合としてはYBa2Cu3O7-x薄膜を用いた、ランプエッジ型の構造を採用している。SFQ回路を高集積化するためには接合の臨界電流を一定の値に揃える必要がある。

 超電導工学研究所第6研究部の安達成司氏、石丸喜康氏、若菜裕紀氏、堀部雅弘氏等が接合の作製条件を詳細に調べた結果、臨界電流の上均一になる主要な要因がYBa2Cu3O7-x下部電極膜の表面が平坦でないことや、析出物の存在にあることをつきとめた。レーザ蒸着やスパッタリングなどの成膜法で、精確に123組成のYBa2Cu3O7-x膜を得るのはきわめて困難である。そこでYおよびBaサイトの一部をLaで置換したYBa2Cu3O7-xをターゲットとして用いたところ、組成のずれを補償でき、平坦で析出物のほとんど存在しない薄膜を作製できることがわかった。

 La置換のYBa2Cu3O7-xを下部電極膜に用い、かつ障壁層の均一化に必要な下部電極膜表面の搊傷層を形成するためのArイオン照射条件や、上部電極の成膜条件なども同時に調べて接合を作製した。この結果、臨界電流分布の分散値1sを100接合で6.5 %まで抑えることができた。

 1sを導くためには測定した接合の臨界電流をすべて読取る必要がある。数百、あるいは千個以上の接合の臨界電流を読取るのは手間と労力の点から上可能である。そこで超電導工学研究所では、接合の1sを自動的に導くことができる、臨界電流(Ic)分布自動評価システムを独自に開発した。このシステムはI-V特性を自動的に測定できるデジタル計測装置と、I-V特性から臨界電流値を抽出するプログラムから構成される。Ic分布自動評価システムを用いることによって、1000個規模の接合列を作製し、逐次1sを導くことができるようになった。1000接合の1s値として、8.5 %が得られている。

 超電導回路の高速性能を実証するために、今回開発された製作技術を用いてフリップ・フロップ回路を作製した(図1)。作製したフリップ・フロップ回路はトグル・フリップ・フロップで、入力信号を左右の出力に振り分ける機能を有する。入力した信号に対して、2分の1の周波数の信号が出力されます。このような入力信号と出力信号の周波数の関係から、今回作製したフリップ・フロップ回路は270ギガヘルツまで動作できることがわかった(図2)。

 超電導工学研究所・田辺圭一第6研究部長は今後の計画について、次のように述べている。「大部分のSFQ回路はグランドプレーン膜を用いないと構成できない。またグランドプレーン膜は配線のインダクタンスを低減するためにも必要である。現在グランドプレーン膜を敷いた回路作製技術を立ち上げている。今後グランドプレーン膜を用いたSFQ要素回路を作製し、これを基礎に100接合規模の機能性を有する小規模回路を開発する」。


図1 t-FFの顕微鏡写真


図2 t-FFの周波数特性

               

(HTS-TOKIWA)