SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

12. 高磁界マグネット用Ta-FRS-Nb3Sn線材の開発に成功
_産総研_


 産業技術総合研究所の梅田政一・近藤潤次・新井和昭・我妻洸・立石裕各研究員による超電導応用グループでは、高磁界超電導マグネット用Ta繊維強化型Nb3Sn線材を研究開発してきた。従来のブロンズ法Nb3Sn線材と同様に超電導特性、歪み劣化特性及び機械強度等の評価を行った結果、Ta繊維強化型Nb3Sn線材は機械的強度が従来のNb3Sn線材の2倊以上で、Nb当たりのJc-Bは従来型Nb3Sn線材と変わらないことがわかった。また、この線材を使用してエポキシ含浸型マグネット(線材と含浸材が1:1)を製作したとき電磁力支持を行うことなく、内径30 cm級15 Tマグネットを製作できることが明らかになった。

 最近は、2種類のTa繊維強化型Nb3Sn線材(表1を参照)の研究を行ってきた。Ta繊維の周りにNb層を設けたフィラメントをブロンズマトリックスに埋め込み、拡散バリアにTa、最外周に銅安定化材を配置した図1(Ta-D線材)の構造と従来のNb3Sn線材の構造で、線材の中心にTaを集中配置した図2(Ta-C線)に示す線材である。

 これらの線材の最適熱処理条件(650℃x192時間)でのIcは14 Tで各々、43,48 Aであった。高磁界におけるJc-B特性の指標となるクレーマプロットを図3に示す。

 これらの線材を100 m以上使用したエポキシ含浸型マグネット(内径80 mm)を製作して、4-14 T磁界中でマグネットクエンチテストを行ったところ、短尺線材のJc-B特性と同じであった。電磁応力・歪みは7 Tバックアップ磁界中で約110 MPa、0.1 %であった。当線材は銅比が0.36と低安定化材の線材であるにもかかわらず安定に動作したのは、エポキシ含浸に欠陥、クラック等がなかった査証である。

 本研究を統括する産業総合研究所梅田政一主任研究員は、「繊維強化型線材の開発意義は、化合物超電導線材を使用した高磁界マグネットでは最後に問題となるのは電磁力支持をどうするかになり、直径がm級以上のマグネットではCIC導体(電磁力支持と電流輸送を分離:大電流導体10 kA以上)ですが、中規模高磁界マグネット(内径10 cm~1 m以下)では線材と構造材一体化で電流容量が自由に選択できる導体が経済的であることから開発意義がある。1 GHzNMR用線材として有望。」と述べている。


図1 Ta分散型Nb3Sn線材(Ta-Dタイプ)


図2 Ta集中型Nb3Sn線材(Ta-Cタイプ)


図3 2種の線材のクレーマプロット


表1 Ta繊維強化型Nb3Sn線材の仕様


図4 液体ヘリウム中の応力・歪み特性(機械的強度は従来型線材の2倊以上:Ta-D)


図5 磁界中における歪み劣化特性(従来型線材より歪み劣化特性に優れている:Ta-D)

               

(産総研ウオッチャー)