SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

10. Nb3Al超強磁場線材で進展:長尺化と新製法
_物質・材料研究機構_


 Nb3Al線材の研究開発が急速に進展している。物質・材料研究機構(NIMS)超伝導材料研究センター(SMC)の金属線材グループ(竹内孝夫リーダー)と強磁場マグネットサテライト(和田仁主幹研究員)は、日立電線、日立研究所と共同で、高分解NMRマグネット内層コイルの有力な候補材料として急加熱急冷変態(RHQT)法Nb3Al線材の開発を強力に推進している。この度1.35 mmまで太径化したNb/Al前駆体複合線材で、これまでの10倊の長さに相当する300 mまで、均一に急熱急冷(RHQ)処理することに成功したと発表した。

 RHQ処理は超高温での短時間熱処理であり、これまでその長尺処理を困難視する向きが一部にあった。しかし、今回、変態処理後に測定したJc (21 T&4.2 K)は長手方向で変動がほとんどなく、そのバラツキは平均値の±5%の範囲に収まることが確認されてその懸念が払拭された。NMRマグネットの接続箇所を少なくするために導体としては2 km以上の単位長が好ましい。今回はそれより短い300 mという長さでの試験結果である(図1)。これは、現在、使用している静水圧押し出し機のビレットサイズから生じるNb/Al前駆体の長さの制限によるとのことである。RHQ処理を担当した日立電線の田川浩平研究員によると「reel-to-reelで移動する線材の通電加熱温度を数℃の精度で一定に制御するのはかなり難しい」。しかし、幸いなことに、1900℃付近でのbcc相NbへのAlの固溶限は25at%以上に拡張しており、少なくともNb-25at%Alの組成ではその固溶域が100℃以上の温度幅を有し、その温度域から急冷する限り過飽和固溶体が単相で生成すること、その結果、変態後のJc, Tc, Bc2がほぼ一定になることが、これまでの共同研究で判っていた。その温度域の中間でRHQ処理すれば、途中で加熱温度が多少変動してもその温度域から逸脱せず、Jc特性がほぼ一定の長尺線の製造が可能になると期待されていた。

 今回の成果は、長尺線のRHQ処理技術の開発が順調に進んでいることを示すものだ。従来の実績は30 mまでであり、その30 m長さのRHQ線材でWind-&-React方式により小コイルを試作し、21.2 Tのバイアス磁場中で金属系コイルとしては世界最高の22.5 Tの磁場発生に成功していた。研究責任者の竹内リーダーは「今回の長尺特性評価は短尺試料を30 m間隔でサンプリングして実施した。300 m全長に渡って線材のJcが本当に均一であることを実証するには、単位長300 m線材で試験用小コイルを試作して、そのコイルの通電特性が短尺試料のIcと一致することを確認しなければならない。」と今後の計画を明らかにした。

 長尺化に加え、Nb3Al線材の高磁界Jcの向上に関する進展も見逃せない。bcc相過飽和固溶体は800 ℃の二次熱処理でA15相に変態する。通常、4時間かけて室温から800℃まで昇温するが、その際、bcc相自身の規則化が上可避で、そのためNb3Al中に多数の積層欠陥が生成してしまう。このためBc2(4.2 K)が本来の30 Tから26 Tまで低下する。これに対し高速昇温と高温変態を特徴とする新しい方法ではNb3Alの高磁界特性の改善が著しい。

 金属線材グループの伴野信哉研究員は「bcc相の規則化をバイパスするため950-1000℃まで素早く昇温しbcc→A15相で解放される変態熱を利用した高温短時間熱処理(変態熱アップクエンチングTRUQ)を行うと、積層欠陥の生成が抑制できる。Jc-B曲線の傾きが変わらずBc2(4.2 K)を29 Tまで向上できる。Cuクラッド安定化線材にも適用できて高磁界でのJc特性が大幅に改善する。」と述べている。また、同グループ菊池章弘研究員は、「reel-to-reelの急加熱急冷を2回繰り返すダブルクエンチングDRHQ法で、TRUQよりさらに高温で短時間変態処理を行うと、Bc2(4.2 K)を30 Tまで向上できる。25 Tでの化合物Jc (4.2 K)は金属系超伝導線として最高の190 A/mm2に達する。」と述べている(図2)。変態後に脆くなった線材でもreel-to-reel処理できるように、DRHQでは、1回目の急冷後にテープ状に圧延し、2回目の急冷では曲げ歪みを軽減する。しかし、そのためにIcは低く抑えられてしまう。1 GHzNMR設計担当の木吉司サブグループリーダーは「現在のコイル設計では通電容量251 A (@23.5 T&1.8 K)を満足するモノリス導体が求められている。DRHQはIcの点で上利かも知れない。しかし、4.2 Kで25 Tまで高いJcを有するので金属系としては極めて魅力的な線材である。今後の展開に十分注意を払いたい。」とコメントしている。

 最後に、AlにCuを少量(2at%)添加することによってもDRHQとほぼ同等のJcの改善が達成されることを報告しよう。Cu添加は過飽和固溶体を上安定化させる。急冷過程ですでにbcc相からA15相への変態が始まり、reel-to-reel処理後は過飽和固溶体でなくA15相が直接生成する。担当の同グループ飯嶋安男主任研究官は「脆いので急冷処理後は機械的な取り扱いに注意しなければならない。しかし、化合物Jcは極めて高く、DRHQと比べて遜色がない。」と述べている。これまで長い間金属系線材の開発に携わってきた井上廉SMC副センター長は「様々な特徴を有するNb3Al線材がこの数年で出揃った。今後は用途に応じてそれぞれが適切に利用されることを期待したい。高磁界特性が顕著に改善する可能性を有するNb3(Al,Ge)についても地道に研究を続け、Nb3Alのように是非ものにしてほしい。」とコメントしている。


図1 300 mRHQT法の長尺均一性確認試験に使用したNb3Al線材の断面写真


図2 各種製法(RHQT:通常の急熱急冷変態法、TRUQ:変態熱アップクエンチング法、DRHQ:ダブルクエンチング法、Cu合金添加法)で作成したNb3Al線材の化合物相あたりの臨界電流密度の磁界依存性の比較。

               

(善良な変態男)