SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002

1. 1000台を超える超伝導フィルターの設置を達成し、更に3G型フィルターの導入を始める
_米国STI社_


 昨年の国際超電導シンポジウム(ISS2001)で、コンダクタス社のBerkowitz博士はHTSフィルターの設置台数が実用化基準である1000台に近づきつつあると講演した(本誌2001年10月号掲載)。米国では、STI(Superconductor Technologies Inc.)、ISCO(ISCO International Inc.)、コンダクタス社の3社がHTSフィルターの開発と設置に凌ぎを削ってきたが、最近STI社単独で1000台の設置を達成したことが報ぜられ、同社が混戦から抜け出したようである。

 SuperconductorWeek誌2001年12月17日号(Vol.15,No.28)によれば、この度STI社は4年に亘る自社製“SuperFilter”HTSフィルターの販売・設置活動の結果、累計設置台数が1000台を上回ると共に累積稼働時間が1200万時間を達成したと新聞発表した。それに続いて、北米一の大無線通信事業者と“SuperFilter”HTSフィルターの最低1000台の売買契約を締結したことも明らかにした。当フィルターの納入は直ぐ始められ、2003年の第一四半期まで続く予定であると云う。当無線通信事業者は、自社通信系統網に於いて新しい基地局と同時に既存基地局の改修を含めて全べて、“SuperFilter”の設置を標準化していると云っている。

 STI社社長のM.P.Thomas氏は、この単一売買契約により前記の既設置台数は1年と少しで二倍になるだろう、全世界無線通信事業界に於いてはHTSフィルターの単一売買契約として今までの最大の物件である、と語った。最近にいたるまで、HTSフィルターは主として田園地域の性能問題のある無線基地局改修のために採用されてきた。当事業者は、過去2年間に亘ってSTI社のシステムを採用して、あらゆる地形条件下で無線通信性能を大幅に改善してきた。大都市地域で最近行われた現地試験のデータによれば、顕著な基地局容量増加と通話脱落率の低下及びその他重要性能の改善が得られたという。STI社の製品がこの大事業者の標準装置に選ばれたことは、急成長している無線通信応用分野において、HTS技術が市場に一層受け入れられるのを加速するだろう、とThomas氏は結論した。

 また最近、STI社は新型のIMT-2000対応 SuperFilter搭上型システムを近く導入することを公表した(SuperconductorWeek誌2002年1月14日号)。これは、当業界初の低温冷却型受信端末装置であり、第3世代(3G)の無線標準を採用する国際市場向けに特別に設計されるものである。このIMT-2000システムは、STI社も参加した3G移動体通信世界サミットで公開された(1月15−18日、日本コンベンションセンター、東京)。当システムは、日本の通信業者が指定した厳しい環境仕様に適合するように設計され、松下電器産業の子会社である松下インターテクノ社を通じて日本市場で販売される予定である。

 この新製品の導入は、製品開発と市場調査において世界的地位を確立しつつあるSTI社にとって非常に重要なマイルストーンをあらわしている。今や、多くの国で多種の製品を提供するというSTI社の目標に一歩近づいている、とThomas社長は語った。日本は、3G技術を採用する先導者であるので、当実施地向けに特別に設計した低温冷却型受信端末装置を導入するものである。最近ヤンキーグループが発行したリポートでは、2002年末までに日本の3Gシステム利用者数は200万人を超えるだろうと推定している。STI社は日本市場に加えて、3G方式を採用しようとする他の世界的通信事業者にアプローチしている、と談話を続けた。

 ヤンキーグループ(ボストン市)の上席アナリストであるP.Marshall氏によれば、将来無線通信が必要とするデータ伝送速度と処理能力比の大幅な増加を達成する為には、次世代ネットワークは信号品質の改良に特別な注意を払わなければならない。データ伝送中心のネットワークは、今日の通話中心のネットワークに比べ極めてエラーに敏感である。サービス品質を同一とすれば、将来のネットワークは顕著なカバー率の欠落を経験するだろう。HTS技術は、3G通信事業者がこれらのカバー率間隙を回避し、総合利用率を向上できるように感度と同時に選択性を付与するものであると言う。

 翻るがえって我が国の状況を見ると、幾つかのメーカーがHTSフィルターを鋭意開発中である。HTSフィルターの実地テストは、NTTドコモやKDDIが実施しているが、実用化を目指す導入には至っていないのが現状である。一方、今秋にもIMT-2000対応3Gシステムの稼動開始が伝えられており、感度と同時に選択性も優れたHTSフィルターの採用に向けて動意が見うけられる。当分野の今後の動向には注目していきたい。

 松下電器産業先端技術研究所の企画推進グループグループマネージャー瀬恒謙太郎氏は、「超伝導デバイスを利用した基地局装置は、省エネルギー、小型化、高感度化などが期待されて研究開発が進められた。しかし、超伝導状態を実現するための冷凍機の長寿命化、小型化が大きな課題となっていた。STIは、その前身として冷却コンプレッサー技術を有したベンチャーとしてスタートした。今回のニュースはそのようなバックグラウンドに基づいて、着実に実用化努力がなされた成果だと思う。日本製コンプレッサーも高性能化が進められており、携帯電話の広帯域高速、大容量通信、および端末の省電力問題も深刻になるという予想とあわせて、日本においても近い将来、超伝導基地局装置の実用化が期待される。」とコメントしている。

         

(こゆるぎ)