高温超電導材料開発は、その実用化に向けて活発な応用開発が進められており、中でもバルク高温超電導体は、その強いピン止め力を利用して大きな磁場が捕捉可能なことから、永久磁石型の超強力超電導バルク磁石としての応用が脚光を浴びている。永久磁石では磁場の強度がせいぜい1テスラ(1万ガウス)程度であるのに対し、超電導バルク磁石では10テスラ以上の磁場発生が可能となる。
比較的広い空間で強磁場を必要とする場合にもバルク超電導磁石の利用は有効であるが、この場合、大型のバルク超電導体が必要となる。例えば、将来、磁気浮上列車用にバルク超電導磁石を利用するためには、直径が15 cm以上のバルク体が必要と考えられている。現状では、プロセス技術の進展によりY-Ba-Cu-O系超電導体で直径が10 cmまでの大型のバルク超電導体の作製が可能となり、マルチシード法などによりそれ以上の大型バルク超電導体が作製された例もある。だがこれら大型のバルク超電導体では、その特性が実用レベルには達していなかった。
また、バルクの大型化に向けて世界中の研究所がバルク超電導体の接合技術の開発を行っているが、数mm程度の小さな試料での接合成功例は報告されているものの、大型化には至っていないのが現状であった。
この度、超電導工学研究所盛岡研究所の飯田、吉岡らは世界ではじめて4 cm径の大きさのバルク体の接合に成功した(図1)。さらに、従来の接合で問題とされてきた接合部に発生する不純物の偏析の抑制に成功し、その結果、接合部分における超電導特性の低下を抑制することにも成功した。本成果の鍵は、従来の研究ではほとんど注目されていなかった、接合するバルク超電導体の接合面の結晶方位に着目したことと、接合部材に母材より低融点を持つ高密度の超電導焼結材のプレートを用いたことにある(図2)。
従来の接合では、接合されるY-Ba-Cu-O超電導体の結晶面は、(100)面あるいは(001)面だけであった。この方位では、接合面から中央に向かって超電導相がエピタキシャル的に成長するため、接合部材の未凝固部に存在する第2相が接合部材中央に押し出され、不純物偏析により良好な接合特性が得られにくかった。しかし、接合面を(110)面に制御したことで、接合部中央に不純物などが偏析しなくなった。また、高密度焼結体を用いることにより、ポア(空孔)の発生を抑制し、接合部においても密な超電導相を得ることに成功した。以上の結果、接合部でも超電導特性に優れたバルクの接合技術が可能となった。
本開発により、バルク超電導体の大型化に途が拓かれたことになる。将来的には10テスラを超える大型の超強力磁石も実現し、強磁場応用が促進されるものと期待される。強磁場応用としては、資源回収や水浄化用の磁気分離装置、励磁装置、MRI(磁気断層撮影装置)用のバルク磁石、磁気浮上装置等への応用開発が進められている。
今回の成果に対して、超電導工学研究所第1および第3研究部長の村上雅人氏は、「接合研究は世界中で行われているが、多くの研究者が見過ごしてきた結晶方位を変えるという着眼が面白い。いまバルク超電導体の応用開発が活発化しているが、ちょうど磁気分離などに応用する際に、もう少し長いものや面積の大きいものができないかという要望が高まっていた時期だけに、さらなる応用開発にはずみがつくものと期待している。」と語っている。
(ハッチ、盛岡)