SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

6. 高温超伝導体中で交差する磁束格子
―新たな磁束状態、デバイスへの応用示唆される
_バス大・東大_


 層状を有する高温超伝導体中では、磁場が層から傾いた状況において、層内の磁束(パンケーキ磁束)と層間の磁束(ジョセフソン磁束)とが交差し、前者と後者で混成された新たな磁束状態の形成されることが、理論的・実験的に明らかにされた。ジョセフソン磁束を用いてパンケーキ磁束を動かすことで電子デバイスとしての応用が期待される。

 高温超伝導体では、大きな異方性のため磁束状態が多種多様に変化することから、今まで多くの研究がなされてきた。特に異方性の大きなBi-2212では、磁場を傾けて印加したとき、c軸方向には三角格子を組んだパンケーキ磁束(図a)が貫き、CuO2面間には楕円形のジョセフソン磁束(図b)が貫くような、“交差格子”状態(図c, d)をとることが現在では広く支持されるようになった。それらの磁束間には引力相互作用が働くため、CuO2面内では、パンケーキ磁束による通常の“格子”状態と、ジョセフソン磁束と交差するようにパンケーキ磁束が並ぶことによる“鎖”状態が共存し、“鎖+格子”状態が実現していると考えられている。

 最近、英国バス大Bending教授グループと東京大学工学系研究科為ヶ井強助教授グループの共同チームは、走査型ホール素子顕微鏡を用いて、パンケーキ磁束がすべてジョセフソン磁束にトラップされているような一次元磁束鎖状態(図e)が実現していることを観測した[A. Grigorenko et al. Nature 414, 728-731 (2001)]。この状態では面内磁場を変化させることで磁束鎖間の距離を自由に変化させることができ、またc軸方向の磁場を変化させることで磁束鎖上のパンケーキ磁束の間隔も変えることができる。さらに興味深いことは、もともとc軸方向に印加していた磁場をゼロにしたのち面内方向の磁場を減少させていくとジョセフソン磁束間隔が拡がり、やがて消失していくが、その過程において面内にピン止めされていたパンケーキ磁束がスイープして取り去られるため、試料を完全に消磁することができるということである。逆に一定の面内磁場に対しc軸方向の磁場を増加させていくと、やがて鎖上のパンケーキ磁束が飽和し鎖間に溢れる様子も観測している(図f)。この状態が“鎖+格子”状態にあたると考えられる。

 このように面内磁場の変化でパンケーキ磁束の位置を自由に動かせることから、パンケーキ磁束の有無を“ビット”と見なした応用デバイスの可能性も期待される。これは異方的高温超伝導体の磁束に対する研究をますます活発化させるような画期的な報告と言えるだろう。

               

(MRT)