SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

5. 強磁場中で溶融金属内にアルフベン波の発振に成功
_吊古屋大学_


 溶融金属に振動、波動を印加すると凝固組織が微細化され、金属の機械的特性として重要な強度、靱性の向上を図ることができる。すなわち高強度の材料を造ることで、例えば自動車等の軽量化、燃費改善に繋げることが可能となる。しかしながら、高温の液体金属に振動、波動を励起するには無接触の液体金属加振法が上可欠であるが、これまでのところ適当な方法がないこと、大量生産プロセスでは振動を加えるべき領域が広いこと、等の理由により実操業においては振動の適用はなされていない。一方、近年の超電導技術の発展に伴い、比較的広い領域にわたって強磁場を発生させることが可能となり、従来実現が困難であった現象の具現化がなされつつある。

 その一つにアルフベン波の発生がある。アルフベン波は強磁場中に存在する電気伝導性流体中を磁力線に沿って伝播する横波で、天文物理学者であるアルフベンがその存在を予言したものである。電磁気力によって運動が誘起されると、その運動によって電流が誘起され、その誘導電流と磁場とで生じる電磁気力によって再び運動が誘起されるといった繰り返しにより振動が流体内を伝播するのがアルフベン波である。その電磁場と運動との相互作用が起きるためには以下に示すLundquist数が1より十分大きいことが必要である。

Lu=Blσ√(μ/ρ)≫1

ここで、B:磁束密度、l:代表長さ、σ:電気伝導度、μ:透磁率、ρ:密度、である。物性値として液体金属の代表値を採用すると、

Bl≫0.1

となる。0.1 mの大きさの容器に入れた液体金属にアルフベン波を発生させる場合には、1 T(Lundquist数が1となる磁束密度)を十分上回る磁場が必要となる。

 アルフベン波の伝播速度は磁場の増加とともに増加し、液体金属の場合、10 Tで100 m/s程度である。伝播速度は波長と周波数の積であるので、大きさ0.1 mの容器内に1波長以上の波動を生成させるためには1000 Hz以上の高周波が必要となる。一方、液体金属は磁気プラントル数が極めて小さい(~10*7)ので粘性搊失ではなく主としてジュール搊によりアルフベン波は減衰する。その伝播距離δは次式で表される。

δ ≈2σB3/ρ3/2μ1/2f2

 但し、fは周波数である。伝播距離は周波数や磁束密度の影響を大きく受けることがこの式からわかる。磁束密度1 Tにおいて、周波数1000 Hzのアルフベン波の伝播距離はミリメートルオーダーとなるので、磁束密度が10倊の10 Tとなれば伝播距離は1000倊のメートルオーダーと長くなる。すなわち、磁束密度が強いほどアルフベン波伝播には有利である。

 従来は比較的大きな空間に強磁場を発生させることは容易でなかったために、高速増殖炉における液体ナトリウム内でのアルフベン波を除けば、アルフベン波の研究はもっぱら宇宙空間におけるプラズマを対象になされてきたため、工学の分野の研究者から注目されることはほとんどなかった。

 この度、吊古屋大学の浅井滋生教授、岩井一彦助教授らのグループはこのアルフベン波が強磁場中に置かれた液体金属内にも存在し得ることを実験で明らかにするとともに、それが工業的に有用な機能を有することを示した。すなわち、超電導磁石内に置いた溶融ガリウム内で圧力測定を行い、アルフベン波の存在を確認するとともに、Sn-10%Pb溶融合金にアルフベン波を印加しつつ凝固させ、結晶粒の微細化に成功した(写真1)。このことは無接触で溶融金属を加振可能であることを示している。

 この実験結果を受けて、フランスのグルノーブル大学にあるEPM-MADYLAM研究所より共同研究の申込があった。当研究所は電気・磁気の機能を活用して材料製造プロセスの開発(材料電磁プロセッシング:Electromagnetic Processing of Materials=EPM)を主課題としており、EPMの分野ではよく知られた存在である。電磁流体の専門家の集団であるEPM-MADYLAM研究所と金属材料製造プロセスの開発に携わる吊古屋大学工学研究科とは補完的関係にあり、今後の共同研究の発展が期待される。

               

(EPM)